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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦は年を越す
60/89

060 -Ritsu-

「ゴミの日は今日が最後だからね」


 母親にそう言われ、自室に軟禁(なんきん)状態な(りつ)は小さく(うな)る。片付けが進まない。どこかで今年中に片付けるとか言った気がするけど、まったく片付いていない。


 蒼乃(あおの)が来た日が一番綺麗だったと思う。どうしたものかなと悩み、結果、現実逃避を選んだ。

 出なかったら仕方ないと思いながら、恋人の蒼乃(あおの)に電話をかける。


『もしもし。どうしたの、(りつ)

(あお)ちゃん、今大丈夫だった?」

『えぇ。宿題の追い込みをしていただけだから』


 偉い。宿題に手をつけていない上に、片付けをしていない(りつ)とは大違いだ。


(りつ)、あなたのところのゴミ回収は今日が最終日じゃないの』

「なんでそんなところまで把握してるの。怖いんですけど」

『貴方、片付けが嫌になって私に電話をかけてきたでしょ』


 なんでもお見通しな彼女が怖い。監視カメラでも設置されているんじゃないだろうか。(りつ)は部屋の中をきょろきょろと見回す。


『まぁ……やる気を出すために少しくらいは相手をしてあげる』

(あお)ちゃん大好き愛してる」

『もっと心を込めて言ってほしいわね……。ところで(りつ)、宿題は進んでる? ちゃんと計画的にやらないとだめよ』


 (りつ)はもう一度室内を見回した。


『泣いて見せてって言っても、宿題は見せないからね』

「そんなことはしないよ……。それに数学はちゃんと冬休みに入る前に終わらせたよ」

『英語はまた小テストがあるんだからちゃんと取り組まないと、八重(やえ)先生に課題追加されるわよ』

「勉強をするという体で、始業式前にも会えないかな?」

『宿題終わってなかったら名目通り勉強になるけれど、それでもいいなら』


 最近彼女が厳しい。親よりも勉強しろと言ってくる。志望校のことを考えれば、当然の対応とも言える。


『ところで(りつ)、明日は何をする予定なの?』

「私? 明日……大晦日は……」


 寝て、食べて、寝て、食べて。特に予定はなかった。特に見たい特番もない。


「年越しそば食べるくらいしかしないかなぁ。(あお)ちゃんはなにか特別なことするの?」

『うちは単身赴任から父親が帰ってきて、ご飯が豪華になるわ』

「へー! なに食べるの?」

『ハンバーグは出ないわ』

「食べないよ。まったく私をなんだと思ってるんだ……」

『じゃあ(りつ)はハンバーグと私、どっちが好き?』


 突然の変化球にたじろぎそうになったが、ここはスマートに回答する。


「もちろん(あお)ちゃんが世界で一番好き」

『そう』


 短いけれど満足そうな返答があった。続けて『私も(りつ)が好き』と返ってきて、(りつ)も嬉しくなる。


『明日の夜、電話ってできる?』

「私は寝て食べることしかしない暇人ですからね。いつでもウェルカム。本当はね、年末も(あお)ちゃんといたいんだけど……贅沢(ぜいたく)言っちゃいけないね」


 クリスマスに泊まりができただけ幸せだ。


(あお)ちゃんのうちはおせち食べるの?」

『うちはお寿司とすき焼きが交互にくるの。来年はお寿司の年』

「いいなー。お寿司。私は炙りサーモンが食べたい」

『今度お寿司デートも行きましょうか』

「行く行く! (あお)ちゃんは何食べたい?」


 蒼乃(あおの)が勉強をしていたというのに、(りつ)はお喋りに夢中になる。


「りっちゃん! お昼だよ!」


 ノックなしに自室のドアが開け放たれ、姉の(れん)が入ってくる。


