第21話 継ぐ者達・決着
ガキィンッ!!
青白い剣が、黒い爪と激突する。
火花が散る。
ユウトは弾かれながらも踏みとどまり、すぐに踏み込み直す。
魔空の剣が走る。
イデアは身を捻って躱し、カウンターの衝撃波を放つ。
「——ッ!!」
ユウトは横に跳んで回避した。
着地と同時に、また踏み込む。
斬る。
弾かれる。
また斬る。
終わりの見えない剣戟が、崩れた王城の廊下で続く。
その時だった。
⸻
ガキィンッ!!
背後から、金属音。
イデアの動きが、一瞬だけ止まる。
片腕が、横に伸びていた。
その先に、剣を押さえつけられながら。
ユーリが立っていた。
「——ユーリ!!」
ユウトが叫ぶ。
ユーリの全身は、もう原形を留めていない。
鎧は砕け、血が止まらない。
それでも。
剣を手放さなかった。
「……ユウト」
掠れた声。
ボロボロの顔で。
ユーリはユウトを見た。
「……僕は。」
一息。
「……【託された】んだ。」
そして。
口元だけ、わずかに緩んだ。
「君も……そうだろ?」
ユウトの目が、大きく見開かれる。
シンの声が蘇る。
ゼイトの笑顔が。
ライトの拳が。
全部が。
一瞬で。
胸の奥を貫いた。
「——ッ」
その瞬間だった。
⸻
ぐちゅ、と。
鈍い音。
イデアの腹部に。
短剣が、突き立てられていた。
「——ッ!?」
イデアが目を見開く。
振り返る。
そこに立っていたのは。
片腕が、あり得ない方向に曲がっていた。
全身が血まみれだった。
息が、今にも切れそうだった。
それでも。
短剣を握る手だけは。
離さなかった。
レッカだった。
「勝手に……カッコつけてんじゃ……ねぇぞ。」
肩を揺らしながら。
一言ずつ。
絞り出すように。
言葉を吐く。
「お前らだけで……終わらせてたまるか……。」
イデアの表情が固まる。
そこにあるのは、明確な驚愕。
「……貴様」
低く。
だが。
数秒後。
それは。
怒りに変わった。
「貴様らニンゲン風情がァ……!!」
魔力が爆ぜる。
「ワタクシの前でイキがるなよ!!!!」
衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
全員が弾き飛ばされ、瓦礫の上を転がる。
イデアの身体が浮き上がる。
崩れた天井の向こう。
夜空へ。
上空へ。
「……終わりにしてやりますよ。」
両手に。
膨大な魔力が集まり始める。
黒い光が。
空を染める。
死の予感が。
全員の肌を刺した。
⸻
だが。
戦場において。
冷静さを失った者には。
必ず、隙が生まれる。
「……雷神斬。」
静かな声が。
上空から降りてきた。
「——ッ!!!!」
イデアの背中が。
深く。
断ち切られた。
「——なぜ。」
イデアが振り返る。
そこにいたのは。
白い髪。
赤い瞳。
「なぜアナタが……!!」
「……私は…まだ立てる。」
ティナはただ、斧を構え直す。
「ま……まさか……このワタクシが……。」
イデアの表情に。
初めて。
焦りが浮かんだ。
その顔が。
みるみる歪む。
生まれたのは明確な、
隙。
⸻
「——全員!!」
ユウトが叫ぶ。
瓦礫の上から立ち上がり、レッカとティナを見る。
「行くで!!」
レッカが立ち上がる。
折れた腕を庇いながら。
それでも。
剣を握る。
ティナが降りてくる。
着地。
二人の視線が交わった。
レッカが口を開く。
「ガキ。」
「……なに。」
「遅れんじゃねぇぞ。」
ティナは一拍置いた。
「……誰が?」
「お前だろうが。」
「……うるさい。」
「「行くぞ!!」」
二人の声が重なった。
⸻
地を蹴る。
同時に。
