表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第4章 ブレイピア決戦
49/55

第25話(4章最終話)新たなる旅立ち

朝日が、ギルドハウスの宿舎に差し込んでいた。


オレンジ色の光が窓から伸びて、床に長い影を作っている。


「よし、行こうか。」


ユウトはカバンの口を締めながら、ティナに声をかけた。


「うん。」


ティナは短く答えて、ユウトに買ってもらったリュックを背負い直した。


それから、ユウトを見つめた。


準備は、できていた。


戦争が終わって、二十日ほどが経った。


王国外に避難していた国民のほとんどが戻ってきて、商店街も住民街も、少しずつ以前の賑やかさを取り戻していた。


その間、ユウトとティナは復興の手伝いのために国中を駆け回っていた。


瓦礫を片付け、物資を運び、傷ついた人々の元へ向かった。


戦後もまた、激動の日々だった。


二人は窓の外を眺めた。


朝日に照らされたブレイビアの街並みが、静かに広がっている。


ユウトは少しだけ、懐かしむような目をした。


ティナも同じだった。


数秒の沈黙。


「……せや。」


ユウトがハッとしたような顔になった。


「まだやることあったわ。」




─────

ある部屋の前に、二人は立っていた。


ユウトがゆっくりと扉を開ける。


白い天井。


薄手の病室用の服を着た茶髪の女の子が、ベッドの上で毛布を握りしめながら座っていた。


「アルナ……。」


ユウトが声をかけながら、一歩踏み込んだ。


「来ないでっ!!」


鋭い声が飛んできた。


ユウトの足が止まる。

数秒後。


毛布を強く握りしめながら、アルナは小さく懇願した。


「来ないで……お願い……。」


以前とは、違っていた。


虚空をただ見ているだけではない。


今のアルナは、現実に押しつぶされないように、必死にもがいていた。


毛布に、水滴が落ちた。


一粒。


数秒後、それは連続して落ちていった。


まるで、窓の外の明るい景色を否定したいかのように。


それでも。


ユウトは歩き続けた。


「来ないでって言ってるでしょ!!」


枕が飛んできた。


毛布が投げられた。


それでも、止まらなかった。


アルナは困惑していた。


なぜなら。


ユウトが泣きながら、抱きついていたからだった。


「ごめんっ……!」


嗚咽が混じる。


「俺が弱いばっかりに!!」


「みんなを、守れなかった!!」


「……アルナや仲間たちに、ちゃんと向き合えてなかった!!」


アルナの身体が、固まった。


「なんで……。」


震える声。


「なんでユウトが謝るのよおっ……!!」


今まで堪えていたものが、崩れた。


涙が溢れる。


止まらない。


その瞬間。


上から、小さな重みがかかった。


ティナだった。


小さな体を精一杯に使って、上から覆い被さるように


二人を抱きしめていた。


「大丈夫。」


静かな声。


「アルナは、一人じゃない。」


「ティナぁ……ユウト……。」


アルナの嗚咽が、部屋に響いた。


しばらく、誰も何も言わなかった。

ただ、三人が重なり合っていた。


数分後。


アルナの呼吸が、少しずつ落ち着いてきた。


ユウトはゆっくりと離れ、アルナの肩に手を置いた。


真っ直ぐに、目を見る。


「ライトは。」


はっきりと。


「俺達が必ず……取り戻したるわ!!」


アルナは涙を拭った。


真っ赤な頬のまま、でも。


口元が、少しだけ緩んだ。


「……うん!!」


短く、力強く。


「待ってるから!!」


その言葉が、部屋に残った。



─────

数時間後。


荷物をまとめたユウトとティナは、王国の正門前に立っていた。


朝の光が、二人の背中を照らしている。


「ユウトさぁーん!!また魔法のお話、聞かせてくださいねー!!」


アスミの高い声が響いた。


「達者でな!」


ラセツの低い声。


「元気にしてろよ!バカヤローー!!」


レッカが怒鳴る。


「ブレイピア国民はいつでも貴殿らを待っておるぞー!!」


国王が声高らかに叫んだ。


「ユウト!君のお陰で自分自身を見失わずにすんだよ!ありがとう!!」


ユーリの声も混じる。


ギルドの冒険者たち。街の住民たち。


みんなの声が、ユウトとティナを包んでいた。


「おう!!おおきにな!!!」


ユウトは思いっきり叫んだ。


声が、青空に響いた。


それから、ティナに顔を向ける。


「さ、いこか。」


二人が歩き出した。


だが。


数歩で、ユウトの脚が止まった。


ティナが振り返る。


「ユウト?」


ユウトは俯いていた。


数秒後。


「ごめん、ティナ……。」


掠れた声。


「みんなと会えなくなるの……やっぱ、寂しいわ。」


ティナは少し笑った。


「じゃあ、みんなに元気もらうしかない。」


ユウトは目を大きく開いた。


それから、すぐに表情が変わった。


くるりと、みんなに背中を向ける。


親指を立てた。


「ごめんみんな!!」


「足が止まってしもうたわ!!」


「……だから、背中押してくれ!!」


民衆がどっと笑った。


「ったく……。」

「しゃーねぇなぁ。」

「ユウトらしいな。」


暖かい、呆れ声が広がる。


数秒後。


ユウトの背中に、衝撃が走り始めた。


国王の大きな手。

ユーリの穏やかな手。

アスミのぺちんとした手。

レッカの容赦ない手。

ラセツの重い手。

冒険者たちの手。

街の人たちの手。


次々と、背中を叩いていく。


そして最後に。


小さな手が、そっと背中に触れた。



「ユウト……いってらっしゃい。」



アルナだった。


ユウトの肩が、わずかに震えた。


振り返らなかった。


「……おう!!」


それだけ答えた。


二人は駆け出した。


みんなの声が、少しずつ遠くなっていく。



「いってらっしゃーい!!」

「元気でなー!!」

「また来いよ!!」



声が、風に溶けていく。


その時だった。


二人の背中に、衝撃が伝わった。


二つ同時に。


ユウトとティナは振り返った。


誰もいない。


ただ、朝の光が降り注いでいるだけだった。


それでも。


確かに見えた、気がした。


大柄な男の影。


そして、黒髪の青年の影が。


一瞬だけ。


そこにあった。


二人は顔を見合わせた。


それから、また前を向いた。

駆けていった。




─────


一時間後。


王都ブレイビアの外れの林道を、二人は歩いていた。


木漏れ日が揺れて、鳥の声が遠くに聞こえる。


静かだった。


「ユウト……ずるい。」


ティナがぼそりと言った。


少しだけ、拗ねていた。


「……!」


ユウトはすぐに察した。


「あぁ、ティナはこれやろ?」


拳を、突き出す。


ティナの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


満足そうに、自身の拳をユウトの拳に突き合わせる。


コツン。とだけ音が鳴る


その小さな音が、林道に響いた。


二人はそのまま歩き続けた。


木漏れ日の中を。


風の中を。



また一つの冒険が終わり。

二人の道を指し示す、新しい道が見え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