表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
相沢律は小谷瀬遥の誕生日を祝う
73/76

073 -Ritsu-

 来たる一月二十七日は、(りつ)の親友であり幼馴染(おさななじみ)である小谷瀬遥(こやせはるか)の誕生日だ。


「はるちゃん、お誕生日おめでとう!」


 朝練を終えて教室に入るよりも前にフライングをして(りつ)は彼女を祝う。今年で十年目のお祝いだった。


 九年目まではおめでとうのハグをしていたけれど、今年からは彼女がいるのでハイタッチに(とど)めた。でも一回ではなんか物足りなかったので、二回した。


「いつも一番にメッセージくれてありがとうね、りっちゃん」


 (りつ)がスマホを買ってもらってからの恒例(こうれい)行事である。この先も、クラスが(はな)れたり、学校が別になってもちゃんとお祝いする仲でありたい。


 蒼乃(あおの)日向(ひなた)も「おめでとう」と祝う。朝は時間がないので、プレゼントは昼休みに渡すつもりだ。


「誕生日をお祝いしてもらって誠に恐縮(きょうしゅく)なのですが……、蒼乃(あおの)! 英語の予習見せて!」

「誕生日だからってタダでは見せないわよ」

「分かってるって。今日はりっちゃんの赤ん坊の時の写真をあげよう」

「待って。まだ出会ってもない頃の写真を、なぜはるちゃんが持っているの!?」


 蒼乃(あおの)(りつ)を無視して、英語のノートを(はるか)に渡す。勝手に契約が成立する。


「はるちゃんはいい加減に予習を自分でやりなよ」

「部活で忙しくてねー。蒼乃(あおの)に言ってごらんよ、ノート貸さないでって」

(あお)ちゃん」


 蒼乃(あおの)を呼ぶと、なぜか後ろから抱きつかれた。抜け出そうにも腕の力が強くて逃げられない。


(あお)ちゃん、はるちゃんにノート貸さないでよ」


 もう一度名前を呼び、精一杯の抗議をする。


「嫌。私の知らない(りつ)の写真、欲しいもの」

「そこに私も知らない写真が混ざってるのが問題なんですよね」


 抗議の途中だが、チャイムが鳴る。(りつ)蒼乃(あおの)に引きずられて席に戻った。余談だが、二週間前に席替えをし、今度は(りつ)蒼乃(あおの)(とな)り合う席になっている。偶然って続くものだなと思った。



  ◆  ◆  ◆



「改めて、はるちゃん、お誕生日おめでとう!」


 昼食を食べ終え、三人を代表して(りつ)からプレゼントを(はるか)に渡す。


「三人からね」

「ありがとう。みんな。開けていい?」


 (はるか)が待ちきれない様子でラッピングを(ほど)いていく。中身は(りつ)蒼乃(あおの)が買ったオーガニックのタオルとボディソープだ。


「うわーなんかオシャレなやつだね。これ、なに?」

「ボディソープだよ」

「家のボディソープ切れそうだったんだよね。ナイスタイミング」


 なぜか蒼乃(あおの)(りつ)を見る。


「いやいや、切れそうなこと知ってたわけじゃないから……。はるちゃん家のお風呂使ってないから……」

「いつでも使いに来ていいよ」

「黙ってても匂いでバレそう……」


 そして本当に監禁でもされそう。


(はるか)は十六歳の抱負(ほうふ)とかありますか?」

「ほーふ?」


 日向(ひなた)の投げかけに(はるか)は文字通り首を(ひね)る。


「部活でレギュラー取るとか?」

「まともだ」


 (りつ)がびっくりした風に言うと、(はるか)は「なんだよー」と言いながら、机上にあった(りつ)の手を指先で(はじ)く。そして(はじ)いた手を蒼乃(あおの)(はた)こうとして、(はるか)が勢いよく()けた。