レッカは右から。
ティナは左から。
一直線に。
上空のイデアへ向かって。
跳ぶ。
高く。
さらに高く。
夜空へ。
月を背に。
二人の身体が交差する。
赤い長髪と白い髪が。
風を裂いて。
螺旋を描く。
レッカの剣に。
赤い魔力が絡みつく。
ティナの斧に。
白い雷光が纏う。
「「——雷神斬・双龍!!!!」」
赤と白の斬撃が。
同時に。
イデアを。
十字に。
切り裂いた。
轟音。
爆発。
衝撃波が夜空を割る。
ただ、静寂のみがその場を支配していた。
⸻
イデアは。
落ちていた。
十字の傷から。
黒い血が溢れる。
肉体が。
ゆっくりと。
朽ちていく。
「魔王……さ……ま……。」
掠れた声。
それだけを残して。
⸻
全員が。
肩を揺らした。
荒い呼吸が重なる。
「……終わった、か。」
レッカが呟く。
「……終わった。」
ティナが答える。
ユウトは膝をつきながら。
深く息を吐いた。
「……終わっ——」
その時だった。
⸻
どす黒い光が。
イデアの肉体から溢れ出した。
「——ッ!?」
全員が息を呑む。
光は膨れ上がる。
脈動する。
「ならば…」
「……ワタクシごと。」
朽ちていくはずの口が。
動いた。
「滅ぼす……までだァ!!!!」
自爆。
その一言が全員の頭を貫いた。
「逃げろ!!」
レッカが叫ぶ。
だが。
遅かった。
どす黒い光が。
全員を包み込む。
逃げ場はない。
回避できない。
「——くそっ!!」
「——ッ!!」
「——あか……ん……」
爆発する。
そう思った。
その時。
⸻
ぐちゅ、と。
鈍い音が鳴った。
どす黒い光の中心に。
一本の剣が。
突き立てられていた。
「——ッ!!」
イデアの動きが止まる。
その影を見た瞬間。
ユウトの時間が止まった。
「……ユウジ。」
声が出なかった。
「ユウジ!!!」
叫ぶ。
ユウジは振り返らなかった。
どす黒い光の中心で。
剣を両手で握りしめながら。
ただ立っていた。
「ユウジ!なんでや!!なんでお前が——!!」
「バカな兄貴のケツを拭くのは。」
ユウジが口を開く。
血が滲む唇で。
「弟の仕事だろ?」
笑みを浮かべていた。
「な……ぜ……ユウジさん……裏切るの……です
か……。」
どす黒い光の中。
掠れた声が響く。
イデアだった。
「ハッ。」
ユウジは鼻で笑った。
「なあイデアぁ。」
剣をさらに深く押し込む。
「俺は最初からお前のことが嫌いだったんだよ!!」
「さあイデア!!」
叫ぶ。
「俺と一緒に地獄行きだなァ!?」
「やめ……ろ……」
イデアの声が震える。
「やめなさい……!!」
どす黒い光が、ユウジの剣へと吸い込まれていく。
だが。
止まらない。
「ユウジ!!」
ユウトは踵を返した。
ふらつく足で。
走る。
「やめろ!!やめてくれ!!!」
叫びながら。
手を伸ばしながら。
距離が縮まる。
あと少し。
あと少しで。
届く。
「——ユウジ!!」
その時。
ユウジが振り返った。
血まみれの顔で。
笑っていた。
あの日の拳と同じ。
あの病室の笑顔と同じ。
「じゃあな、兄貴。」
爆発した。
⸻
激しい轟音。
光が全てを飲み込む。
ただ、白。
そして。
静寂。
⸻
どれくらい経ったか。
粉塵が晴れる。
更地になったブレイビア王城に。
夜風が吹いた。
イデアの残骸が。
黒い塵となって散っていく。
そして。
その中心に、一本の黒い剣が。
静かに突き立てられていた。
ユウトは。
その剣を見ていた。
立ち上がれなかった。
立ち上がりたくなかった。
ただ
「……ユウジ。」
呟く。
返事は…なかった。
夜風だけが。
静かに吹き抜けた。




