092 -Aono-
律の説得の仕方は頼りなかったが、律の母親が心の広い人だったので、蒼乃は律の家に泊まれることになった。
「蒼乃ちゃん、ごはんは食べた?」
「あ、いえ、いきなり押しかけちゃったのでお構いなく……」
「いいのいいの! 律の分が余ってるから食べてちょうだい」
そんな流れで、蒼乃は律の母親と律の姉である蓮と食卓を囲むことになった。律はこんな時に彼女を置いてシャワーを浴びに行ってしまった。
「蓮、あんた、蒼乃ちゃんに寝間着貸してあげなさい」
「え、どうして私が」
「蒼乃ちゃんの身長じゃ、律の服は小さいでしょうよ」
確かに身長で見れば、律より蓮の方が蒼乃に近い。
「それに律の彼女ならあんたの妹みたいなもんなんだから優しくしなさい」
律の母親に対する蒼乃の好感度が上がった。
「私はそもそも高校生のカップルがお泊りするのは反対なんですけど!」
「あんたも隠れて彼氏の家行ってたでしょ」
図星を突かれた蓮は黙った。律の母親は強い。クセ強な姉妹を持てば、強くもなるのか。
「蒼乃ちゃん、貸すのはジャージでいい?」
「はい。ありがとうございます、お姉さん」
「私はあなたの姉じゃないから」
さすがシスコンなだけあってガードは硬い。
相沢家の味を覚えようと、蒼乃は全ての料理を吟味した。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
食器を片付けようとすると、律の母の静止が入る。
「いいよ、こっちでやっておくから。律の部屋に行ってなさい」
「ありがとうございます」
蒼乃が二階に上がると、なぜが蓮も一緒についてきた。
「何かご用ですか?」
「蒼乃ちゃんが律の部屋で変なことするかもしれないから見張りに」
思っていても口に出さないでほしい。蒼乃は作り笑顔を浮かべて言い返した。
「何もしません。姉妹であっても勝手に部屋に入るのはやめた方がいいですよ、お姉さん」
蒼乃は律の部屋に入り、蓮が入るよりも先に後ろ手でドアを閉めた。明かりをつける。蒼乃が来ることを想定していなかった部屋は散らかっていた。
しばらく部屋の中を観察していると、バタバタと階段を上る音がして、律がドアを開いた。
「見られた……」
「散らかってるのは予想してたから大丈夫よ」
「私の気持ち的に大丈夫じゃないんだなぁ。あ、そうそう。お姉ちゃんのジャージ預かってきたよ」
「ありがとう。先に歯磨きさせてもらっていい?」
面倒くさいことを先に済ませようと蒼乃は考えていた。
「いいよ。一緒に歯磨きしよ」
石鹸の香りがする律と並んで洗面所で歯磨きをする。毎日この光景を見たい。できれば律の歯も磨いてやりたかったが、いつ蓮が出没するか分からないので時短を優先させる。
口内をさっぱりさせて律の部屋に戻ったところで、蒼乃は肩苦しい制服からジャージに着替えようとする。
「律。私の制服脱がして」
「脱がっ!?」
律は変なところで言葉を切るなぁと思う。
「ジャージに着替えるから。脱がして」
脱がすと言っても、ネクタイとカーディガンとシャツとスカートとタイツだけだ。
「ネクタイの外し方、分かるでしょ?」
毎日自分で外しているはずだから、分からないと言われる方が困る。
律は目を左右に泳がせながら、ネクタイに手をかける。何度か詰まったけれど、難なく解くことができた。カーディガンも問題にならない。シャツはボタンを外す時に手が震えていた。
「スカートも外し方分かるでしょ。早くして、風邪引いちゃうから」
律の震える手がスカートのホックにかかる。ホックを勢いに任せて外して、勢いよくチャックを下げた。そこまでは波に乗れていたのに、スカートを下げるという動作はもたついた。それもそのはず、目を閉じているのだから。
「律、タイツも。このままじゃジャージ着れないわ」
「タイツっ……。タイツ……それはぁ……」
律の顔が真っ赤になってしまった。これ以上は無理そうだったので、蒼乃は自分でタイツを脱ぐ。律は顔を手で覆いつつ、多分隙間から見ていた。
律が手を出してこなかったので、蒼乃は蓮が貸してくれたジャージを着た。大きさは大丈夫そうだった。