蒼乃(あおの)、容赦なさ過ぎて怖いんですけど!」

「まさか。本気では(はた)かないわよ」

(はた)くつもりじゃん! 怖い彼女だなぁもう」

(はるか)(りつ)にちょっかいをかけるからですよ」

「そうよ」

「……このくらい友達同士のコミュニケーションだって。ねぇ、りっちゃん」


 同意を求められても(りつ)は答えづらい。曖昧(あいまい)に笑うしかなかった。


「これでも全然セーブしてると思うけどなぁ。中学時代までは普通にハグとかしてたよね」

「してたけど……。そうゆう話を(あお)ちゃんの前でしてほしくないなー。なんて」


 (はるか)(はた)かれそうになった腹いせか、意地悪そうに笑う。そして、だんだんと蒼乃(あおの)の表情が(くも)っていく。


「や、ハグくらいしない? 女子中学生だよ?」


 (りつ)起死回生(きしかいせい)のチャンスを目指して、蒼乃(あおの)日向(ひなた)に意見を求めてみるが「しない」ときっぱり返ってきた。この二人が、サバサバし過ぎなのだ。


「というか、(あお)ちゃんと付き合ってからははるちゃんとハグなんてしてないからね」

「してたら怒ってる」

「ですよね。それで、私は無実なので、機嫌直してもらえませんか」

「別に怒ってないわ」


 怒ってなくても不貞腐(ふてくさ)れている。少し面倒くさい彼女だった。


「じゃ、今ハグしよ」

「うわ、またいちゃつく気だ」


 どうしろというのだ。どうせ毎日密着しているのだから、今さらどうでもいい気がする。(りつ)は席を立ち、座っている蒼乃(あおの)を後ろから()き締めた。


日向(ひなた)さん、シャッターチャンスですよ」

「これくらいじゃもうネタにもなりません」


 (はるか)日向(ひなた)がふざけた会話をしている。


「どうですかね、(あお)ちゃん」

「しばらくそのままでいて」


 蒼乃(あおの)(めい)を受けて、(りつ)は彼女に()きついたまま静止する。ふわふわの柔らかい(かみ)に顔の下半分を(うず)めた。


「あたしの誕生日くらいいちゃいちゃを(ひか)えてもらえませんかね」


 (りつ)が腕を()がそうとすると、ぐいっと蒼乃(あおの)(つか)まれる。(はるか)の願いは叶わぬようだ。


「りっちゃんのばーか」


 小学生レベルの罵倒(ばとう)が飛んでくる。お触りは怒るくせに、罵倒(ばとう)蒼乃(あおの)の中でセーフらしくて言い返したりしない。


「なぜ私だけが言われるんだ……」

蒼乃(あおの)に言ったら今後ノートを借りられなくなるからだよ」

「そっちの方がずぶずぶの関係じゃないか」


 物申すつもりで腕を締める。結果的に蒼乃(あおの)が喜ぶだけで、(りつ)の足しになるものはなかった。


「いいですなー。堂々といちゃついても嫌味にならないカップルは」

「嫌味言ってるじゃないですか」

「だってあたしの誕生日なのに、あたしよりめっちゃ幸せそうにしてるから。世の中不公平じゃない?」

「世は常に不公平で不条理ですよ」


 日向(ひなた)(さと)ったようなことを言う。たかが女子高生がいちゃついてるだけで、話が飛躍(ひやく)し過ぎだ。


(はるか)、胸焼けもしましたし、飲み物買いに行きませんか? 誕生日ですから(おご)りますよ」

「行く行く! ありがとう、日向(ひなた)


 (はるか)日向(ひなた)が教室を出て行くと、蒼乃(あおの)にまたもや腕を引かれた。蒼乃(あおの)は自身の太腿(ふともも)(たた)いている。座れということらしい。(りつ)は横向きで彼女の脚に座った。


()き締められるのも好きだけれど、()き締める方が好き」


 ぎゅーっとめいっぱい()き締められる。次に(りつ)の誕生日が来たらどうなるのだろう。(りつ)の誕生日は祝日だから、学校でなにかはないだろうけど。


(りつ)、可愛い」


 他人の誕生日だと言うのに、本当に蒼乃(あおの)はブレなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