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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦は年を越す
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62/97

062 -Aono-

 待ち合わせは律(りつ)の最寄り駅の一つ隣(となり)の駅。主要となるターミナル駅だが、蒼乃(あおの)にはあまり縁(えん)のない場所だった。


「蒼(あお)ちゃん! 明けましておめでとう!」


 蒼乃(あおの)をみつけるなり、律(りつ)は器用に人混みの中を走ってきて、蒼乃(あおの)に抱(だ)きついた。


「明けましておめでとう、律(りつ)。今年も変わらず可愛い」


 二人とも私服だが、律(りつ)はいつも通り可愛かった。迷子にならないように、しっかりとその手を握る。


 今日は大神宮までお参りに行き、少し遅いお昼を律(りつ)と食べることになっている。ひとまず、大神宮まで歩き始めた。


「お姉さんは? ついてこなかったの?」

「昨日冷たくしたからかなにも言ってこなかったよ」

「冷たくって?」

「聞いてよ。今度は私と蒼(あお)ちゃんの電話を廊下で盗み聞きしてたんだよ。ありえなくない?」


 正直、ストーカー気質の蒼乃(あおの)も引いた。でも、隣(となり)で律(りつ)が誰かと電話を始めたとしたら、聞き耳を立てると思う。


「まったく……。そんな言動が母の目に留まりまして、お姉ちゃんのお年玉は没収(ぼっしゅう)となっておりました。ま、もう大学生なんだけどさ」

「律(りつ)はちゃんとお年玉もらえたの?」

「もらえたよー。でも蒼(あお)ちゃんとのデート費用に充(あ)てるつもりだから無駄遣いはしないよ」


 蒼乃(あおの)は自由に使えるお金があったなら、全部律(りつ)に貢(みつ)ぎたい。


「蒼(あお)ちゃんももらえた?」

「一応。私もデートに充(あ)てるわ」


 駅の周辺は混雑していた。律(りつ)によると年がら年中人が多いらしい。大通りを一本外れれば歓楽街(かんらくがい)という感じだったので、あまり律(りつ)にうろついてほしくない。


 しかし、律(りつ)はふらふらと横道に逸(そ)れようとする。蒼乃(あおの)が手綱(たずな)を握(にぎ)るように、律(りつ)の腕を引っ張り返す。


「どこ行くの?」

「こっちの方が人いないし近道だよ」

「人がいないんじゃ危ないじゃない」

「大丈夫だって。まだ昼間だしお正月だよ」


 律(りつ)は心配そうな素振りを一切見せずに蒼乃(あおの)の腕を引き直す。これ以上粘(ねば)るのも気が引けたので、蒼乃(あおの)は仕方なく律(りつ)についていくことにした。