「蒼ちゃん、ちょっと片付けるから漫画でも読んでてくれる?」
まだ顔の赤い律が漫画本を手渡してくる。前に蒼乃が読みたいと言ったものだろう。
「片付けは別にいいから、今日の分の勉強をしちゃいなさいな」
「でも……」
「ほら、さっさっと終わらせて。待ってるから」
律を勉強机の前に座らせて、蒼乃は借りた漫画を手にして律のベッドに寝転ぶ。今日はさすがに洗濯をしていないのか、律の香りが強い。
律が貸してくれた漫画は出てくるキャラがどれも顔のいい女の子ばかりだった。律も面食いなのかもしれない。
普段蒼乃が読むジャンルとはまったく違うストーリーだったので、漫画自体は新鮮だった。ただ、目の前に律がいるというのに触れられないのはもどかしい。テスト前だから仕方がない。……テスト前だというのに、遥はとんでもないことをしてくれた。
「蒼ちゃん、ここ教えて」
「どこ?」
蒼乃は体を起こし、律の横に立ってノートを覗き込む。情報の勉強をしているようだった。
「この関数とこの関数をあわせればできるわ」
「なるほど。ほんとに蒼ちゃんはなんでもできるねぇ」
律がシャーペンを走らせる。律の真横まで来ると蒼乃も我慢ができない。邪魔になることは承知だったが、座る律の後ろから彼女の首元に抱きつく。
「蒼ちゃん、漫画は読み終わったの?」
「二巻まで読んだから」
布団の匂いだけでは満足できなかったので、蒼乃は律本体の匂いを嗅ぐ。
「私のことは気にしないで勉強を続けてちょうだい」
「気にはなるなぁ、さすがにねー」
再び律がシャーペンを動かし始めた。蒼乃もかまわずに律の頭に顔を埋める。いつもより律の香りが強い。早く律を甘やかしたいので、勉強をとっとと終わらせてほしい。
◆ ◆ ◆
「終わったー!」
律がペンを机に投げ出す。立ち上がろうとしてきたので、蒼乃は腕の力を緩めた。外しはしない。
「蒼ちゃん、ちょっと待ってね」
蒼乃の腕を外し、律が部屋の外に出て行く。トイレかなと思ったけれど違った。
「お姉ちゃん! やっぱりいた……いい加減にして!」
律が怒るところなんて見たことがないので、新鮮な気持ちで蒼乃は会話を聞いていた。
「姉妹だからってやっていいこととダメなことがあるんだよ。お願いだからかまわないで」
ドアが力強く閉められ、律が戻ってくる。
「ごめんね、蒼ちゃん。お見苦しいところを」
蒼乃は律に借りていた漫画を返す。そしてついでに聞く。
「律は好きなキャラクターとかいるの?」
「いるよー」
「どれ?」
律は「えっとね」と言いながら二巻目を開こうとする。それから思い出したように顔を上げた。
「蒼ちゃんが一番だよ」
「漫画のキャラクターに嫉妬したりしないから。教えて」
律が教えてくれたのは、髪の長いお姉さんキャラクターだった。ちなみに二巻の終わりで死ぬキャラだった。
「髪は長い方が好きなの?」
「そうね、どちらかというと長い方が好みかもしれないけど、蒼ちゃんが髪を切ったって好きでいるよ」
蒼乃の髪を律が撫でるように触る。「さらさら〜」なんて笑うものだから、蒼乃は律を抱き上げた。そのままベッドの上に連行する。
寝転がる律の上に蒼乃も乗っかる。
「うぉ、重い……」
「失礼なこと言わないの」
これでも標準体重よりは軽い。
「律、いい匂いする」
懲りずに蒼乃は律の頭の香りを嗅ぐ。どんどん香りに惑わされていく。
「やっぱり律がモテるということが証明されたわね」
「いや……それは……」
「遥はいつから律のことを好きだったのかしらね。ずっと思わせぶりな態度で辛かったでしょうね」
蒼乃の下で律が唸り声を上げる。
「律のことを好きって相手も知ってるってことは、少なくとも中二の時点では想いを抱いていたってことよね」
自分で口に出してて恐ろしい。遥の考えていることは理解しかねるが、出会いのタイミングは運命だなと身に沁みる。
至近距離で律の顔を伺うと難しい顔をしていた。
「遥のこと考えてる?」
「そりゃこんな話されたら考えるよ……」
「そうよね。でも私が上書きしてあげるから」
重いと言われたので、蒼乃は体を引き上げて四つん這いになる。
「律は私のことだけ考えて」
