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病死という名の自殺  作者: 傘花
第二章
8/13

2-1

小説の更新情報は下記の傘花SNSよりご確認いただけますಠωಠ


Instagram:@kasahana_tosho



  2



 「墓参りに行きたい。一緒に来られる日はあるか」


 酒井から届いたそのメールを一度保留にして、私は次の休みに父方の祖母の家を訪ねた。


 棚の奥に仕舞われた卒業アルバムを引っ張り出す。


 時代を感じる白黒の写真の数々。その一つに、真顔の浩介を見つける。


 視線を少し下げると、すぐに「酒井」の文字が私の目に飛び込んできた。


 酒井。酒井勝久。


 結婚式の時の写真と同様、世の中の何がそんなに気に入らないのか、と言いたくなるような顔で、酒井はこちらを睨みつけている。


 それでも面影はあった。結婚式の時のようなきっちりとした姿ではなく、少し癖づいた髪をそのまま短く整えている髪形は、今の酒井ととても良く似ている。


 2人が同級生であるというのは本当。あとはわざわざ旧友に会いに来て、詐欺でも働こうとした不届き者ではないかという問題だが…。


 そもそも浩介には余りあるほどの資産は存在しない。葬式代と、敦子がすぐ困らない程度の現金が口座に残っていたくらい。あとは彼に掛けられていた安い額の生命保険。


 それに、遺産目的で木下家に来たのであれば、私ではなく敦子に声をかけるはず。


 酒井への疑いは完全には晴れていない。けれど、ひとまず彼の誘いに乗ってみては良いのではないかと、そんな風に思えてくる。


 迷ったまま、私は酒井のメールに返信をした。


 墓参りは次の日曜日。宝と風花を連れて行って良いかと尋ねると、酒井は快く了承した。


 当日、私が運転する車で浩介の眠る霊園と向かう。


 自宅から1時間半。家族そろって向かうには、最早小旅行のような距離だ。


 たどり着いたのは、富士山が綺麗に見える広大な霊園だ。その奥地にある合同葬に、浩介は眠っていた。


 石碑に刻まれている多くの名前の中から、酒井はすぐに友人の名前を見つけ出す。窪みに指を沿わせて、彼は僅かに眉を顰める。


「……これだけ沢山の人が一緒にいてくれれば、淋しくはないですね」


 そうポツリと言う酒井から目を逸らすように、私は線香に火を灯す。


 その言葉の裏に彼自身の哀しみを見た気がして、居た堪れないような感覚がした。


「どうでしょう。社交的じゃなかったし、向こうでも一匹狼かも」

「確かに」


 鼻を鳴らして笑う酒井は、懐かしい過去を思い出しているのだろうか。


 墓参りを終えて、私達は霊園内にある公園への向かった。長い移動ですっかり飽きていた風花が、一目散に遊具へと駆けていく。その背中を宝が追う。


 私はそれを近くの椅子に座って眺めていた。すると酒井が、「どうぞ」とコーヒーの入った紙コップを手渡してくれる。「ありがとうございました。このような場所では、一人で来るのは大変だったと思うので」


「広い霊園ですよね。桜の季節になると道路沿いが一気に桜並木になって綺麗なんです。鬱蒼とした雰囲気がなくて、凄く澄んでて、お墓っぽさがないのが好きなんですよね」

「浩介が、ここが良いと?」

「はい。母方の親戚のお墓があるんです。近くに観光地もあるので、旅行がてら毎年来ていたので」

「皆の墓参りついでに、旅行ついでに来てくれれば、というのが、何とも浩介らしいですね」


 酒井からもらったコーヒーを啜る。苦い味がのどの奥へと流れていく。


「……酒井さんは、どうして父が亡くなったと気付いたんですか?」


 遊具で楽しそうに遊ぶ風花とそれに振り回される宝の背中を見つめたまま、私はそんな疑問を口にしていた。


「亡くなってはいないと、信じてお訪ねしたんですけれどね」

「そう言えばそうでしたね」


 コーヒーを啜る音が聞こえてくる。小さなため息と共に酒井の言葉は続く。


「メールをもらっていたのです。1年前に、浩介から。亡くなる数日前です」

「メール、ですか」

「私、スマホやパソコンはてんで駄目なんです。以前に機種変更をした際に設定を色々変更していたら、メールが見れなくなってしまって。急な連絡は全て電話でかかってくるので、困りはしなかったのですが、それ故にすっかり存在を忘れてしまいました」


 酒井がジャケットの胸ポケットから折られた紙を取り出す。それを広げながら、彼は私に手渡してくる。「これも私の元部下が印刷してくれたものです。一人では印刷もできないくらい機械音痴なもので」


 紙を受け取って、私は皺を少し伸ばす。


 急に連絡をしてしまってすまない、とそんな言葉から始まっていた。


 10行程度の淡々としたメール。そこには、長らく会えていないことを惜しむ言葉や感謝の言葉、そして家族のことが綴られていた。


「……なんだか、遺書、みたいですね」

「静波は勘が良い子だから余計なことまで考える。そう、浩介が心配していました」


 ゆっくりと文字を追う。メールの最後の方に自分の名前を見つけて、視線が止まる。


 ーー特に娘の静波は、俺に似て余計なところまで深く考え込んでしまうところがある。それ故に、本当であれば気付いてほしくないところまで、気付いてしまうやもしれない。


 ーーそうなった時、どうか、勝久があの子の力になって欲しい。

次回投稿は3/11(水)

を予定しております。

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