076 -Ritsu-
焼き上がったから食べれると思いきや、ガトーショコラは冷やしてから食べるらしい。律はショックだったが、余計に買った板チョコを食べることで我慢をする。
ガトーショコラは粗熱を取ってから冷蔵庫にしまい、手持ち無沙汰になった二人は先程の続きをすることにした。と言っても、リビングで続きをするのは憚られたので、手を繋ぎながら律の自室に移動した。初めてマウストゥマウスのキスをした場所だった。
「律の部屋来るの久しぶりね」
「前に読みたがってた漫画ならそこにあるよ」
「今はいい」
蒼乃は待ちきれんとばかりにベッドにダイブした。仰向けになって両手を広げてくる。律は腕の中に収まるように、蒼乃の上に転がった。力強く抱き締められる。
洗濯したばかりのシーツから太陽の香りが上がってくるのと同時に、蒼乃の香りが充満する。
頬と頬をすり合わせて笑い、示し合わせたように口の位置をずらした。ちょっと不格好な体勢でキスをする。
「律」
蒼乃は律の名前を呼ぶと、軽く上半身を起こし、律の肩を掴んで上下を逆転させた。律の背中にシーツが当たる。
「やっぱり上からの方が好き」
蒼乃が上から律を見下ろした。グレーブラウンの髪がさらりと落ちてくる。蒼乃は膝をつき、右手で律の頭を撫でた。
「律、可愛い」
なにもしなくても「可愛い」と言われるのは役得だった。
「食べちゃいたいくらい可愛い」
「これから食べるんでしょ」
「そうね。たくさんお預け食らったし」
頭を撫でる手がだんだんと下がってきて、首元まで落ちてきた手が止まる。
「でもこうなるって分かっているなら……、もう少し服装に気を使ってほしかったわ」
パーカーの襟首を掴まれる。返す言葉もなく、うめき声を出すしかない。
「寒くて無意識にこれを選びました……」
パーカーはパーカーでも、ジッパーのないタイプである。脱ぐのに一苦労するタイプのやつである。襟元が詰まっていて暖かいことに定評がある。
「先に自分で脱ぐのと、襟首伸ばされるのどっちがいい?」
蒼乃に会う時に選ぶくらいには、お気に入りのパーカーだ。襟首を伸ばされるのは困る。
「脱ぎます……」
そう言うと蒼乃が体を引いてくれた。律も上半身を起こしてパーカーを脱ぐ。律は服を脱ぐ時、手をクロスさせて裾をひっくり返して脱ぐので、服が裏表逆になる。
「脱いだよ」
ぐしゃぐしゃになった髪を整えてから蒼乃を見る。なにもしてくる気配がない。
「どうしたの、蒼ちゃん」
パーカー一つでそういう気分じゃなくなったのだろうか。蒼乃は律の足の上でなにやら考え込み、律の太腿を撫でてきた。そういう気分ではあるらしい。
「律、自分で服を脱いで」
「今脱いだよ?」
「パーカーだけじゃなくて全部」
「全部は……その恥ずかしいというか……ねぇ」
まだ昼間だ。律の部屋もそれなり採光があるので、明るい。電気を消していても手元がよく見える。クリスマスの時とは事情が違う。
蒼乃はまた考える素振りを見せる。手はずっと太腿を撫でているけど。
「それなら下着は脱がなくていいから」
あまり律に寄り添ってくれない妥協点だった。
「蒼ちゃんは脱がないの?」
「律は脱いでほしい?」
「そりゃ私が脱ぐなら……」
「律が、とか関係なく、私に脱いでほしい? 私の体見たい? 私はね、律の全身を余すことなく見たいの」
蒼乃の顔が近づいてきて、耳元で「脱いで」とお願いされる。
律は彼女からのお願いに弱いようだった。
「脱ぐから……その間あっち向いてて……」
蒼乃は嬉しそうに笑って、律の頬に軽く口づけをしてから窓の方に向いて座った。
エアコンの温度を上げてから、律は極暖仕様の肌着を脱ぐ。キャミソールは悩んだ結果、脱いだ。靴下を脱ぎ捨てて、ズボンに手をかける。格好悪く、もぞもぞと筒から足を抜いて、下着姿が完成した。緊張して暑いのか寒いのか分からない。
まだ見られることに恥ずかしさがあったので、律は蒼乃を呼ぶ前に彼女を後ろから抱き締める。
「……脱いだよ、蒼ちゃん」
彼女に巻きつけた防御力0の腕に指が這う。
「今日の下着の色は何?」
振り返って見ればすぐ分かることなのに、蒼乃はわざわざ問うてくる。
「え、これは……黄色かなぁ」
改めて自分の胸に視線を落とす。すると、蒼乃が「えいっ」と体を後ろに倒してきた。律は蒼乃の下敷きになったが、蒼乃はすぐに起き上がり、馬乗りになる。
「確かに黄色ね」
答え合わせをして、蒼乃の中で問題が片付いたようだった。
「ねぇ、律。下着は誰と買いに行ってるの?」
「もう高校生だし、一人で買いに行ってるよ……」
必需品なので、レシートを母親に渡すと代金をもらえる仕組みになっていた。
「じゃあいつも自分で選んでるのね」
「他に誰に選んでもらうのさ」
お腹を指が縦断する。こそばゆさに思わず律は身をよじった。
