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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦は池袋に行く
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85/97

085 -Aono-

 大都会まで出てきて、蒼乃(あおの)は今芝生(しばふ)の上に寝転んでいた。もちろん横には律(りつ)もいる。ドーナツをほどほどに食べてやってきた先は展望台だった。


 なんと展望台には芝生(しばふ)スペースがあって寝転ぶことも可能。律(りつ)が真っ先に飛び込んで行ったので、蒼乃(あおの)も横に並んだ。


「お腹いっぱいだったからちょうどいいね」

「寝ないでね」

「さすがに寝ないよ」


 平日のど真ん中であっても、人がいないわけではない。しかし、知らない人が寝転がっている真横に来る変人はいなかったので、実質二人きりみたいなものだ。


 蒼乃(あおの)が律(りつ)の頭を軽く撫(な)でると、律(りつ)が腕の中に収まるように寄ってきた。せっかくなので腕枕なるものをしてみる。


「やっぱり寝るかもしれない」

「起きてて」


 空(あ)いている手で律(りつ)の頬を引っ張る。


「だって蒼(あお)ちゃんの腕の中って安心するんだもの」


 こんな嬉しいことを言ってくれるが、もしこれが個室だったとしたら蒼乃(あおの)は律(りつ)を襲っている。


「毎日一時間でいいから、蒼(あお)ちゃんとこうしてゆっくりしたいなー」


 律(りつ)の顔が蒼乃(あおの)の首筋にぐりぐり押し当てられる。乱れた髪(かみ)が鼻をくすぐる。蒼乃(あおの)は一生懸命理性に仕事をさせる。


「まぁ、放課後もくっついて一緒にいるけどね」

「春休み毎日会えないの辛い」

「毎日は難しいかもしれないけど、ちょっとでも会おうよ。勉強も見てもらいたいし」

「私はいつでも空(あ)けておくから」

「私も大体は空(あ)いてるはず。なんだ、毎日会えるね」


 帰ったら、春休みのスケジュールに『律(りつ)』と書き込もうと思う。


「春休みもまだ一ヶ月先だけどねー。その前にテストもあるしなぁ。テストの前日に卒業式があるんだっけ」


 蒼乃(あおの)は卒業式というワードに反応する。


「律(りつ)、卒業式の日は私から片時も離(はな)れちゃダメよ」

「いつも隣(となり)にいると思うけど……。どうして?」

「卒業式に告白なんてテッパンじゃない」


 後腐(あとくさ)れがないということで、告白に走る輩(やから)はいるだろう。律(りつ)に近づけたくない。


「三年生なんて面識ないよ?」

「律(りつ)は有名人だから」

「私が有名なんじゃなくて、私たちが有名なんでしょ」


 微(かす)かにモテる自覚が出てきた律(りつ)だが、まだ足りない。絶対三年生の中にも、律(りつ)の写真をこっそり手に入れて、こっそり眺(なが)めている輩(やから)がいるはずだ。


 ちなみに蒼乃(あおの)は堂々と手に入れた律(りつ)の写真を、他人に見られないようこっそりと毎日眺(なが)めている。


「ともかく律(りつ)は離(はな)れちゃダメ。俺の第二ボタンをもらってくださいとか言われてももらっちゃダメだから」

「ボタンってくださいって言うもので、与えられるものじゃなくない?」


 女子も学ランだったら、卒業時に蒼乃(あおの)が全てのボタンをもらうのにと思う。女子のブレザーについているボタンはちゃっちいプラスチック製のものなので、あまりもらっても嬉しくない。というか、ボタンをもらうくらいなら律(りつ)が身に着けていた制服を全てもらいたい。


 いや、しかし、蒼乃(あおの)は考える。大学生になって自由の幅が増えた時、制服プレイをしたくなるかもしれない。それまでは律(りつ)に大切に保管してもらうべきだ。


「律(りつ)、卒業しても制服捨てないでね」

「そんな二年後の話をされましても。しばらくは捨てないと思うよ……」


 開放的な空間にいることも忘れて、蒼乃(あおの)は仰向(あおむ)けから律(りつ)の方に向き直り、彼女の体に腕を回す。


「律(りつ)、好き」

「私も好きだよ」


 このまま組み伏せてしまいたい。僅(わず)かに残る理性で気持ちを押し留める。


「律(りつ)の髪(かみ)、ぐちゃぐちゃになっちゃったわね」

「わ、ほんとだ。ごめんね」

「起きたらまた結び直してあげる」


 律(りつ)がすぐに起き上がろうとしたので、腕を掴んで止めて抱(だ)き締め直す。


「まだ。もう少しこうしていたい」

「蒼(あお)ちゃんこそ寝ないでよー」


 気持ちだけは盛り上がっているので、今の蒼乃(あおの)は睡眠薬を飲んでも眠れないだろう。全ては律(りつ)が可愛いせいだった。


 キスくらい、毎度のデートでしたい。ただ、キスをする場所がない。毎度キスのためにカラオケに行くのも難しいし、基本どこに行っても人通りがある。都会の弊害(へいがい)だった。


