080 -Aono-
テーブルを囲むようにして、四人ともカーペットの上に座った。もちろん律は蒼乃の隣で、端っこに座らしている。
「ごはん食べながらだし、とりあえず映画でも観る?」
遥の提案に三人とも賛成した。その後、蒼乃がジャンルを提案する。
「私、ホラーが観たい」
あからさまに律が嫌そうな顔をする。その表情を見ても、誰も律に寄り添うことはなかった。
「いいですよ」
日向はホラー映画は平気と言っていた。
「いいね! どれ観る?」
遥にいたってはホラーが好きだと言っていた。遥がリモコンで動画サイトを覗いていく。蒼乃はとびっきり怖いやつを所望した。
律はとても何かを言いたそうにし、三対一という劣勢を崩す言葉を一生懸命探している。やっと口を開いたと思えばケチャップを持って、「食べる時に血が出るのはちょっと」ということだった。
律の意見を尊重し、グロくないけど怖いやつを観ることにする。
「蒼ちゃん……」
律は会話の舵を取っていた蒼乃にすがりつくが、蒼乃は方針を変える気などさらさらなかった。
蒼乃も二人でいる時にホラー映画を観ようと思っていたが、二人きりならそもそも映画を観る暇などないということに気がついたので、今ここで観る。
「りっちゃん、あまり箸が進んでないね。早めに食べといた方がいいよ」
遥に言われて律がピザを口にする。いつもは喜んでごはんを食べるのに、あまりにも元気がない。少しやり過ぎたかなと蒼乃も反省をした。
映画の導入シーンが始まり、律が蒼乃に身を寄せる。悪い気はしない。
シーンが暗くなるだけでも怖がっているので、蒼乃は代わりに律の口に食事を運んでやった。
開始十五分で、律は蒼乃の脚の間に入り込み、顔を蒼乃の胸に埋めている。ここまでされては蒼乃も怒る気が失せた。左手で彼女の頭を撫でたり、背中を擦ったりする。ホラー映画、万歳だった。
遥と日向は蒼乃たちを無視し、ゆっくり食事をしながら映画を楽しんでいる。日向はほぼほぼノーリアクションで、遥はややオーバーリアクション。
「律」
蒼乃にしがみついたままの可愛い彼女に声をかけてみる。上目遣いの恋人と目が合う。怯えた様子がどうも蒼乃のツボを押す。
律の額を撫で、前髪をかき分ける。可愛くて仕方がない。しかし、場の空気を読んで蒼乃は何も言わなかった。
蒼乃は手を律の背中に戻して擦りながら、映画を無視して考え事にふけった。
駅に到着した時点で、律は遥と一緒にいた。その時には髪も結われていただろう。一体律はいつから遥の家にいて、何をしていたのか。そもそも、なぜ髪を結う流れになったのか。
頭を触るというのは、結構ハードルの高い行いだと蒼乃は思っている。少なくとも蒼乃は家族からも頭を触られたいと思わない。許せるのは律だけだ。だから、律の頭ををぽんぽんと他人に触られたくない。
「りっちゃん、少しは観てみなよー。音はびっくりするけど面白いって」
蒼乃の隣に座っている遥が律の肩を突く。正直叩きたい気持ちがあったが、友達相手なので我慢した。
「律」
「私はこのままでいいのでお気になさらず」
蒼乃的にはずっとこのままでいい。律が音にびっくりした時の振動がたまらない。
二時間弱、ずっと律にしがみつかれて、蒼乃の機嫌はよくなった。単純な生き物だ。
「この映画って続きあるんだっけ」
「確か今放映中じゃありませんでした?」
遥と日向の会話を聞いて、律に声をかける。映画はもうエンドロールだったが、律はまだ顔をあげない。
「律、今度映画館で続き観る?」
律に気を取られて全然内容を観ていなかった蒼乃が誘う。もちろん「行かない!」と力強く断られた。
「いったんお皿とか下げちゃうねー」
「わたしも手伝います」
「それなら私も……」
「蒼乃はいいですよ。律の面倒をみててあげてください」
蒼乃は視線を落とす。映画が完全に終わったことを悟った律が顔を上げた。
「みんな意地悪だ……」
食べた後の片付けをしてくれているのに、ひどい言い様だった。
「私は律がすがってくれるなら、いくらでも意地悪しちゃう」
「やめてよ……。いくらでも抱きつくから」
律が蒼乃に抱きついてくる。ここが他人の家でなければ、そのまま押し倒しているところだ。
「りっちゃん、ゲームの準備しておいてよ」
流しの方から遥の声がし、律が蒼乃から離れた。面白くない。
律はまるで自分の家のように、テレビ台からゲーム機を取り出して配線をした。そして、その後は蒼乃の元に返ってきてくれたので良しとする。
「蒼ちゃんってゲームしないんだよね」
「そうね。うちにはないわ」
ゲームをするよりも読書をする少女だった。別に親に禁止をされたわけではない。
「今日こそ蒼ちゃんに勝てるか……?」
「また勝負する?」
「……なんか負ける気がするからやだ」
律は蒼乃に寄りかかり、スマホをいじる。最近律の中で流行っているゲームらしい。
「外ではワイファイがないからできないとか言ってなかった?」
「はるちゃん家のワイファイは繋げてるから」
「そう」
「いや、本当に蒼ちゃんと付き合ってからは、母さんのごはんの差し入れでしか来てないからね。本当だよ?」
「分かってる」
頭では分かっていても、律と遥の距離感を羨ましく思う蒼乃がいる。
「蒼ちゃん、このボタン押して」
律がゲーム画面を見せ、ボタンを指してくる。
「どうして私が押すの?」
「こういうのはね、無欲な人間がやった方が当たるんだよ」
ゲームに関しては無欲かもしれないが、日々煩悩に苛まれている蒼乃が役に立つだろうか。とりあえず言われたボタンを押してみる。
「どうだった?」
「今度から蒼ちゃんに押してもらおうかな」
良い結果だったようでなによりだ。
二人がのんびりした時間を過ごしていると、皿を洗い終えた遥と日向が戻ってくる。蒼乃と律はことごとく働いていない。
「よしよし、じゃあみんなでゲームやりますか」
遥が小さなコントローラーをみんなに配る。意識されたのかは分からないが、蒼乃の手元にきたものは青色だった。
「まずはミニゲームものやろうね。どうする? 負けた人には罰ゲームでいい?」
「いいよー」
一番罰ゲームを受けそうな律がオーケーをすると、日向も「いいですよ」と言った。蒼乃一人が反対するわけにもいかないので、「どうぞ」と賛成する。
「罰ゲームはそうだなー。日向なんかない?」
「わたしですか……。……くすぐりとか」
「いいね。それにしよう」
律にも負けてほしくないお題だ。……律が負けるようなことがあれば、蒼乃がくすぐる係になろう。それでもあまり他人に見せたくないなと思う。




