↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦は池袋に行く
PR
84/97

084 -Ritsu-

 エスカレーターを上がって、エレベーターでぐんと上がって、屋上にある水族館に着いた。平面上は駅からそんなに距離はないはずなのに、やたらと移動した気がする。


「今日も晴れてよかったね。私たちは晴れ女かもしれない」


 律(りつ)は晴れ女の自覚があった。行事で雨が降った覚えはないし、ここぞという時は晴れる。


「雨が降ったら降ったであいあい傘ができるわよ」

「梅雨(つゆ)の時期はあいあい傘でデートだね。大きめの傘を買っておいた方がいいかな」


 コンビニでも大きなサイズのビニール傘が売ってた気がする。


「蒼(あお)ちゃんって、『恋人といる時の雪って特別な気分に浸(ひた)れて僕(ぼく)は好きです』っていうネタ知ってる?」

「知らない。何それ」

「雪の日にカップルが街頭インタビューで答えたやつ。ネットでわりと毎年話題になってるみたいで」


 律(りつ)はぼんやりとあれもあいあい傘だったなと思い出していた。


「街頭インタビューで、律(りつ)を彼女だって自慢すればいいってこと?」

「違うけどそうゆうことでいいや」


 蒼乃(あおの)の腕をしっかりと抱(だ)き込み、やっと視線を水族館に向ける。せっかく電車賃をかけて来たのだから、少しくらいは堪能(たんのう)しないといけない。

 順路的には屋内から回っていくらしい。


「水族館って感じだ」


 なにを言ってるのかという感じだが、久しぶりに水族館に来たので水槽(すいそう)と中にいる魚に圧倒されてしまう。


「蒼(あお)ちゃん、カニがいるよ。茹(ゆ)でたら食べられるかな」

「律(りつ)は水族館の魚を美味しそうって思うタイプなのね」

「さすがに熱帯魚を食べたいとは思わないよ?」


 蒼乃(あおの)は小さく笑って律(りつ)の頭を撫(な)でてきた。


「見て。クラゲよ。これもさすがに美味しそうとは思わないでしょ」

「さては私のことをバカにしているな?」

「まさか。可愛いって思っているだけよ」


 しかし、クラゲの空間はなんだか神秘的でデートの雰囲気(ふんいき)を盛り上げてくれる。蒼乃(あおの)にしがみつく律(りつ)も、さらに密着を図(はか)った。


「くっついてくれるのはすごく嬉しいんだけれど、階段で転ばないでね」


 二階に上がる。ここでも魚を見たり、魚の解説を見たりしていると、突如(とつじょ)両生類が現れて、律(りつ)は小さく声を出した。


「なんで水族館なのに……」

「両生類だから、水辺にいるでしょ」


 蒼乃(あおの)はカエルたちを見ても平気らしい。律(りつ)はちょっと苦手だった。


「苦手ならこっちの……」


 蒼乃(あおの)が反対側の展示に目を向けて「あぁ」と小さく言った。爬虫類(はちゅうるい)だった。「ひぃ」と律(りつ)の口から悲鳴が溢(こぼ)れる。


「私が目を塞(ふさ)いでてあげる」


 律(りつ)の目が蒼乃(あおの)によって塞(ふさ)がれる。水族館でよく分からないプレイが始まった。


「はい、前に歩いて。危ないからゆっくりね」


 わざわざお金を払ってまでしてこんなことをしている人、他にいない。


「アザラシは平気?」

「へーきだね」


 視界が明るくなる。目の前にはどこか呆(あき)れた顔にも見えるアザラシがいた。


「一部の地域ではアザラシも食用にするらしいわよ」

「えっ、そうなの? なんか……生臭(なまぐさ)そうだね」


 アザラシも面と向かってこんな会話をされるのは嫌だったのか、水槽(すいそう)の奥に引っ込んでしまう。


 目を塞(ふさ)ぐために一度離(はな)してしまった指を絡(から)ませ直す。アザラシにさよならをして順路を進んでいく。


「おみやげ屋さんだ。なんか見る?」

「うーん。私は買う予定がないからいい。律(りつ)が見たいなら見る」

「冷やかしに少しだけ見てみよう」


 看板動物のペンギンのぬいぐるみが山積みになっていた。一つ手に取ってみる。


「欲しいの?」

