072 -Ritsu-
蒼乃と出会ってから結構日は経つが、ゲームセンターに一緒に来たのは、ボウリング場に併設されていたゲームセンターくらいで、そこでも一つのコインゲームを暇潰しにやったくらいだった。
「クレーンゲームって、損するって分かっててもやりたくなるんだよね」
ぬいぐるみとか、集める趣味はないのに、不思議と欲しくなる。なぜだろう。
クレーンゲームのコーナーをぐるぐると回る。時たま律が商品に反応して中身を覗き込むが、蒼乃は律についてくるだけだった。
「ごめん、楽しくない?」
「全然。楽しそうな律を見ているのがすごく楽しい」
「そう? でも一緒になにかやろ」
二人でできそうなゲームを探す。蒼乃が楽しめそうなものを考える。そこで律はレーシングゲームを提案した。律自身は得意ではないが、一緒に楽しむにはちょうどいいと思った。
「免許の予行練習だね」
「レースには車線の概念がないけれど……」
ハンドルを手にする蒼乃なんて滅多にお目にかかれないので、律は隣に座る彼女の写真を撮る。一枚撮ったらお返しに連写された。
「そんないっぱい撮っても使い道ないでしょうが」
「ある」
なにに使うかは聞かなかった。
二回ほど車をかっ飛ばしたけど、どちらも律の負けだった。どうして車がスリップするんだろう。やはりこの手のゲームは苦手だ。
「律、私が勝ったんだから何かしてくれるんでしょう」
「ええ、そんな約束してないよ」
「何がいいかしら……」
「聞いちゃいないよ」
勝負ごとはやればやるほど律の不利に働くかもしれない。
「囚人服見つけてきたら着てくれる?」
「まだその話生きてたんだ……。囚人服のどこがいいのさ」
メイド服を着ろと言われた方が清純な感じがする。いや、メイド服も不純だけど。
「律を抱く時、なんかこう……支配欲みたいのが湧いてくるから」
とんでもないカミングアウトをファミリーもいるゲーセンでされる。
「蒼ちゃんはとんだ変態さんだな……」
「何と言われても着てほしい」
覚悟がすごい。しかし、囚人服なんてニッチなものそこらへんで売っているものなのか。
「買ってこれたなら着てもいいよ」
「県内になかったら東京行ってくるから」
「執念が怖い……」
蒼乃はやると決めたらやる人なので、いつか囚人服を着せられる日が来るのだろうなと律は諦めた。世間話のレベルで聞く話じゃなかったことを後悔している。
「ホッケーでもやろうかなと思ってたけど……勝負ものはやめだね。なにを着させられるか分かったもんじゃない」
「律が勝てばいいじゃない」
「蒼ちゃんがなにをやっても強いんだって」
「律、私あれやってみたい」
律の話を聞いていないのか、蒼乃はガンシューティングゲームを指す。現れるゾンビを撃ち殺すやつだ。
「えぇ……」
二つの理由で律は乗り気じゃなかった。一つ目は蒼乃がシューティングゲームが得意だから。二つ目はゾンビが怖いから。
「やりましょう」
腕をぐいぐいと引っ張られる。
「なにも賭けないって約束するなら……いいよ」
「分かったわ。それでやりましょう」
蒼乃がノリノリでモデルガンを手にする。様になっている。ふざけて蒼乃が銃口をこちらに向けてくる。
「私の心はすでに撃ち抜かれているので……」
律は両手を上げて降参ポーズをした。蒼乃は満足気に笑ってくれる。これで満足してゲームをやめてくれるかと思ったが、無慈悲にもコインは投下された。
「律、もっとよく狙わないと」
「狙ってるんだけどな……。うわ、きたきたきた! 蒼ちゃん、撃ってよ!」
「自分で撃ちなさいな」
ゾンビに襲われ、小さな悲鳴を上げる律。それを面白がる蒼乃。
「ゾンビが群がる世界になったら、律はすぐにゾンビになりそうね」
「私がゾンビになったら蒼ちゃんはどうする?」
「律に噛まれてゾンビになりたい」
そう言いながら、蒼乃は画面上のゾンビをなぎ倒していく。もちろん勝者は蒼乃だった。
「明日で世界が終わるなら、私は律と過ごしたい。ゾンビになっても律といたい」
「光栄だね。私だって蒼ちゃんといたいよ」
先程までモデルガンを力強く握っていた手で、彼女の手を取る。
「お腹空いたね。なにか食べに行こうよ」
「もうお腹空いたの?」
「ゾンビから逃げ回ったので」
「逃げ回るゲームじゃないでしょ」
律は笑って「そうだね」と答える。でも、お腹が空いたのは事実なのでエスカレーターの方に蒼乃を引っ張っていく。一歩先に律がエスカレーターに乗ると、無理やり蒼乃が前に入ってきた。
「私が先」
「ポジショニング気にするなぁ」
ご苦労さまと蒼乃の肩を揉む。薄い肩は凝っていて、今度マッサージをしてあげようと思った。