「毎日、律に下着の色教えてもらいたい」
「変態じゃないか」
毎日聞きたがるのも変態だし、毎日自己申告するのも変態だった。
「毎朝、色だけメッセージで送ってくれればいいから」
お腹を縦断した指は、ブラのワイヤー部分を進んでいく。
「送らないよ……。蒼ちゃん、毎日記録つけそうだもん」
「当たり前じゃない。本当は柄まで記録につけたい」
記録をつけたいと言いつつも、蒼乃の指は背中の方に回っていく。焦らすこともなくホックを片手で外す。
「ねぇ、蒼ちゃんにも脱いでほしいんだけど……」
「律が脱がしてくれるなら脱ぐ」
蒼乃は譲歩したように言って、律の手を束ねて頭上に置いた。当然のことながら、律は自由に腕を動かせなくなってしまう。
「蒼ちゃん……?」
「何?」
ご満悦な感じで律を見下ろす蒼乃。空いている右手で律の頬を撫でた。
「ではお預け食らった分、いただきます」
蒼乃の影が落ちてきた。唇が重なる。四回短い口づけをしてから、長いキスをする。あまりにも長く触れ合っていたので、律が薄っすらと目を開ける。蒼乃と目が合う。思わず声が出そうになったが、唇を強く押しつけられたのでくぐもった声しか出なかった。
「律、可愛い」
律は恥ずかしくなって逃げるように目を閉じた。逆に口はこじ開けられて、蒼乃の舌が遠慮なく侵入してくる。
普通に過ごしていれば決して交わることのない二つの唾液が交わると、淫猥な音が鳴る。その音の間に「律」と名前を呼ぶ声がする。
名前を呼ぶ回数が増えるのにあわせて蒼乃の右手が、首筋、左肩、鎖骨、左胸と下がっていく。ホックが外れた下着は簡単にずれた。
律はもう一度頑張って目を開けてみた。名前を呼ばれたタイミングでだ。
「律」
目が合った蒼乃がにこやかに笑う。とても楽しそうな笑顔であった。見ている分には綺麗な顔だが、凝視するには律の経験値が足りない。目を背け、視線の動きにあわせた顔の動きによって唇が離れた。
行き場を失った蒼乃の唇はすぐに律の左耳に着陸した。
「っ!?」
律が身をよじるのを楽しむように、蒼乃は律の耳を執拗に舐める。口元を押さえたいのに、押さえる手が拘束されているので、歯を食いしばるしかなかった。
「声出していいのに」
そんなこと耳元で言わないでほしい。律は頑なに口をつぐんだ。蒼乃は律の耳を唾液でしっとりさせたあと、狙いを首に定めた。明らかに見える一日キスマークを残そうとしてきたので、仕方なく律は口を開く。
「蒼ちゃん、そこはちょっと!」
律の言葉は蒼乃が突発性難聴にでもなったのか疑うくらい完全にスルーされた。首にヒリヒリと痛みが走る。
私服の時は襟の長いものを着ていれば隠れるかもしれないが、制服ではどうすることもできない。マフラーをずっと巻いているわけにもいかないし。
「痕ついちゃった」
偶然ついてしまった風に言わないでほしい。明らかに確信犯である。
「噛んでもいい?」
「よくないっ!」
「今度は見えないところにするから」
左肩に鈍い痛みを感じた。蒼乃が歯を立てている。痛みと恥ずかしさで目尻に涙が溜まる。
歯を立てたまま、蒼乃の右手は背中に移り、撫で回す。時々小指が下着に引っかかるが、まだ、それ以上の進出はしてこなかった。
「しっかり痕ついた。見る?」
「いい……」
肩がジリジリする。嫌な痛みではないところが憎めない。
「そろそろ手を離しましょうか?」
「……」
わざわざ言ってくるところになにか意味があると律は睨んだ。しかし、蒼乃の目論見は分からない。
「拘束されたままがいいならそれでいいけれど」
蒼乃は律の腕を解放せず、右手を下に伸ばして下着の上を擦った。律があからさまに反応する姿を見て、蒼乃は笑う。
「律ってMなの? 動けない状態で触られて嬉しい?」
キスを挟みながら蒼乃が言葉を綴っていく。律の返答は求めていないみたいだった。
「律にも変態な面があって嬉しい。ね、自分で分かるでしょ? この前よりもずっと感じているものね?」
蒼乃の言葉が耳を通過していくだけで顔が熱くなる。
「律。好き、大好き。もっと律のことを見せて」
指が下着の中に滑り込んできた。律はどこにもぶつけられない恥ずかしさを、脚をバタつかせることで発散しようとしたが不発だった。
「ねぇ、律はもっとどうしてほしい? ちゃんと私に教えて。私、どうしたらもっと律が気持ちよくなれるか知りたい」
「…………キス……して……」
律の理性は気づかないうちになくなっていた。ベッドの隙間にでも落としたのかもしれない。
蒼乃は器用に、左手で律の腕を押さえ、右手で律を慰め、口で律の口内を犯していた。
律は目を閉ざし、快楽に身を任せる。
「律、まだ時間はあるから。何回でも気持ちよくしてあげる」
蒼乃の言葉は悪魔の囁きのようだった。




