第20話 奥義
「行くで。」
ユウトの目が、レッカとティナを捉えた。
言葉はない。
視線だけで、全てを伝える。
レッカは小さく頷いた。
ティナも静かに頷いた。
作戦は、シンプルだった。
レッカとユウトが前に出て、イデアの懐に入り込む。
そして、一瞬の隙を作る。
その隙に、ティナが雷神斬を叩き込む。
それだけだった。
⸻
「——行くぞ!!」
レッカが消えた。
瞬歩。
加速神域が展開される。
青白い魔法陣が廊下を染める。
ユウトも踏み込む。
二人が同時にイデアの懐へ潜り込む。
「……ほう。」
イデアの目が細まる。
レッカの剣が左から走る。
ユウトの魔空の剣が右から走る。
「——ッ!!」
ガキィンッ!!
ガキィィンッ!!
イデアは両腕を交差させて受け止めた。
だが、二人は止まらない。
弾かれながら、また踏み込む。
斬る。
また弾かれる。
また斬る。
幾重にも渡る剣戟が、廊下に炸裂する。
火花が散り、石畳が砕け、壁が抉れる。
「速い……!!」
イデアの爪が応戦する。
だが追いつかない。
「……面白い。」
笑みを浮かべながらも、その体から血が止まらない。
「——ッ!!」
二人を同時に弾き返そうと、イデアが両腕に魔力を込めた。
その瞬間だった。
「——風刃!!」
廊下の奥から。
掠れた声。
青白い風の刃が、一直線にイデアへ向かった。
壁にもたれながら。
ボロボロの身体で。
ユーリが剣を構えていた。
「——ッ!!」
直撃。
イデアの動きが、一瞬だけ止まる。
たった一瞬。
だが。
ティナには十分だった。
「……雷神斬。」
静かに。
呟いた。
地を蹴る。
空へ。
高く。
斧が、雷光を纏う。
蒼白い光が廊下を照らす。
そして。
落ちた。
⸻
轟音。
激しい爆発音と共に、床が砕ける。
イデアの背中から、鮮血が溢れた。
「——ッ!!!!」
初めて。
イデアの口から、声にならない叫びが漏れた。
床に叩きつけられる。
粉塵が舞う。
静寂。
数秒後。
ゆっくりと。
よろめきながら。
イデアが立ち上がる。
衣服は裂け、肉が露出し、再生が追いつかない傷が全身を覆っている。
「……まさか。」
低く。
呟く。
「アナタ達がここまでだとは……。」
裂けた口が、震えるように歪む。
「どうやらワタクシも本気を出すしかないみたいですねぇ……。」
その言葉が落ちた瞬間。
イデアの両手に。
膨大な魔力が集まり始めた。
空気が変質する。
廊下全体が、禍々しい黒に染まっていく。
「——まずい。」
ユウトの肌が粟立つ。
レッカも、ティナも、同時に息を呑んだ。
「みなさん!!こっちに!!」
アスミの声が廊下に響いた。
両手を広げ、魔法陣を展開する。
結界を展開しようとしていた。
「早く!!」
全員が動く。
ユウトが走る。
ユーリがアスミの肩を借りて走る。
国王が走る。
アスミが抱えたアルナも結界の中へ。
だが。
「——間に合わない!!」
レッカが叫ぶ。
彼女とティナが結界に辿り着く直前、イデアの魔力が解き放たれた。
「——ッ!!!!」
爆発。
黒い爪撃が、王城全体を包み込んだ。
イデアの究極魔術【魔爪死円陣】。
壁が砕ける。
天井が落ちる。
床が抉れる。
結界の中でも、衝撃が全身を叩く。
「——くっ!!」
ユウトは結界の壁に手をついて、踏みとどまった。
その外では。
王城が、轟音と共に崩れていった。
⸻
粉塵が、ゆっくりと晴れる。
静寂が、場を支配した。
どこかで、石が転がる音がした。
「……父上!!」
ユーリの声が響いた。
瓦礫の中から這い出すように、ユーリが動く。
その視線の先に。
国王がいた。
瓦礫の下から結界の外へ出ていた国王は、頭から血を流しながら、ユーリを庇うように覆いかぶさっていた。
「父上!!父上!!」
ユーリが抱き起こす。
王の息が、乱れている。
それでも。
震える手が。
ユーリへと伸びた。
「父上……なんで……なんで俺を……。」
涙が、ユーリの頬を伝う。
嗚咽が混じる。
王は、血に濡れた顔のまま。
目の前で泣きじゃくる息子を見つめた。
「馬鹿者。」
掠れた声。
だが、確かに。
「息子も守れぬ父親が……どこにいる。」
ユーリの肩が震える。
「父上……っ。」
言葉が続かない。
王の手が、ユーリの頬に触れた。
⸻
その光景を。
遠目で見ながら。
イデアは、両腕を広げた。
ボロボロだった。
衣服は焼け、傷が塞がりきらず、再生が追いつかない箇所まである。
それでも。
「どうでしたか?」
高らかに、叫ぶ。
「ワタクシの【魔爪死円陣】は?」
一拍置いて。
周りを見下ろし。
「……と、効果バツグンみたいですねぇ……。」
苦笑するように、笑みを浮かべた。
その瞬間だった。
ガキィンッ!!
激しい金属音。
「——ッ!?」
イデアは弾いていた。
気づいた時には。
ユウトが目の前に立っていた。
魔空の剣を振り抜いた姿勢で。
「ユウトさん。」
イデアは距離を取りながら、首を傾けた。
「何故アナタが怒る?」
静かな声。
だが。
ユウトは答えなかった。
ただ、剣を構え直す。
その目に。
怒りと。
悲しみと。
覚悟が。
全て混ざり合っていた。
イデアは。
その目を見て。
何かを確信したように。
ゆっくりと両手を掲げた。
黒い魔力が、再び膨れ上がる。
「国王は瀕死……そして役者も揃いました……。」
廊下の崩れた天井から、夜空が見える。
月が、白く輝いていた。
イデアの裂けた口が。
大きく開く。
「さあ!!!」
声が、夜に響き渡る。
「最終局面と行きましょうか!!!」




