第19話 潜入の真相
「ティナさーーーん!!待って〜!!」
廊下の奥から、声が響いた。
アスミが全力で走ってくる。
眼鏡を押さえながら、息を切らしながら、それでも全力で。
「もう!!早すぎます!!」
ティナはアスミの方をちらりと見た。
「……アスミ。遅い。」
「遅いじゃないですよ!!」
アスミは頬を膨らませた。
「ティナさんが早すぎるんです!!まだ治療も終わってないのに!!」
「……問題ない。」
「問題大ありです!!」
ぷんぷんと怒りながら、アスミは周囲を見渡した。
その視線が、壁にめり込んだユーリを捉えた瞬間。
「——ユーリ様!!」
顔が青ざめる。
「ユウトさん、ユーリ様が——」
「分かってる。」
ユウトは膝をつきながら、アスミを見た。
「早く治療してくれ。頼む。」
「は、はい!!」
アスミが駆け寄ろうとした、その瞬間。
イデアの爪撃が閃いた。
「させませんよ。」
静かな声。
だが。
ギィンッ!!
青白い光が、爪撃を弾き飛ばした。
魔空の剣。
ユウトの手が、震えていた。
それでも。
剣は。
揺れなかった。
アスミはユーリの側に膝をつき、治療魔法の魔法陣を展開しながら。
ちらりと、ユウトを見た。
「……ユウトさん」
「魔力、限界ですね。」
「……ばれてたか。」
「隠せてません。」
アスミは迷わなかった。
治療魔法をユーリへ流しながら、もう一方の手をユウトへ向ける。
「使ってください。ありったけ。」
「でも、お前が——」
「いいんです。」
きっぱりと。
「今は、それより大事なことがあります。」
膨大な魔力が。
ユウトへと流れ込んでくる。
温かい。
「……ありがとう。」
ユウトは小さく呟いた。
数秒後。
全身に、魔力が満ちる。
ゆっくりと立ち上がる。
レッカを見る。
ティナを見る。
二人が頷いた。
「行くで。」
⸻
加速神域が展開される。
魔法陣が、廊下を青白く染めた。
「——ッ!!」
レッカが消える。
瞬歩。
神速の斬撃がイデアの右肩を裂く。
「——ッ!!」
ティナが踏み込む。
斧が唸る。
左から、横薙ぎの一閃。
イデアの脇腹を抉る。
「——ッ!!」
ユウトが魔空の剣を走らせる。
空間ごと断ち切る一撃が、イデアの左腕を掠める。
三方向からの同時攻撃。
血が舞う。
イデアは後退しながら、爪撃で応戦する。
だが。
「速い……!!」
防ぎきれない。
レッカの剣が、また走る。
ティナの斧が、また唸る。
ユウトの剣が、また空間を裂く。
廊下が、血と魔力で塗り替えられていく。
「——ッ!!」
イデアは両腕を交差させた。
レッカの剣とティナの斧を、同時に受け止める。
鍔迫り合い。
火花が散る。
二人の力がぶつかり合う。
「……やるじゃないですか。」
笑みを浮かべながら。
だが。
その背後。
気配。
「——ッ!?」
ユウトが、背後に立っていた。
魔空の剣を。
首元へ。
向けて。
一息。
「——終わりや。」
振り下ろす。
その瞬間。
「やめてくれ!ユウト!!」
声。
もう聞けないと思っていた。
その声。
ユウトの手が。
止まった。
⸻
イデアの姿が。
変わっていた。
黒髪。
明るい笑顔。
あの日と同じ顔。
「……ライト」
ユウトの喉が鳴る。
「……っ」
剣が。
震える。
その隙を、イデアは逃さなかった。
「——ッ!!」
衝撃波が爆ぜる。
三人が同時に弾き飛ばされる。
壁に叩きつけられ、石畳を転がる。
「……ぐっ」
「くそっ……」
「……」
三人がそれぞれ体を起こす。
ライトの姿をしたイデアは。
その顔のまま。
優雅に肌をポリポリと掻いた。
「やはりこの体は便利ですねぇ。」
裂けた笑みが。
ライトの顔に浮かんでいる。
その違和感が。
余計に気持ち悪かった。
「そのおかげで魔族の私でも、容易にこの王城に入れました。」
ティナの目が細まる。
ユウトは歯を食いしばった。
「なんで……」
声が、震える。
「なんでその姿なんや!!」
怒りが胸の奥から。
溢れてくる。
イデアは答えない。
代わりに。
手を掲げた。
魔法陣が展開される。
その中から。
人影が。
床に放り出された。
「——っ!!」
茶髪。
ローブ。
アルナだった。
誰も言葉が出なかった。
国王が。
足を震わせながら。
一歩前に出た。
「まさか……」
低く。
絞り出すように。
「その姿で……その魔法使いを唆したのか?」
イデアは振り返った。
そして。
にこりと笑った。
「ご名答。」
一拍。
「この魔法使いも実力はまあまあありましてね。」
アルナを見下ろす。
「城の結界を通り抜けるくらいなら、造作もない様でしたよ。」
その言葉が。
廊下に落ちた。
重く。
冷たく。
その時。
床に倒れていたアルナの指先が、動いた。
まぶたが、ゆっくりと開く。
虚ろな目が。
ライトの顔をしたイデアを見つめた。
「ライト……ライト!!!」
叫ぶ。
「私、上手くやれたよね!!」
その声は。
どこか空虚だった。
笑っているのに。
泣いているような。
壊れているような。
「ええ。」
イデアはライトの顔のまま、微笑んだ。
「十分に役立ちましたよ。」
次の瞬間。
爪撃が、アルナへ向かった。
「クソっ!!」
ユウトが飛び込む。
魔空の剣が爪撃を弾く。
「ユウトさん!!」
アスミの声が響く。
「アルナさんをこっちへ!!」
ユウトはアルナを抱え、アスミの元へ滑り込ませた。
アスミが即座に治療魔法の魔法陣を展開する。
「アルナさん、聞こえますか!!」
アルナは虚ろな目のまま。
ただ、ライトの姿をしたイデアを見つめていた。
ユウトは立ち上がる。
胸の奥に。
怒りと。
やるせなさが。
ぐるぐると渦巻いていた。
友人の姿を利用した。
精神の崩れた仲間を操った。
それがどれほどのことか。
この男には。
分からないのだろう。
「……絶対に。」
低く。
静かに。
呟く。
「絶対に、終わらせる。」
魔空の剣が青白く
輝いた。




