065 -Aono-
律とデートの日がやってきた。デートと言えども目的は、律の冬休みの宿題を終わらせることだ。
蒼乃の家に呼ぼうかとも思ったが、あいにく単身赴任中の父親がまだ在宅だったので、諦めて外で待ち合わせる。律の家も蓮がいるという理由でダメだった。
今日の待ち合わせはフードコートだった。お昼ごはんも兼ねている。
「蒼ちゃんは必ずと言っていいほど、私よりも早く来るね……私も早い方のはずなんだけどな」
律が早く来ると分かっているから、蒼乃はそれよりも早く来ている。
とりあえず先にお昼ごはんを済ませることにした。各々好きなものを買いに行く。律はちゃんぽんで、蒼乃はサンドウィッチだ。
四人がけの席だけど、蒼乃は初めから律を隣に座らせた。
「宿題はどのくらい残っているの?」
「んと、英語と国語。国語はすぐ終わると思う」
律が「一口ちょうだい」と言ってきたので、食べかけのハムサンドをあげる。いつの間にか、間接キスくらいでは照れてくれなくなった。
「蒼ちゃんもちゃんぽん食べる? 美味しいよ」
箸を借りてちゃんぽんを一口もらった。ちゃんぽんよりも同じ箸を使えたことに価値があった。
「今月さ、はるちゃんの誕生日あるじゃん。どうしよっか」
ちゃんぽんをすすりながら律が聞いてくる。遥の誕生日は今月の二十七日なので、猶予はまだあった。
「ひなちゃんとあわせて三人からなにかプレゼントすればいいかな」
「ちなみに、律と遥は今までにお互いにどうお祝いしてたの?」
「小学生の時は、どっちの誕生日もうちでお祝いしてたよ。はるちゃんのお母さんはいたりいなかったりだったけど。中学ではプレゼント贈り合うだけになっちゃった」
遥の家庭環境はとても踏み込みづらい。
「去年はなにあげたっけな。えーと、ブレスレットあげたんだ」
「へぇ……」
「いや! そんな大したものじゃなくて! レザーの普通のやつ。受験のお守りが欲しいって言われたから」
蒼乃は遥の通学用のリュックに、レザーのブレスレットのようなものがついてるのを知っている。
「お守りねぇ……」
無意識のうちに声のトーンが下がる。
「ね、ほら! 私があげると嫌でしょ? だから三人でなにか送ろう。ね?」
「そうね。日向には私から話しておくわ」
律は「なにをあげたらいいかね」と早口めに喋っている。彼女の癖だ。後ろめたいことがあると早口になり、言葉数が増える。
「ねぇ、律。この学校選んだのって遥と一緒がいいからとかではない?」
「まさかー。学力的にここって早い段階から決めてましたから」
遥の方が律にあわせたのかな、と蒼乃は妄想し、すぐに考えるのをやめた。
「はるちゃんとも同じ学校になれたのは嬉しかったけどね。もう腐れ縁だし。蒼ちゃんなんて地元でしょ。仲の良かった人とかいないの」
「よく話していた人たちは東京の頭のいいところにいったわ」
「うちのクラスにもいたなぁ。偏差値八十近い学校に行った子」
「まさか……」
また律に想いを寄せていた奴がいるのかと蒼乃は身構えた。
「違います。なんもないです。そんな誰も彼もが私を好きなわけないからね?」
律に告白しなくとも、律に告白されたら付き合うと答える人は多いはず。
「蒼ちゃんはすぐその手の話に結びつける……」
「前科があるからでしょ」
正月のエピソードは忘れられない。
本当、一度律の中学時代を覗いてみたい。
「私はまだ蒼ちゃんが告白されたことがないという話、信じてない……」
「嘘なんてついてどうするの。ないものはないの」
本当にない。冷めていた中学時代を送っているので、あまり人が寄りつかなかった。好きなんて言ってくれるのは律くらいのものだ。
「蒼ちゃんの周りの人は見る目がないですな」
「でも律から告白してくれることもないでしょ」
「うっ……」
律が痛いところを突かれたという顔をする。彼女に度胸がないことも分かっている。
「蒼ちゃん、愛してる」
「この流れで言ってもダメ」
愛してるゲームの時の律はとても可愛かった。日が経ったらまたやってみたい。
「本当に愛してるんだけどな……」
「それは知ってます」
「知られてたか……」
喋っているうちに律のちゃんぽんが伸びてしまった。仕方なく律が苦い顔をしてすすり始めた。