「いや……寝る時さ、抱(だ)くものあったらいいなと思って」

「子供みたいね」

「そうじゃなくて……」


 律(りつ)は声を小さくして喋(しゃべ)る。


「クリスマスの時に蒼(あお)ちゃんと寝てから……なんか寝る時寂(さび)しくって」


 蒼乃(あおの)が一瞬固まったと思ったら、大きく息を吸って吐いていた。


「今すぐにでも律(りつ)をお持ち帰りして、ずっと一緒にいたい」

「声大きい……」

「一緒に住むようになったら毎晩一緒に寝ましょうね」


 眠れなさそうだなと思った。

 大人しくペンギンのぬいぐるみは元あった場所に戻す。


 蒼乃(あおの)は律(りつ)の手を握(にぎ)るのをやめ、腰に腕を回してひきつけてくる。律(りつ)たちが大学生であれば、ホテルにまっしぐらな雰囲気(ふんいき)だった。


 ショップの冷やかしを終え、行きとは違う階段で一階に戻る。最後は屋外エリアだった。


「見て見て蒼(あお)ちゃん、ペンギンが泳いでる」


 頭上の水槽(すいそう)の中をペンギンが回遊している。


「可愛いねー」

「うん、可愛い」

「いや……私じゃなくてペンギンね」


 律(りつ)の方ばかりを見る蒼乃(あおの)に頭上を見るように言う。蒼乃(あおの)は水槽(すいそう)を一瞥(いちべつ)すると、すぐに視線を律(りつ)に戻した。


「可愛い」

「もう。せっかく来たんだから、もう少しペンギンを見てあげようよ」


 ここのペンギンは見られることが仕事なのだから。


「律(りつ)って哺乳類(ほにゅうるい)は好きなの?」

「嫌いじゃないけど。猫は好きだし。でも、ペンギンとかカワウソとかを触りたいとは思わないかなぁ」


 ぬめぬめしそうでちょっと気が引ける。そもそも猫だって味噌汁をかまうだけで、他の野良猫(のらねこ)を触(さわ)ったりしない。犬も未だに怖くて触(さわ)れない。


「私が触(さわ)るのは蒼(あお)ちゃんだけかなぁ」

「そんなこと言ったら私だって律(りつ)しか触(さわ)らないわよ」


 周りにいるのがカップルばかりだからか、蒼乃(あおの)は遠慮(えんりょ)せずに律(りつ)の頬を撫(な)でる。


「ちょっと蒼(あお)ちゃん……」

「大丈夫。あそこにいるカップルはさっきキスしてたから」

「比較対象が大丈夫じゃない」


 頬を触(さわ)るだけでは物足りなかったのか、腰に巻かれる腕が二本に増えた。


「蒼(あお)ちゃんてば。見られちゃうよ」

「ペンギンしかいないわ」

「人間もちゃんといるよー」

「それなら見せつけるからいい」


 都会に来ても蒼乃(あおの)はブレなかった。律(りつ)は少し迷ってから、蒼乃(あおの)を抱(だ)き返す。昼間から、空が開けた水族館で熱々(あつあつ)であった。


「ずっと律(りつ)を抱(だ)き締めていたい」

「移動ができないねぇ」

「それならお姫様抱(だ)っこはどう?」

「どうと言われましても。途中で腕が死ぬと思うよ」


 蒼乃(あおの)には諦(あきら)めてもらい、再び手を繋(つな)ぎ直した。


「蒼(あお)ちゃん、水族館でなにか思い出に残った?」

「律(りつ)を抱きたいって気持ちしかない」

「せっかく来たのにー」


 ということで、せっかくなのでペンギンを背景にツーショットを撮る。もったいない気がしたので、律(りつ)はペンギンだけの写真も撮っておいた。


「律(りつ)、お昼はなにか食べたいものある?」


 蒼乃(あおの)が公式サイトのグルメページを見せてくる。ジャンルやお値段でお店を探せるらしい。


「蒼(あお)ちゃんは食べたいものないの?」

「律(りつ)」


 即答過ぎて律(りつ)も反応に困る。


「私も食べられるものがいいな……」


 律(りつ)は蒼乃(あおの)のスマホを操作する。ペンギンを前にして、ペンギンは蚊帳(かや)の外だった。


「ドーナツ美味しそう。お昼に重たい?」

「私は大丈夫。じゃ、ここにしましょ」


 行き先が決定したので、ペンギンとは呆気(あっけ)なくおさらばとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。