 蒼乃(あおの)はやり場のない想いを律(りつ)にぶつけるように、彼女を強く抱(だ)き締める。


「ねぇ、蒼(あお)ちゃん。この後はどこに行く予定なの?」

「普段来ないところだからウィンドウショッピングでもしようかと考えていたけれど、律(りつ)、どっか行きたいところあるの?」

「あー、えーっとねー」


 蒼乃(あおの)の腕の中で律(りつ)がもぞもぞと動く。心なしか耳が赤い。


「せっかく池袋まで来たのにって話なんだけど」


 律(りつ)の視線が蒼乃(あおの)を捉(とら)えたと思ったら離(はな)れていく。それを三回ほど繰り返して、律(りつ)はゆっくり口を開いた。


「カラオケとか行きたいなぁって」


 まさか律(りつ)が同じ気持ちでいてくれたとは思わなかったので、蒼乃(あおの)の心臓が激しく動く。


「行く!」


 勢いよく上半身を起こしてしまったので、腕の中にいた律(りつ)の頭が芝生(しばふ)の上に落ちる。


「ごめん、大丈夫?」

「大丈夫だいじょーぶ」


 律(りつ)も上半身を起こし、ぐしゃぐしゃになった髪(かみ)の毛を解(ほど)く。


「またすぐぐしゃーっとなりそうだけど、一応結んで」


 ヘアゴムを受け取り、律(りつ)の髪(かみ)を軽く梳(と)かす。律(りつ)が言った通り、また結び直すはめになると思ったのでちょっと適当になった。



  ◆  ◆  ◆



 都会のカラオケも、地元のカラオケも大きな違いはなくドリンクを持って部屋に入れば自由の身だった。途中で脱がせるのも面倒くさかったので、蒼乃(あおの)は最初に律(りつ)に靴を脱がせ、自分の脚の間に座らせる。


 栗色の髪(かみ)をかき分けて、痕(あと)をつけない程度に律(りつ)の後ろ首に噛(か)み付く。


「蒼(あお)ちゃんってば手が早いというか、口が早いな……」


 律(りつ)の体に回していた腕が撫(な)でられる。


「そんな急がなくても私は逃げないよー」

「部屋の時間は限られているから」

「確かにそう」


 後ろから抱(だ)きついて頬と頬をくっつけながら、お互いの体温を測る。律(りつ)の香りがして脳が揺(ゆ)れるような感覚に陥(おちい)る。


「律(りつ)、こっち向いて」


 蒼乃(あおの)がお願いをすると、律(りつ)はソファの上に膝(ひざ)を立ててこちらに向き直る。どう座ればいいのか迷っているようで、膝(ひざ)立ちのまま動かない。


「律(りつ)、そのまま座って。そこに」


 言われるがままに動く素直さが可愛い。


 蒼乃(あおの)は体育座りをした律(りつ)を押し倒した。ソファは狭(せま)いけれど、その上に覆(おお)い被(かぶ)さる。


「律(りつ)から誘ってくれて嬉しい」


 律(りつ)の頬は先程よりも温度が上がっていた。


「律(りつ)」


 蒼乃(あおの)の気の所為(せい)かもしれないが、律(りつ)は名前を呼ぶたびに体温を上げている気がする。試しに名前だけ繰り返してみたら、ついに顔が赤くなった。面白い。


「なんでそんなに呼ぶの?」

「律(りつ)のことが好きだから」


 耳元で囁(ささや)くと可愛い声が聞けた。


「律(りつ)、最初はどこにキスしてほしい?」

「もう首に噛(か)みついたくせに……」

「文句を言うなら全身にキスするけれど」

「ちょ、ちょっと待って。今考えるから」


 考えるほどのことでもないが、律(りつ)が悩んだ結果何と言うのか楽しみなので、蒼乃(あおの)は返事を待つ。


「……最初はやっぱり、口がいいな……」


 律(りつ)が視線を逸(そ)らすので、手で強制的に蒼乃(あおの)の方を向かせて唇(くちびる)を奪(うば)う。秋に比べれば最近は蒼乃(あおの)にもゆとりが出てきたため、キスをしている間、蒼乃(あおの)は目を開けることも多くなった。精一杯な顔をしている律(りつ)の表情は、蒼乃(あおの)の感情をどんどん燃やす。


「律(りつ)、可愛い……」


 一生懸命に蒼乃(あおの)の名前を呼ぼうとしては、キスに溺(おぼ)れていく律(りつ)。呼吸ができなくなるくらいまで追い込みたい。蒼乃(あおの)のことだけを見てほしい。


