表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
相沢律は不器用である
82/85

082 -Ritsu-

「持ってきたよー!」


 (はるか)がアルバムを(かか)えてやってきた。家族ぐるみの付き合いなので、当然(りつ)の写真もたくさんある。見られたくないものは先に回収しようと思ったが、(りつ)蒼乃(あおの)拘束(こうそく)されていたため叶わなかった。


「こっちがりっちゃんのおばさんが作ってくれたアルバムで、こっちが卒業アルバム」


 (はるか)が卒業アルバムから開く。中学校のものだった。蒼乃(あおの)日向(ひなた)(のぞ)き込む。


相変(あいか)わらず可愛いですね」


 日向(ひなた)に言われると新鮮で照れる。


「中学の制服が結構可愛いデザインなのね」

「そうだね。公立中学にしては可愛いかも」


 制服だけで言うなら、高校のものより中学のものの方がデザインはよい。


 (はるか)がページをめくるたびに、すぐに蒼乃(あおの)(りつ)を見つけ出していく。(はるか)のことも発見してやってほしい。そちらの役割は日向(ひなた)(にな)っていた。


(はるか)は髪が短い時もあったんですね」

「小学高学年から中一くらいまでは短かったかなー。バスケ部みんな短くて」

(りつ)(はるか)はいつも同じ写真に写ってるわね」

「りっちゃんとあたしは仲良しですから」


 蒼乃(あおの)(りつ)に回していた腕をぎゅっと引く。お腹が苦しい。


「はい、こちらが小学校のアルバム」

「……(はるか)(りつ)も服に無頓着(むとんぢゃく)ですね」


 小学生の頃は制服がなかったので、当然私服でアルバムに載っているが、(りつ)(はるか)もTシャツにズボン姿ばかりだった。二人とも毎日校庭で遊んでいたタイプなので、オシャレとは無縁だった。


「りっちゃんは今日の格好も大して変わらないよ」

(りつ)は私の前でだけオシャレをしてほしい」

「あーはいはい」


 (はるか)は適当な相槌(あいづち)を打ち、アルバムのページをめくる。またしても蒼乃(あおの)が「(りつ)」と反応した。(おそ)ろしい反応速度である。


「ちっちゃい(りつ)も可愛い」

「あたしだって可愛いでしょ」

(りつ)には勝てない」

「そこは比べないでほしいな」

「はるちゃんだって可愛いよ。私この写真お気に入りなんだよね」


 蒼乃(あおの)(かか)えられながら、(りつ)はアルバムの分厚い紙をめくった。そこにあるのは低学年の時の出し物で、『ぐりとぐら』を演じた。青い方を(りつ)、赤い方を(はるか)が担当した。とんがり帽子が決まっていると(りつ)は思っている。


「はるちゃん、劇の途中で歯が抜けたんだよね」

「そんなことあったね。りっちゃんが()んで割っちゃったけど」


 続いて(はるか)(りつ)の母親が作成したアルバムを最初から開く。今度は小学生一年生の頃から始まる。卒業アルバムとは違い、どの写真も(りつ)(はるか)が写っている。先程の劇の写真もある。


