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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
ティナ 過去編
50/55

第1話 伝説の戦士の憂い事

この物語はティナとユウトが出会うより前、

昔の話。



────────────────────



「おらぁ!!!」



豪快な一声と共に、斧が唸った。


地響きが走る。


巨大な魔獣の正面から、真っ向勝負の一撃。


魔獣がよろめく。


その瞬間。


「今だ!タイゾウ!」


シンの声が飛んだ。


魔獣の背中に、一閃。


よろめいた巨体の死角から、正確に急所を突く一撃。


「おう!!」


タイゾウは地を蹴った。


高く。


さらに高く。


月を背に、空中で斧を振りかぶる。


そして、落ちた。


轟音。


地面が震える。


魔獣はゆっくりと傾き、音を立てて崩れ落ちた。


粉塵が舞い上がる。


静寂。


「やったな!シン!」


タイゾウは振り返り、にこやかに笑った。



シンは剣を肩に担いだまま、鼻で息を吐いた。


「……Sランク魔獣なんか、俺達の敵じゃないだろ。」


「それに、こんなやつを倒しても……」


「近くの村人が困ってるんだ、やるしかないだろ?」


タイゾウはそれが当たり前のことだとでも言うように、あっさりと返した。


シンはそっぽを向く。


バツが悪そうな顔だった。


タイゾウはその肩に、ぽんと手を置いた。


「それに、意味はあるさ。」


「ほら!」



差し出したのは、紫色に輝く鱗だった。


シンの目が、大きく見開かれる。


「それは……【魔竜】の鱗!?」


「まさか、今の魔獣が……!」


「そう!」


タイゾウは満面の笑みで言った。


「シン……人助けはいずれ巡り巡って、俺達にもいいことが起こるんだよ!!」


「……偶然だろ。」



「ほらほら!そんなこと言わずにブレイビア国王に報告しに行くぞ!!」


タイゾウはシンの背中を強く叩き、有無を言わさず歩みを進めさせた。


「いっ……急に叩くな!」

「細かいこと言うなって!急ごう急ごう!!」



シンの抗議など、どこ吹く風だった。




─────


2時間後。



「ご苦労であった。伝説の戦士、タイゾウとシンよ。」


ブレイビア王城の謁見の間。

白い髭を湛えた国王が、玉座から二人を見下ろしていた。


「お褒めに預かり、光栄でございます!!」


タイゾウは声に出しながら、膝をついた。


隣で、シンも静かに膝をつく。


「して……魔竜捜査の進捗はどうだ?」


国王が白い髭に手を当てながら、二人を見つめる。


「はい!」


タイゾウは討伐の際に回収した紫色の鱗を、丁寧に差し出した。

「【これ】を魔獣討伐の際に回収致しました。」


国王の目が、大きく見開かれた。


鱗を見つめたまま、しばらく言葉が出ない。


数秒後。


国王はゆっくりと目を細めた。


「……魔竜はこの国を、かつて一度壊滅にまで追い込んだ魔獣じゃ。」


低く、重い声。


「シン……タイゾウよ。」


「今そなた達がおるなら、前回のようにはいかぬじゃろう。」


国王の目に、確かな期待の光が宿る。


「この国の未来と希望を……任せたぞ。」


二人は同時に頭を下げた。


「は。」

「ありがたきお言葉、感謝します。」


それだけ伝えて、立ち上がる。


その場を去ろうとした、その時だった。


「そうそう、待て二人とも。」


国王の声が、背中を捉えた。



「頼み事があるんじゃが……。」




─────

数時間後。


ブレイビアの酒場は、夜の賑わいに包まれていた。


木のカウンターに酒瓶が並び、あちこちで笑い声が上がっている。


その片隅で、二人は向かい合っていた。


「おいおい!良かったなシン!!」


タイゾウは酒に酔って顔を赤くしながら、シンの背中をバシバシと叩く。


「お前が国王直々に、【冒険者ギルド】の立ち上げリーダーに選ばれるなんてよ!!」


「……俺は、正直乗り気じゃない。」


シンは俯いたまま、杯を静かに置いた。


タイゾウは察したように、笑みを少し和らげた。



「まあ……そう言うと思ったよ。」

「……!」



シンが顔を上げる。


「ならお前が……!」


「俺は【弟子】を作るって言っただろ?」


タイゾウが静かに遮った。



「だからだよ!!」



シンは盃をガタンと机に叩きつけた。


「俺なんかより、お前の方が人当たりもいい!教え方だって俺より上手い!!」


声が、わずかに荒れる。


タイゾウはその机の上に、そっと手を置いた。


静かに。


「実は……俺…長くはねえんだ。」


シンの動きが、止まった。


「……!」


驚愕。


言葉が出ない。


タイゾウは続けた。


「足も腕も、最近思ったように動かねえ。」


「昔みたいに、お前を吹っ飛ばす力なんて、とっくの昔に以ての外だ。」


「なんで……なんで早くそれを俺に……!!」


シンが声を荒らげかけた、その時。


「言えるわけないだろ。」


タイゾウは薄く微笑んだ。



「俺達の【最強】が崩れちまうからな。」



シンは何も返せなかった。


俯いたまま、ただ黙っていた。


その空気を壊すように。


タイゾウはシンの背中を、また強く叩いた。


「まあ!まだ時間はあるし!!」

「弟子さえ見つかれば、俺の全てを受け継げるからな!!」


明るい声。

明るい笑顔。


まるで何でもないことのように。


「……なら、お前はこれからどうする?」


シンが、少し暗い顔で尋ねた。


「少しブレイビア辺りで、若くて良さそうなヤツを探してみるよ!」


タイゾウはハツラツと答えた。


「人も多いしな!!まあすぐに見つかるだろ!!」

その朗らかな声が、酒場の喧騒に混じって消えた。



─────

数日後。


ブレイビアの大通り。


行き交う人々の中で、タイゾウは一人ぽつんと立ち尽くしていた。


往来する商人。


走り回る子供たち。


露店の呼び込みの声。


街は騒がしい。


なのに。




「全然見つからん!!」




タイゾウの叫びが、大通りに響いた。


通りがかりの人々が、ぎょっとして振り返る。


タイゾウは頭を掻きながら、盛大にため息をついた。


「まあすぐ見つかるとか、言うもんじゃなかったな……。」


雲一つない青空を見上げる。


弟子を探し始めて、数日。


候補を見つけては近づき、近づいては断られ。


伝説の戦士と呼ばれたこの男が、弟子探しには全く歯が立たなかった。


「どんな奴がいいんだろうな……。」


空に向かって独り言を零す。


強い奴。


向上心のある奴。


真っ直ぐな奴。


「まあ、会えば分かるか。」


タイゾウはもう一度だけため息をついた。


それから、また歩き出した。


大通りを。

人混みの中を。

まだ見ぬ誰かを探して。

伝説の戦士は、今日も途方に暮れていた。

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