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病死という名の自殺  作者: 傘花
第三章
12/13

3-3

小説の更新情報は下記の傘花SNSよりご確認いただけますಠωಠ


Instagram:@kasahana_tosho

 なるほど。そういうことか。


 治療は成功したが、心臓がほとんど動いていないと当時説明を受けた際、その意味があまり理解できなかったのだ。


 それは敦子や涼佑にとっても同じだったようで、「本当は手術が失敗したのを隠してるんじゃない?」などと敦子が毒付いていたことを思い出す。


 きっともう、ここに運ばれてきた時点で残された時間はほとんどなかったのだろう。


 酒井が静かにカルテを捲る。血液検査や心電図の紙と見比べて、何かを考えるように押し黙っている。


「この、左主幹部閉塞、というのは、割合的によく起こるものなのか?」


 暫くして、酒井がそう言った。


「それ自体は、特別珍しいものではありません」

「それ自体、は?」


 院長の言葉の違和感を、酒井が鋭く突きつける。


 左主幹部閉塞、というもの自体は珍しいわけではない。


 その言葉の何が、酒井にひっかかったのだろう。


「もう、何か取り調べを受けているみたいで怖いですよ。冠動脈左主幹部の閉塞自体はよくあります。ですが大抵の場合、そうなる前に何かしらのサインが出ていると思います」


 何かしらのサイン。


 ふと、敦子の言っていた「浩介が足を痛がっていた」という言葉を思い出す。


 心臓とは離れた場所だが、これもサインだったのだろうか。


「足が痛くなる、とかですか?」


 おそるおそる尋ねると、院長はゆっくり頷く。


「間欠性跛行ですね。十分あり得ます。心筋梗塞というのは動脈硬化が進んでいるとなり易いのですが、冠動脈の動脈硬化が出ているということは、全身の血管で動脈硬化が進んでいた可能性が高いです。勿論、足の血管でも。それで痛みが出ていたのでしょう」

「でも、父は整形にはかかったと」

「よくある見逃されてしまうケースですね。整形的には異常なしと診断されてしまうので、痛み止めを処方されて終わりということはよくあります。けれど、痛みが続くようなら循環器に紹介してくれる整形の先生がほとんどだと思いますよ」


 病院に行っても意味がない、治らない。


 生前、浩介はそんな言葉を敦子に漏らしていた。


 だから、浩介はそのまま足の痛みを放置し、結果的に心筋梗塞まで至ってしまったのだろうか。


「他にも、息切れや動いたあとの胸の痛みもサインとしてはあります」


 息切れや動いたあとの胸の痛み。


 胸の痛みがあれば素人でも心臓を疑う。けれど敦子は、浩介が循環器内科にかかったとは言っていなかった。


 それは、そもそもそんな症状すらなかったのか、既にその頃には医者という存在を信用していなかったか。


 今となっては分かりようがない。


「そうか……わかった。ありがとう」


 酒井の顔を見上げる。


 変わらす神妙な面持ちだけれど、何かを納得したように、ゆっくりと頷いていた。


「私から聞くことはもうないけれど、静波さんは」

「あ、いえ、私ももう大丈夫です。お忙しいのに、ありがとうございました」


 院長に頭を下げて、酒井とともに病院を出る。


 駐車場に停めてある酒井の車に戻りながら、私は小さく息を吐いた。


「結局、父の怠慢が招いた結果ってことですよね。サインは出てたのに、それを放置した」


 私の言葉に、運転席の扉に手をかけた酒井が「え?」と返事をする。


「え?」

「どうしてそれが、浩介の怠慢になるのですか?」

「だって、足が痛いのはわかってたわけですよね。それでちゃんと病院には行ってる。でも治らなくて、医者が信用できなくて、自分で勝手に通わなくなっちゃったわけでしょう?それは怠慢ですよ」


 驚いた顔で私を見た酒井が、開きかけていたドアを閉める。


「確かに、病院に行かなくなってしまったのは事実でしょう。けれどそれが怠慢だったかどうかはわかりません」

「でも、父は母に病院に行っても意味がない、治らないって言ってたって」

「それは、敦子さんが浩介からそう聞いた、という一面でしかありません」


 酒井の言葉の意味がわからなくて、私は首を傾げる。


「静波さん。貴方が浩介の死に違和感を覚えたのは、何故ですか?何が、浩介らしくなかったのですか?」


 何が?


 それは、浩介が敦子の言うような「病気を認めたくなかった」などという理由で自らを蝕む病を放置するような人だとは思えなかったから。


 そして、浩介の部屋には、自分が心臓の病気かもしれないと気付いていたかのような書籍が残されていたから。


「でも、院長先生、言ってたじゃないですか。こんな状態になる前に、何かしらのサインが出てたんじゃないかって。それに気付いたのに、わかってたはずなのに無視したってことは、やっぱりただ病院が嫌で、信用できなかったからじゃないかって……」


 言葉が止まる。頭の片隅で、浩介と涼佑が喧嘩を始めたからだ。


 自分の考えがいかに論理的で正しいのかを、持てる知識を総動員して2人が言い合いをしている。


 足が痛くて、整形外科に行って、けれど何ともないと言われてしまって、浩介は他の可能性を探したのだろうか。


 整形ではないなら、何だったのか。

次回投稿は4/4(土)

を予定しております。

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