「このアルバム、私も欲しい」

「あげないよ?」


 アルバムを見ていると、(りつ)はずっと(はるか)と過ごしていたことが分かる。(りつ)は人見知りなので、環境が変わる度に(はるか)の背中に(かく)れていた。


(りつ)のお母さんは写真のセンスがいいですね」

「そう?」

「二人ともいい笑顔だと思います」

「りっちゃんが泣いてる写真あるけどねー」

「いい! 見せなくていい!」


 (りつ)が伸ばした腕を蒼乃(あおの)(つか)む。


「これこれ。公園で大きな犬に追いかけられた挙句(あげく)、転んで泣いたりっちゃん」


 そこには目を真っ赤にして泣く(りつ)をよしよしする(はるか)の姿があった。


「なんではるちゃんのアルバムにこれが入ってるのか解せない……。そもそもなんで私だけが追いかけられたのかも疑問」

「りっちゃんが大袈裟(おおげさ)にリアクション取るから、わんこも喜んじゃったんだよ」

「ちなみに大きい犬って何犬に追いかけられたんですか?」

「ゴールデン・レトリーバー」


 (りつ)は苦い顔をして答える。


「可愛いじゃないですか」

「こちとら小学生だよ? 犬より軽かったんだよ?」


 小学生の時の思い出など大抵忘れてはいるものの、このエピソードについては強烈(きょうれつ)に覚えていた。


「で、これがりっちゃんが眉間(みけん)()り傷作った時でしょ、こっちは腕を折った時ね」

「はるちゃんのアルバムなんだから、はるちゃんの話をしようよ」

「あたしにそんな面白エピソードないもの」

「私の怪我も別に面白くないけど」


 日向(ひなた)眉間(みけん)に怪我をした(りつ)の写真を指して言う。「これは面白いですよ」と。


(りつ)はもう怪我をしないように外に出ない方がいいかもしれない……」


 写真で蒼乃(あおの)の心配を(あお)ってしまった。


「りっちゃんは建物の中でも怪我するから」


 また(はるか)がページをめくる。(りつ)の家で遊んでいた時の写真だ。(れん)も写っている。


(れん)ちゃんから逃げた時に階段で(すね)を打ったりっちゃん。このあと(れん)ちゃんだけじゃなくあたしもおばさんに怒られた……」

「元はと言えば、はるちゃんがお姉ちゃんとケンカしたんでしょう……」


 蒼乃(あおの)()き締める力を強くする。「痛い痛い」と(うった)えるが聞き入れられない。


(りつ)、健康でいてね」

「おばあちゃんに言うようなこと言わないで。高校生になってから怪我してないでしょ」

「怪我する時は私の前でお願い」

「まず怪我をしたくないんですが……」


 いつ起こるか分からない怪我より先に、(あばら)を折られそうな勢いだ。


日向(ひなた)蒼乃(あおの)は大きな怪我とか病気したことある?」

「わたしは小さい時に肺炎に(かか)って、四十度の熱を出したぐらいですかね」

「え、大丈夫だったの?」


 (りつ)日向(ひなた)を心配するが、日向(ひなた)は笑った。


「大丈夫だから今ここにいるんですよ」

「私はインフルエンザに(かか)ったくらいしかないかも。怪我も大してしてないし」

「ちなみにあたしは木登りをして落ちて捻挫(ねんざ)をしたこと。なお、りっちゃんも一緒に落ちて捻挫(ねんざ)した」


 蒼乃(あおの)が「(りつ)」と短く(たしな)めてくる。


「いやいや、本当に健康が一番だね。ね?」


 (りつ)はみんなに同意を求める。女子高生がする話題ではない。


「あの、そろそろ時間なのでわたしはお(いとま)しますね」


 日向(ひなた)がスマホで時間を確認している。確かにもう日が暮れる時間になっていた。


「それなら私も……。私と(りつ)も帰ろうかしら」

「はい……」

「あ、ちょっと待って。りっちゃん、タッパ持ち帰って」


 (はるか)が立ち上がり、キッチンに消えていく。(りつ)蒼乃(あおの)拘束(こうそく)を破り、タッパを紙袋に入れるのを手伝う。全てしまい終えた紙袋を持って戻ると、蒼乃(あおの)(りつ)の上着とマフラーを持って待機していた。日向(ひなた)はすでに玄関で靴を履いている。


「ほら、腕貸して」

「美容室みたい」


 蒼乃(あおの)に上着を着せてもらい、さらにマフラーも巻いてもらう。


(はるか)はここでいいけど?」

「んや、あたしも駅まで行く。どうせ暇だし」


 順番に玄関を出る。四人もいると混雑した。主に蒼乃(あおの)(りつ)に引っついてくるので混雑した。


 開発された道路は車通りが少ないのに、四人で歩くには十分な広さがある。四人でいても(りつ)の手は蒼乃(あおの)にしっかり(にぎ)られていて、更に密着していた。


(はるか)、今日はありがとうございました」

「いいのいいの。あたしもみんなで遊べて楽しかったからありがとう」

「アルバム見せてくれてありがとう」

蒼乃(あおの)は結局そこか。終日いちゃいちゃしてー」


 駅はすぐそこだったので、あっという間にお別れがくる。


「また明日ね。(りつ)


 そう、また明日も会うというのに、蒼乃(あおの)(りつ)を力強くハグする。乗る電車は同じはずなのに、日向(ひなた)蒼乃(あおの)を待とうとしないで改札を通った。


(あお)ちゃん! ひなちゃんが行っちゃうから。ほら、早く」


 名残惜(なごりお)しそうな蒼乃(あおの)も送り出し、(りつ)(はるか)と共に来た道を戻る。


「はるちゃんの家で遊ぶのも久しぶりだったね」

「そうだねー。受験だったり部活だったりでタイミングが合わなかったししゃーないよ」

「私があそこまでボロクソに負けるとは思わなかった……」

「訓練が足りませんな。オンラインで遊ぶならいつでも付き合うよ」

「本当? はるちゃんって連絡してもすぐに返信こなかったりするじゃん」

「勉強してるから」

「ほんと?」

「ほんと」


 (はるか)の家はこのまま真っ直ぐなのだが、右折する(りつ)についてくる。


「おばさんにごはんのお礼言いたいから」

「そんなのメッセージで十分だと思うけどなぁ」


 (はるか)が部活に入るまでは、こうやって毎日一緒にランドセルを背負って相沢(あいざわ)家に帰っていた。


「りっちゃんは蒼乃(あおの)と付き合ってから毎日楽しそうだね」

「付き合う前も楽しかったけど、まぁうん、今も楽しいね」

「楽しそうならよかったよかった」


 (りつ)は自宅に着くと、(かぎ)を取り出すのが面倒くさく、チャイムを鳴らす。モニターで(はるか)の姿を確認したからか、(りつ)の母親は嬉しそうに家から出てきた。


「はるちゃん、会うのは久しぶりじゃない。元気? ちゃんとごはん食べてる?」

「食べてますよ。今日はいろいろありがとうございました」

「いいのいいの。あ、暇なら夕飯食べていく?」

「いえ、今日はお礼を言いに来ただけなので」


 (はるか)は「じゃっ」と短く言うと、小走りで帰ってしまった。


「はるちゃんは良い子だね。どっかの(だれ)かさんとは違って」

「私はわりと良い子だと思うんだけど」

「それなら料理の一つくらい手伝いな」


 (りつ)がまだ家に入ってないのに、玄関のドアが閉じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