蒼乃は律の唇を奪う。焦らすつもりで舌は引っ込めたままだったが、珍しく律の方から差し出してくれる。蒼乃は喜んでその舌を絡め取る。
律の腕が蒼乃の背中に回される。蒼乃の心拍数が上がっていく。何度律を抱いても胸の高鳴りには慣れない。
「律……」
彼女の名前を呼びながら、律の上着をまくり上げる。下着をつけていない。
「律って普段は下着をつけないの?」
「うん……家で寝る時はつけない」
「なるほど」
いいことを聞いた。蒼乃は一度手を抜き、部屋着の上から律の胸を撫でる。確かに硬い感触がなかった。
「私の胸なんて触って楽しい?」
「楽しい」
蒼乃は即答した。楽しい。嬉しい。気持ちいい。やらしい。そんな気持ちになる。
「律だって私の胸触るじゃない」
「蒼ちゃんのは大きいから……」
「大きさなんて関係ないから」
布越しの触り心地は堪能したので、蒼乃は再び服の中に手を入れる。律は胸を触られるより、脇腹を撫でられる方がいい反応をする。
蒼乃は右腕を律の脇腹を擦り、顔は律の胸に直接埋める。隣の部屋に姉がいるせいか、律の声はいつも以上に控えめだった。蒼乃は悔しい。
「律、何で我慢するの?」
「親もいれば姉もい、ひゃっ!?」
優しく脇腹から背中に向かって指を這わせると可愛い声が出た。
「ご両親は下の階でしょう。大声ではしゃがない限り聞こえないわよ」
「お姉ちゃんは隣にいるからー!」
「いいじゃない。盗み聞きする人には聞かせておけば」
蒼乃は律の細い腰を丹念に触る。ゾワゾワしているのか、律が小さく震えている。もう可愛くて仕方がない。
「来週までお預けかと思ってたけど、まさかこんな機会を得るなんてね」
ふと、蒼乃はこの前のカラオケのことを思い出し、律の右手首を左腕で捕らえる。爪の形は綺麗だし、指も細くて長い。美味しそうだと思い、蒼乃は口に含んだ。
「蒼ちゃん?」
指を舐めたことがあっても舐められたことのない律はきょとんとしていた。蒼乃が関節にあわせて舌を這わせると、律は「ひっ」と小さな声を出した。
「指を引っ込めないで」
蒼乃は左手を無理やり引く。律を逃す気はない。
舌を這わせるごとに律の顔が赤くなっていく。感じてくれているのがありありと分かるので蒼乃は嬉しかった。
「……っ、蒼ちゃん……」
蒼乃は一度律の指から口を外すが、舌を伸ばして爪先から手のひらまでを舐めた。緊張して手汗をかいているのか少ししょっぱい。
「律、今どんな気持ち?」
「…………」
律が蒼乃から目を逸らすので、「律」ともう一度名前を呼ぶ。律は呼ぶと必ず一度は蒼乃のことを見てくれる。
「ねぇ、律。どんな気持ち?」
もう一度手のひらを舐めてやる。
「……えっちな気分になりますね……」
「下着履いたまま? それとも脱ぐ?」
「……脱ぐから電気を消して」
律がべとべとになった指でベッドの頭を指す。ヘッドボードに照明のリモコンがあった。蒼乃は常夜灯に切り替える。
「自分で脱ぐ?」
「…………蒼ちゃんが脱がして」
人間は感極まってもため息が出る。
焦る気持ちを抑えながら、蒼乃は律のズボンと下着に手をかけた。もう下を脱がせたならと上も全部脱がさせてもらう。
「寒くない? エアコンつける?」
「……大丈夫」
律の生肌が蒼乃に絡んでくる。蒼乃の体温も上昇していく。
「蒼ちゃん」
甘い言葉が蒼乃の耳元で囁かれる。律ほど蒼乃は敏感ではないが、くすぐられるものはある。
「律、もっと私のこと呼んで」
蒼乃がお願いをすると律が「蒼ちゃん」と呼んでくれた。
「蒼ちゃん、大好き」
「もっと言って」
いくら幼馴染でも律を遥に渡したりなんてしない。想っていた期間で勝てなくても、想いの重さで負けるつもりはない。
蓮から借りた服を汚すのも忍びなかったので、蒼乃は上着とズボンを脱いだ。
「大好きだよ、蒼ちゃん」
律の脚の間に蒼乃の太腿を食い込ませる。蒼乃を呼ぶ声が震える。蒼乃の心も震えた。
「律、愛してる。大好き大好き大好き……」
性欲という名の愛で蒼乃が埋められていく。律の両手を掴み、律の耳元で呟き続ける。「大好き」「愛してる」を何度も。何度も。
全部隣に聞こえていればいいのにと、僅かに残る理性が思った。




