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第一話

 公開討論会が終わってしばらくして、ヤハラ国で産業スパイ対策に関する法律ができた。


 不正な情報取得とその利用に歯止めがかかり、芸術都市ジャンボの芸術家の一部は罪を認めた。


 これまで彼らが創作してきた作品の情報経路が洗い出されて、どこから出てきたものなのかが公になった。やはりベルーセ村で略奪された情報を使った作品が、いくつかあった。


 芸術都市ジャンボの人々は、略奪──違法な情報取得に関わった創作物に背を向けた。最初は一部の人々が忌避するだけだったが、「真っ当に制作された芸術に光を!」を合言葉に、次第に大きなムーブメントになっていった。


 広場に虹ができるほど大きく水を吐き出していた噴水が、ちょろちょろとした水量に変わっている。剥がされたポスターが風に乗って飛んでいく。ポスターには色のついたチョークで、大きくバツ印がつけられていた。誰かのイタズラだろう。


 シアはそれを複雑な表情でながめながら宿に帰る。バッシングを見るのは、あまり気分のいいものではない。略奪や違法な情報利用を行った芸術家であっても、ざまあみろという気持ちにはならなかった。不正行為に関わった芸術家たちがことさら醜い姿に描かれた作品があふれていた。


 シアはただ、ベルーセ村で起きた痛ましい事件をそっと追悼した。公開討論後、シアはぴたりと演説をやめた。


 宿の扉を閉めて、買ってきた食料をリュックに詰める。食料品店の女主人が、「あんた、公開討論会を見たよ! あんたが演説してくれなきゃ、あたしたち、騙されたままだったよ!」と熱く語っていたのを思い出す。シアの手は自然とゆっくりしたものになった。


「アルドくん、出立の準備、できた?」

「ああ」


 荷造りを終えて、宿代の支払いを済ませると、二人はジャンボの乗合馬車の停車場に向かった。


 馬車に乗り込んで二日ほど、山道に向けて進んだ。シアとアルドは山の麓で降りると、ゆっくりと山道を歩き出す。


 木々が風にざわめいて、木漏れ日が揺れている。小鳥のさえずりに耳をすませながら、シアはアルドにぽつりと話した。


「ねぇ、アルドくん。ジャンボでやらかした芸術家たちが、バッシングされてたじゃない? あれ、どう思った?」

「当然の報いだ」

「……そっか。私はね、ちょっとだけ、これでよかったのかなって思っちゃったよ」

「なぜ?」

「産業スパイへの対策ができたから、多分もう、ベルーセ村での略奪みたいなことは起きない。ヤハラ国のハト派も、ハッシャ国も略奪を非難してるからね。そのことはうれしいんだ。そこは勘違いしないでね。だけどさ……ああやって吊し上げて、大勢で人を追い込むようなやり方、私は好きじゃないんだよ」


 アルドは肩で息をしはじめたシアの荷物を一つ受け取りながら、首を傾げた。


「連中が、シアやベルーセ村にしてきたことじゃないか」

「そうなんだけどさ。バッシングされるの、結構しんどいから。……違法に取得した情報を利用して作品を作った人たちも、いつか真っ当に芸術を作ってくれたらいいなって、思ってるよ。彼らはやらかしたけど、芸術の腕を磨いてきたのは本当じゃん? その努力を、全部否定する気にはなれないな」


 久しぶりの山道だ。シアは手を当てて、腰をうんと反らした。


 水筒に入れた水を飲み干す。乾いた喉を降りていく水気が心地いい。


「そうか」

「真っ当に芸術を作ってきた人が評価されるのは当然だし、それが一番いい。だけど、やらかしちゃった人たちも、心を入れ替えてがんばってほしいな。……アルドくんには、手ぬるいって言われそうだけど!」

「ああ。敵が戦意を失うまで、打ちのめすのが騎士だ」

「じゃあアルドくんと私、二人でちょうどいいね」


 シアの言葉にアルドは小さく笑うと、落ちていた大ぶりの枝を渡した。


「杖に使え」

「ありがと。……もしも私がおとぎ話に出てくるような魔法使いだったら、ひょーいとベルーセ村に移動できたのかな」


 山道を杖でこつんと突ついて、シアはまだまだ続く道を見上げた。

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