 息が絶え絶えになったところで、蒼乃(あおの)は律(りつ)から少し顔を上げる。律(りつ)は肩で息をしていた。


 数秒前まで蒼乃(あおの)の口が触(ふ)れていた輪郭(りんかく)を、蒼乃(あおの)は人差し指でなぞってみた。リップは塗っていたかもしれないが、形跡はもうない。


「っ!?」


 指先に何かがあたり、蒼乃(あおの)は驚く。いや、指先の感覚に驚いたというより、律(りつ)が舌(した)を出してきて蒼乃(あおの)の指を舐(な)めたという行為に驚いた。


「蒼(あお)ちゃん、指先貸して?」


 律(りつ)の手が伸びてきて蒼乃(あおの)の右手を掴(つか)む。そして、蒼乃(あおの)の人差し指を律(りつ)が咥(くわ)えた。柔らかい舌(した)が指の上を這(は)う。背中の方からぞわぞわといけないものが這(は)い上がってくる感覚を覚える。


「律(りつ)、こんなことどこで覚えてくるの?」


 我慢できなくて、蒼乃(あおの)は律(りつ)が先導していた指を勝手に動かす。一本では足りなかったので、中指も足して口内を嬲(なぶ)る。


 溢(あふ)れそうになった唾液(だえき)を吸おうとしたのか、ついでに蒼乃(あおの)の指も吸われる。理性が持っていかれそうだ。


「ちゃんと舐めててね?」


 左手で律(りつ)の頭を撫(な)でてから、蒼乃(あおの)も頭を下げる。蒼乃(あおの)の舌は律(りつ)の耳に這(は)わせた。


「んんっ!?」


 呻(うめ)き声と喘(あえ)ぎ声の混ざった声だった。


「律(りつ)、舌(した)動かすの止まってる」


 蒼乃(あおの)が指摘をすると、律(りつ)は涙目になりながら舌(した)で蒼乃(あおの)の指を撫(な)でた。


「律(りつ)、上手。でもこんなことどこで覚えたのか、あとでちゃんと教えてね」


 彼女がエッチなのは嬉しいことであるが、情報源は気になる。遥(はるか)に聞いたとか言われた日には狂(くる)ってしまうかもしれない。


 律(りつ)の耳は、多分平均より薄いと思う。比較対象は蒼乃(あおの)の耳だが、律(りつ)の方がピアスが開けやすそうだ。薄いから、感じやすいのだろうか。


 あまり彼女を感じさせて、明日筋肉痛になってしまうとマラソン大会がきついかもしれない。でも、今の蒼乃(あおの)にはあまり気遣いをする余裕がない。


 律(りつ)の名前を呼びながら、ひたすら耳を舐(な)めたり吸ったり噛(か)んだりする。


「律(りつ)、ありがとう」


 指を抜いて、もう一度彼女にキスをする。散々舌(した)を動かして疲弊(ひへい)したのか、彼女の舌(しあ)の動きは鈍(にぶ)くなっていたので無視して口内を撫(な)でることにした。前歯の上あたりを撫(な)でた時の反応が一番いい。


「蒼(あお)ちゃん……ちょっと休憩……」

「律(りつ)は休憩しててどうぞ」


 次に蒼乃(あおの)は律(りつ)の首筋を舐(な)めた。律(りつ)の反応から、すごく感じてくれているのが分かる。こんなところで中断したくない。


 律(りつ)の白い肌を見ると、どうしても痕(あと)をつけたくなる。明日は三年生を除く生徒が一堂に集まる。見せつけたい。


 結果的に、我慢できなくて二箇所痕(あと)をつけた。二箇所目の時はすごく背中を叩(たた)かれた。


「蒼(あお)ちゃんはまったく!」


 怒っているようで怒っていない。律(りつ)はとても優しい。


「なんなら律(りつ)も痕(あと)をつけてみる?」


 律(りつ)がフリーズした。その考えはなかったようで、脳内で真剣にどうするべきか悩んでいるみたいだ。


「……つけていいの?」

「いいわよ」


 母親に言われたら、適当な嘘をつこう。それ以外はバレていい。


 律(りつ)の口元に首がくるように、蒼乃(あおの)は律(りつ)の上で動いた。思っていたより弱い力でキスをされる。


「律(りつ)、それじゃ痕(あと)つかないわ」


 吸う力が強くなった。たまにはつけられる側もいいかもしれない。


「ついた……」

「ありがとう」

「ありがとうはなんか違くない?」


 蒼乃(あおの)は元の位置に戻り、また律(りつ)に口づけをする。何度求めても終わりが見えなくて怖い。


 首元の痕(あと)を撫(な)でる。クリスマスにプレゼントしたネックレスも見えた。律(りつ)はお願いした通り、毎日つけてきている。きっと家にいる間もしてくれているだろう。


「律(りつ)、愛してる」


 たくさんたくさんキスをしよう。時間を確認するのももったいない。電話がかかってくるまで、彼女を限界まで愛したい。

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