 二人は大通りと比べるとかなり人通りの少なくなった道に入っていく。


「律(りつ)的にはこの辺りも地元なの?」

「そうだね。地元かな。もうちょっと行ったところに友達の家があるし」

「ただの友達?」

「……まぁそうね。……まぁ……告白された、かなぁ……」


 隠し通せないと思ったのか、律(りつ)は正直に白状する。罰(ばつ)が悪そうに、蒼乃(あおの)の視線から逃れようとする。


 友達の家の場所を把握しているということは、その家にも行ったことがあるのだろう。


「女の子?」

「……左様です。蒼(あお)ちゃんはエスパーかなにかかな?」


 律(りつ)が分かり易すぎるだけだ。


「小学校から仲の良い子でね。中三の時に、学校説明会に一緒に行って……帰りに告白された」

「何て言われたのか覚えてる?」

「小学生の頃から好きだったって」

「当たり前だけど断ったのよね?」

「そうだね。断ったね」


 しかし、学校説明会となると……。もしかしてと思い、更に蒼乃(あおの)は聞く。


「東高の生徒じゃないでしょうね」

「違うよ。他の学校に行ったよ。……言っておくけども連絡も取ってないからね」


 律(りつ)は念押しするように言う。


「結構仲良かった?」

「良かったかな。はるちゃんが部活入るのと入れ替わる形で仲良くなったから、毎週のように遊びに行ってたかも」


 なんてずるい。蒼乃(あおの)だって毎週のように律(りつ)に遊びに来てもらいたい。


「でもここら辺ってことは、律(りつ)の家からはちょっと遠いような……」

「遠いね。自転車で通ってたよ。あはは、小学生ってのは元気だ」


 でも、その子は数年もの間律(りつ)のことが好きだったのだろう。蒼乃(あおの)は自分が恵まれていたのだと思う。


「律(りつ)は、どうして私の告白を受けてくれたの?」

「それは……流れというか、場の雰囲気に呑まれたと言いますか……」


 蒼乃(あおの)は改めて遥(はるか)に感謝をする。多分普通に告白していたら、こうはなっていなかったかもしれない。


「それに蒼(あお)ちゃんとは仲良くいたかったからかなぁ」


 律(りつ)が歩きながら蒼乃(あおの)にひっついてくる。


「律(りつ)」

「なんでしょう」

「キスしたい」


 くっついていた律(りつ)の肩が跳(は)ねる。慌てて周りを確認している。人がまったくいないわけではない。


「ちょっと……ここでは恥ずかしいかな……」


 赤面する律(りつ)を見られたので、蒼乃(あおの)はひとまず我慢することにした。


「律(りつ)の中で一番記憶に残ってる告白って何?」

「それは蒼(あお)ちゃん」

「じゃあ私を除いたら」


 律(りつ)は考え始める。考えるくらいに、告白された回数が多いのだろう。


「初めて女の子に告白されたのが……衝撃的だったかなぁ。中一の時、三年の先輩から告白された。でもよく知らない人だったな……」


 律(りつ)は「なんだったんだろう」と溢(こぼ)しているが、間違いなくその整った顔のせいだ。


「律(りつ)がモテモテで私は不安になるばかりよ」

「今はモテてないよ。蒼(あお)ちゃんがいるんだから」


 律(りつ)の言い方が変わった。前はまったくモテに鈍(にぶ)かったが、自覚症状が出てきている。何かあったのだろうか。


 さらに蒼乃(あおの)は今も自分がいるから大丈夫だとは思っていない。一番近いところだと担任の八重樫(やえがし)が危ない。絶対に律(りつ)のことを好意的に見てる。


「そろそろ大神宮だよ。この時間だから参拝は長蛇(ちょうだ)の列かなぁ。やだなー」


 律(りつ)の言った通り、参拝者の列は神社の外に出て、信号を渡った先にも続いている。


「来たからには参拝しないとだよね。並ぼう、蒼(あお)ちゃん」

「そうね。律(りつ)は内側に並んで」


 蒼乃(あおの)が車道側に立ち、内側に律(りつ)を押し込む。


「あまり着物姿の人はいないね」


 律(りつ)が背伸びをして周りを見渡す。確かに晴れ着姿の女性は数えるくらいしかいない。


「寒いもんね……私だったら凍えちゃうよ」


 律(りつ)は足を上げながらスニーカーを見せてきた。


「中にね、靴用のカイロ入れてるの」


 その様子が可愛らしい。前にも後ろにも人がいたが、蒼乃(あおの)は気にせずに彼女を抱(だ)き締めた。


