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病死という名の自殺  作者: 傘花
第三章
10/13

3-1

小説の更新情報は下記の傘花SNSよりご確認いただけますಠωಠ


Instagram:@kasahana_tosho



  3



「相変わらず、立派な病院ですね……」


 巨大な国立病院を見上げて、酒井は大きなため息をついた。私も「高茶宮センター病院」と書かれた看板を見上げ、共に息を吐く。


 まず浩介が亡くなった病院を訪ねてみようと言い出したのは、勿論酒井だった。


 心筋梗塞だったことを疑っているわけではないが、もう少しその時の状況を詳しく知りたいと。


 それを知ったところで何になるのか、私にはいまいち理解ができなかったが、とりあえず酒井についていくことにしたのだ。


「酒井さんご存じなんですか?」

「昔、少し付き合いがあったもので」

「私はこんなじっくり見るのは初めてです。凄く大きな病院ですね」


 こうして病院を見上げていると、浩介が倒れた時のことを思い出す。


 あの時は毎日慌ただしくて、病院を眺めている余裕などなかった。


 気持ち的に、と言うのもそうだが、純粋に時間がなかったのだ。


 それくらい目まぐるしく、浩介の容体は変化していたから。


「循環器の権威の先生がいらっしゃるとか。実家から行ける距離でしたし、明らかに心筋梗塞の症状が出ていたようで、救急隊員の方がこちらで受け入れてくれるように頑張ってくれたみたいです」

「そうでしたか」

「でも、今更当時の病状なんて教えてくれますかね。大きな病院だし、忙しいだろうし、もう1年も前の話だし」

「まぁ、ご家族なので問題ないでしょうが、どうでしょうね」


 病院の規模に圧倒され躊躇してしまうけれど、見物しに来ただけで帰るわけにもいかない。


 被っていたキャップ帽を小脇に抱え、意を決して、私は酒井と受付へと向かう。


「では、診療情報開示申請手続きをお願いします」


 至極当然のことのように、事務員の女性がそう言った。


 まるでそれが拒否の言葉のように聞こえて、意気込んで病院に足を踏み入れ私の思考が一旦止まる。


 診療情報開示申請手続き……?


 診療情報を見せてもらうための手続き。


 それもそうか。亡くなっているとは言え、患者の情報は個人情報だ。そんなものが口だけで家族だと言う相手に、やすやすと見せられるはずがない。


 受け取った書類を私は呆然と見つめる。


「これって、申請が通るまでにどれくらい時間がかかるんですか」


 恐る恐る、私は事務員の女性に尋ねる。


 ちらりとこちらを見て、すぐに手元に視線を戻した彼女は、患者でもない面倒な客が来たのだとでも思っているのかもしれない。


「1ヶ月程はかかると思います」

「1ヶ月、ですか……」


 書類を握りしめて、私はよろよろと近くのソファーに腰掛けた。


 こんなに気合を入れてやってきたのに、拍子抜けしてしまった。


「なんか、無駄足みたいになっちゃいましたね」


 呟くように私が言うと、ソファーに座らず腕を組んで何かを考えていた様子の酒井が「そうですねぇ」と答える。


「大きい病院なので、その分手続きも煩雑なんでしょうね。いくつもの部署に確認してもらわないといけないのかも」

「まぁ、間違った人の診療情報を出してしまったら、大問題ですもんね……でも1ヶ月って」


 また出直さなければならない。いくつか書類も集めてこないといけないようで、そのために敦子のところに行く必要もありそうだ。


 また宝と予定の擦り合せをしなければ。


 考え始めると、どっと疲れを感じてくる。


 溜息をついて頭を抱える私とは裏腹に、酒井は組んでいた腕をゆっくりと下げた。


 にやりと含みのある笑みを浮かべて、彼は口を開く。


「1ヶ月待つのも構いませんが、せっかくなので、私の権力とやらを利用してみましょう」


 権力?


 呼び止める暇もなく、そのまま酒井は再び受付の方へと歩いていく。


 事務員があからさまに迷惑そうな顔で彼を見上げていた。


「まだ何か」 


 けれど酒井はそんな事務員の対応に物怖じすることなく、笑顔で口を開く。


「本日、院長はいらっしゃいますか?」

「院長、ですか?」

「はい」

「どのようなご要件でしょうか」

「いらっしゃるか、いらっしゃらないか、どちらですか?」


 笑顔のはずなのに、全く優しさが見えない。その凄みに、話を聞いているだけの私が息を呑む。


 事務員が瞬きをして、けれどすぐにはっとしたように受話器を手に取る。


「おりますが、ご要件は」

「警視庁の酒井が来たと、お伝えを」


 何やら、ドラマのワンシーンを観ているような気分だった。

次回投稿は3/21(土)

を予定しております。

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