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隻腕の斧少女と、転生者の旅  作者: Ao114535
第4章 ブレイピア決戦
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第16話 禁術の子

――少し、昔の話。


ブレイピアの王城に。


一人の男の子が生まれた。


金色の髪。


整った顔立ち。


王の一人息子。


国中が、その誕生を祝った。


だが。


誰も知らなかった。


その子が最初から。


壊れていたことを。




「また……息が」


木剣が、地面に落ちる。


膝をつく。


空気が入らない。


胸が、焼けるように痛い。



「ユーリ様!!」



付き人が駆け寄る。


ユーリは手を振って、それを制した。


「大丈夫……少し休めば」


「大丈夫じゃございません!!」


「お医者様を——」


「いい」


短く遮る。


また、同じことを言われる。


分かっている。


剣を振るえば、息が切れる。


魔法を使えば、意識が飛ぶ。


何度やっても。


変わらない。



城の窓の外。


鎧を纏った騎士たちが、整列して行進している。


その姿をユーリは毎日、見ていた。


「……僕も」


誰にも聞こえないように。



「あんな風に、なれたら」



だが、剣を拾おうとした手が。


震えて。


また、落とした。



ある日。


王が、一人の女の子を連れてきた。


「ユーリ、紹介しよう」


王は珍しく、朗らかに笑っていた。


「今日からお前の魔法の先生だ」


女の子はオレンジ色の長髪を揺らして。


元気よく頭を下げた。



「アスミです!!よろしくお願いします!!」



ユーリと同い年。


だがその目は。


魔法に対する好奇心で、爛々と輝いていた。



「……よろしく」



ユウトは短く返す。


「ほら、早速やってみましょう!!」


アスミは構わず、掌に炎を灯した。


次に風。


次に水。


くるくると変えながら。


「すごいでしょ!?」


「……うん」


「やってみたい!?」


「……できないから」


「大丈夫ですよ!!」


根拠のない自信。


だが。


その笑顔は。


不思議と、嘘に見えなかった。




最初はやはり、駄目だった。


掌に魔力を集めようとするだけで、目眩がした。


「無理だって言ったのに……」


「もう一回!!」


「でも——」



「もう一回です!!」



アスミは諦めなかった。


毎日。


毎日。


飽きもせず。


炎を見せて。


風を見せて。


「ほら、こうやって魔力を指先に集めて」


「こう……?」


「そうです!!」



三日目。

指先が、微かに光った。


「……あ」


「できてます!!」


アスミが飛び上がって喜んだ。


ユーリはその光を。


ただ、見つめていた。


胸の奥が。


じわりと。


温かくなる。



五日目。


風の基本魔法が、形になった。


「すごい!!天才じゃないですか!!」


「お前の方が天才だろ……」


「私は努力の天才です!!ユーリ様は才能の天才です!!」


「意味わからん……」


笑っていた。


気づいたら。


笑っていた。


剣を見るたびに感じていた、あの痛みが。


魔法を見るたびに感じていた、あの苦しさが。


アスミといると。


消えていた。





だから。

その日のことは。


鮮明に覚えている。



「ユーリ様、次はこれを——」


「——ッ」


喉が、焼ける。


口の中に。


鉄の味。



「ユーリ様!?」



アスミの声が、遠くなる。


地面が近づく。


「誰か!!誰か来てください!!」


叫び声。


足音。


それから。


白い天井。




後日。

アスミは病室の扉を開けた。


そこには別人がいた。


頬がこけて。


肌が青白く。


呼吸のたびに、胸が小さく揺れるだけ。


「……ユーリ様」



付き人が、静かに説明した。


「もともと……長くは生きられない御体でして」


「この年まで生きてこられたこと自体が……」


声が、続かない。


隣では。


王が顔を伏せていた。


肩が震えている。


「ユーリ……ユーリ……ユーリ……」


名前を。

ただ、繰り返している。



アスミは。

その場に立ち尽くしていた。




気づくと。


走っていた。


城の廊下を。


石畳を。


王立魔術図書館の扉を、勢いよく開ける。


「絶対に……絶対にある」



息を切らしながら。


棚から本を引き抜く。


読む。

次の本。

読む。

また次。

夜が来ても。

朝が来ても。

眠らない。



「ある……あるはずだ……」



目が霞む。

それでも。

読む。



「……あった」



震える手で。

ページを押さえる。



「これなら……これなら、できる」




だが。


