063 -Aono-
参拝を終え、律の手を引いていったん人混みから避難した。人酔いなどはしないが、蒼乃はあまり人混みが得意ではない。
「すごい人だったね。蒼ちゃん、平気?」
「私は平気。律こそ大丈夫だった?」
「大丈夫大丈夫。無事に参拝できました」
本当に無事か確かめるつもりで、蒼乃は律を抱き締めた。もちろん異常はない。
名残惜しくも、蒼乃が律から離れた時だった。
「あれ? りっちゃん?」
すぐそこから知らない女の声がした。
「わー! りっちゃんだ。卒業ぶり」
蒼乃の陰から律が顔を出した。
「しーちゃんだ。久しぶりだね」
律の同郷の友らしかった。律ほどではないにしろ可愛らしい雰囲気を醸し出していて、ウケはよさそう。
友達が寄ってくる前に、律が苦い顔を蒼乃に近づけて早口で言った。
「さっき話した娘です」
蒼乃の笑顔が凍る。そんな伏線みたいなもの用意しなくていい。
三人の女の子グループだったが、みんな律と同じ中学の出身らしかった。名乗られて一応顔と名前は覚えたものの、蒼乃は早くこの場から離れたい。
もぞもぞと何か動くなと思ったら、律の手が蒼乃を探していた。軽く握ると、しっかり握り返してくれる。
「えーっとこちらは同じ高校の相澤蒼乃さん」
律に「蒼乃」と呼ばれるのはかなり久しぶりで新鮮だ。
「それで、あの、私の恋人」
まさか振った相手にそんな紹介をしてくれるとは思わず、蒼乃も三人と一緒に驚いた。
「中学時代、あんなにモテて誰とも付き合わなかったのに。高校デビューだ」
律に振られたことのあるしーちゃんと呼ばれた少女が言う。
「彼女さん、大変ですね。りっちゃん相変わらずモテるでしょう」
「もうそれは本当にそうで」
律が「そんなことない」とか言うが、そんなことなくない。
「律って中学時代どれくらいモテていたんですか?」
遥に聞いた時は答えが曖昧だった。はぐらかされたのだと思う。
「月一くらいの頻度で告白されてたかな。バレンタインも後輩の女の子からたくさんもらってたしね」
律の顔を見ると目を逸らされた。
「彼女さん綺麗な人でよかったね、りっちゃん」
「そう。美人」
久しぶりに会った友人にも人見知りを発生させているらしい。言葉数が少なくて、蒼乃にくっついてくる。
「では私たちはこれで……」
律を抱えるようにして歩き出す。
三人とも笑顔で手を振っていたが、一名は悔しさを噛みしめる顔だ。
「律。もっと堂々としてちょうだい」
「や、だって約一年ぶりの再会だもの。どう話していいものか」
「いや、元クラスメイトで仲良かったんじゃないの」
「そうかもしれないけど、なんか気まずいじゃん」
律は口元をもごもごとさせた。
「次はおみくじね」
人混みを掻き分けながら、授与所に向かう。端の方におみくじが入った箱があった。セルフ方式。百円玉を入れ、順番にくじを引いた。それから少し離れたところに避けてから、開封式となった。
「おお、大吉だぁ」
宣言通り律は大吉を引いていた。かく言う蒼乃も大吉だったので、大吉が多く入れられているのかもしれない。
「蒼ちゃん、蒼ちゃん」
律が蒼乃の服の袖を引き、おみくじの【恋愛】欄を指す。
『この人より他になし』
と書かれていた。そして蒼乃も自分のおみくじを見せた。
『この人を逃すな』
逃がすものかと蒼乃は誓う。
「新年早々、幸先いいね」
あまりにも都合の良い内容だったので、二人で声をあわせて笑った。
「なんか良いことありそうだから、お財布にでも入れておこうかな」
「入れる前にちゃんとたたみなさい」
蒼乃が代わりに律のおみくじを綺麗にたたみ直した。
「蒼ちゃんはおみくじどうするの? 結ぶ?」
「私も持って帰る。家の引き出しにでもしまっておこうかな」
何気なく人混みから離れるように並んで歩く。
「律」
人はいるにいるけど、隅っこにいる女子高生を気にするような人はいない。蒼乃は律を呼び止めて、軽くキスをしようと思った。
しかし。
「りっちゃん!」
蒼乃も聞いたことがある声が聞こえた。律がいち早く声の正体を当てる。
「お姉ちゃん、なんでここにいるの」