「律(りつ)のことは私が暖めるわ」

「お、おう……ありがとう」


 列が大きく進んでしまったので、蒼乃(あおの)は仕方なく律(りつ)から離(はな)れ、手を繋(つな)ぐにとどめた。


「律(りつ)は神様になんてお願いするの?」

「お願いはしないかな。蒼(あお)ちゃんと巡り合わせてくれてありがとうって言う」


 やっぱり抱(だ)き締めたい。横断歩道を渡っている最中でなければ抱(だ)き締めたのに。


「それにしても列長いですな……」


 一度進んだと思ったら、列の動きは止まってしまう。律(りつ)の腕が蒼乃(あおの)の腕に伸びてくる。


「私が言うのもなんだけど、地元でそんなにくっついて大丈夫?」

「うーん。くっつきたいから仕方ない」


 腕に巻きついてくる彼女がとても可愛い。可愛過ぎて狙ってやってるのではと思うが、正直どちらでもいい。クリティカルヒットなのは変わらない。


「なんか蒼(あお)ちゃんといると、周りを気にするのよくないなと思って」

「無理しなくていいのよ?」

「無理じゃない。全然大丈夫。……気にしてたらここにお参りには来ないよ」


 再び列が進む。まだ神社の入口には遠いが、なにやら律(りつ)が反応して背伸びをしてる。


「どうしたの?」

「たい焼き屋さんがそこにある」


 蒼乃(あおの)も頭の位置をずらして覗(のぞ)いてみる。歩道に併設するように温かそうなたい焼きが売られており、参拝者から人気を得ている。


「蒼(あお)ちゃん、食べる? 半分こする?」

「半分こ」

「分かった。味はどうしようねぇ」

「律(りつ)が選んでいいわよ」

「そう? それならそうだなぁ。カスタードクリームにしようかな。食べれる?」

「私は平気」


 のろのろと列が進み、店の目の前に来たところで律(りつ)がたい焼きを買う。販売してたおじさんに「お嬢ちゃん可愛いね」と声をかけられていた。お目が高いが、蒼乃(あおの)の律(りつ)に声はかけないでほしい。


「また来たらおまけしてくれるって」

「行かない」

「そっか。ねーこれ半分に割れなさそうなんだけど、先に食べていい? 蒼(あお)ちゃんは頭としっぽのどっちを食べたい?」

「しっぽ」

「じゃあ頭の方食べちゃうね」


 熱そうなたい焼きに躊躇(ちゅうちょ)なく齧(かじ)りつく律(りつ)。蒼乃(あおの)の想像通り、熱くてはふはふしている。


「おいひい」


 たい焼きのおかげで繋いでいた手が離(はな)れてしまったので、蒼乃(あおの)は左手を律(りつ)の腰に回してホールドした。


「はい、蒼(あお)ちゃん」


 せっかく腕を回したのに、外したくない。


「食べさせて」

「わがままですな」


 文句は言いつつ、律(りつ)はたい焼きを蒼乃(あおの)の口元まで運んでくれた。


「うん。美味しい」


 店主は気に入らなかったが、たい焼きはとても美味しかった。


 たい焼きを食べ、しばらく進んだり止まったりを繰り返しているうちに、鳥居をくぐるところまで来た。神社の敷地にはいろんな屋台が出ており、楽しそうに律(りつ)が見回している。


「このあとお昼なんだから、控えめにしておいてね」

「お母さんみたいなことを言うね」


 言いたくなる律(りつ)が悪い。

 敷地内に入ってからは、列が二列から四列になったので、進み具合の体感は速くなった。


「蒼(あお)ちゃんはお賽銭いくら?」


 律(りつ)が財布を覗(のぞ)きながら聞いてくる。


「五百円かな」

「太っ腹ですな」

「律(りつ)に会えた一年だったから」

「なるほど。それなら私も五百円にしよ」


 神様を信じない蒼乃(あおの)も今日ばかりはお礼をしておこうと思った。


 大きな鈴、本坪鈴(ほんつぼすず)というやつを律(りつ)と一緒に鳴らし、お賽銭箱に五百円硬貨を投げ入れる。本当は投げてはいけないと思うが、あまりの人の多さにそうするしかなかった。


 手をあわせて、蒼乃(あおの)は律(りつ)と会えた運命に感謝した。ついでに今年も律(りつ)が健康でいられることを願う。


 横を見ると律(りつ)がまだ目を瞑(つぶ)って手をあわせていた。蒼乃(あおの)は人混みに乗じて律(りつ)にちょっかいをかける輩がいないか見張ることにした。

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