病室の扉を開けた時。


そこは。


空だった。


ベッドだけが、残っていた。


アスミは窓の外を見た。


大勢の人だかりが。


王城へ向かっていた。


その中心に。


大きな箱。


「……あれは」


神父の声が聞こえた。


鐘の音が聞こえた。


それが何を意味するか。


アスミには。

分からなかった。



─────



教会の扉が、静かに開かれた。


神父の声が終わり。


鐘の音が。

遠くなっていく。


棺桶が、ゆっくりと運ばれていく。


アスミは。

その列の端で。

ただ、歩いていた。




王城の裏手。


静かな墓地。


土が盛られる。


石が置かれる。


名前が刻まれる。




【ユーリ・ブレイビア】



その文字を、アスミはただ見ていた。



人々が。


一人、また一人。


去っていく。

王は最後まで残っていた。


だが


側近に促されるように。


その場を離れた。


気づけば。


墓地には。


アスミだけが残っていた。


何分。

何時間。

地面に座ったまま。

泣いていた。



「間に合わなかった……」

「全部……全部、遅かった……」



声にならない声で。

泣いていた。



その時。


気づいた。


「……あれ」



涙を拭う。


「埋めてから……まだ、そんなに経ってない」


立ち上がる。


「死後、魔力が完全に消えるまでには……時間がかかる」


「なら」


土を見る。


盛られたばかりの。


柔らかい土を。


「まだ……間に合う!!」



手で。


掘り始める。


爪が割れる。


手が血まみれになる。


それでも。



掘る。

掘る。

掘る。



棺桶の蓋をこじ開ける。

そこには、ユーリがいた。



以前の面影が何一つない。


青白い顔。


動かない胸。


だが


「……まだいる」



魔力が、微かに残っている。

アスミは震える手を、ユーリの胸にかざした。



息を吸う。



「——詠唱、開始」





ユーリの体が、宙に浮いた。


次の瞬間。


四散した。


肉片に。


骨へと



「——ッ!!」



アスミは目を逸らさない。


数秒。


それらがゆっくりと。


集まり始める。


再構築される。


形を取り戻す。



「……おねがい」



アスミの体から。


膨大な魔力が。


溢れ出す。


全身が。


燃えるように熱い。


「おねがい…おねがいっ…!!」



その魔力が。


ユーリへと。


流れ込んでいく。


視界が。


白くなる。


意識が。


遠のく。



それでも。


最後の瞬間。


アスミは見た。


ユーリの胸が。


小さく上下するのを。




「……良かった」



地面に倒れながら。

笑っていた。






「——本当だったのか……」



王の声が。


廊下に落ちた。


震えている。


信じたくない。


だが信じないわけにも。


いかない。


イデアはその光景を見て。


黙っていた。



ただ、観察している。


ユーリは一歩、前に出た。


剣を。

静かに納める。



そして。


片膝をついた。



「……隠していて」


「本当に申し訳ございません」


「父上」



その声は。


震えていなかった。


ずっと。


覚悟していたように。



「私は」



顔を上げる。


王を。


まっすぐに見る。


「アスミの魔力と……禁術によって」


「生きているんです」


沈黙。


王は。


何も言えなかった。


イデアが。


静かに口を開く。


「お分かりですね、陛下」



廊下に冷たい声が響く。



「この国の騎士団長は」



「禁術によって生み出された」


「いわば……存在してはならない命」



一歩。

近づく。


「それを知りながら」


「隠し続けた王と」


「騎士団長」



裂けた口が。

歪む。



「どちらが……より罪深いのでしょうねぇ」



廊下に。


重い静寂が満ちる。


ユーリは。


立ち上がらない。


ただ。


片膝をついたまま。


王を見ていた。


その目に。


後悔はない。


恐れもない。


ただ。


一つだけ。


「父上」


静かに。


言葉を継ぐ。



「私は」

「この命が……禁術で作られたものだとしても」

「後悔はありません」



王の肩が震える。


「ただ」


一拍。


「アスミに」


「一度も……礼が言えなかったことだけが」


「悔やまれます」


その言葉が廊下に。


静かに落ちた。


イデアは。


その様子を見て。


小さく笑った。



「さて」



両手を広げる。


「感動的な再会はここまでにして」


魔力が。

膨れ上がる。


「続きを……始めましょうか」



廊下の空気が。

一気に重くなった。


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