(あお)ちゃん、ごめん。お姉ちゃんがきたからまた連絡するね」


 電話中だということが分かったなら出ていってほしいが、(れん)はずっと室内にいるし、なんなら(りつ)への距離を詰めてきている。


「お姉ちゃん、入る時はノックしてって何度も言ってるよね」

「いいじゃん。隠すものなんてないでしょう」


 (れん)がいる時に蒼乃(あおの)は呼べないなと思った。最中であろうと入ってくるだろう。


「りっちゃん、全然片付け進んでないじゃない」

「うっ……午後頑張るよ」

「お姉ちゃんが手伝ってあげるね」


 (れん)の腕が伸びてきて、払うよりも先に首にまとわりついてきた。


「お昼なんでしょ! 下に行くから(はな)れて」



  ◆  ◆  ◆



 拒否に拒否を重ねたが、昼食のラーメンを食べた後から(れん)(りつ)付随(ふずい)して回った。


「りっちゃん、これは捨てるの?」


 (りつ)はうざいと思いつつも、片付けが順調に進んでいたので文句を言わないでいた。


「これ、包装紙? 取っとくの?」

「いるから捨てないで」


 (れん)の手から白色の包装紙を奪い取る。先週、蒼乃(あおの)からもらったネックレスを包んでいたものだ。


「なに? あの()からのもらいもの?」


 (かたく)なに「彼女」とは言わない。


「りっちゃんに恋愛はまだ早いと思うんだよ」


 学校のプリントを仕分けしながら、ぶつぶつと(れん)(しゃべ)り始めた。


「はるちゃんから聞いていたけど、中学の時は告白されても断っていたでしょう」


 普段顔をあわせれば無意味なマウントの取り合いをするくせに、こういうところはしっかり情報を共有していて嫌だった。


「なんで! 高校生になった途端オーケーしたの? 顔だってお姉ちゃんの方が美人でしょう!」

「その高い自己肯定感がうらやましいよ。ちなみに(あお)ちゃんの方が美人です」


 (れん)にとって都合の悪い話は聞こえないらしく、特にリアクションはなく話が続く。


「りっちゃんが(さび)しいって言うなら、私が近くにいてあげる。勉強だって教えてあげられるし、なんなら(やしな)ってあげる」

「そんなつもりで(あお)ちゃんと付き合ってないから」


 文房具も中学時代に買ってから使ってないものもある。当時は手紙を書くのにいろいろ使ったなと思いつつも、今使ってないものについては捨てることにした。


 それとあわせて、中学時代に流行っていた手紙の行き場に困る。

 遥とは連絡先も知っていて、住んでいる場所も近い上に同じクラスという立場であっても一番手紙を交換したと思う。

 はたして、いつまでとっておくべきなのか。


「お姉ちゃんが中学生の時って手紙の交換ってした?」

「したしたー。懐かしいな。こうやって折ってたよね」


 (れん)はいらないプリントを折り込んでいく。


「で、お姉ちゃんはもらった手紙どうしたの?」

「うーん。全部捨てた」

「え、(なつ)かしいとかないの?」

「ないない。だって連絡取るやつはスマホでやり取りしてるし、連絡取らやつはこの先思い出すこともないって」


 (りつ)の姉でありながら、(れん)はさっぱりしていた。


「でもりっちゃんが昔くれた手紙とか似顔絵とかは全部取ってあるからね!」

「それこそ捨てて」


 (りつ)が本当に小さい時はお姉ちゃん子であった。しかし、(りつ)が大きくなるのにあわせて(れん)のシスコンぶりも加速していったので今の関係に至る。


「お姉ちゃんって彼氏からのプレゼントはどうしてるの?」

「いらないやつはネットで(さば)いてる」


 蒼乃(あおの)にそんなことされたら、(りつ)は立ち直れないだろう。


 (りつ)は無駄話を切り上げ、目の前にある紙袋を(のぞ)いた。この中には中学時代にもらった手紙が入っている。ほとんどがノートの切れ端に書かれたものだったが、十通ほど綺麗な封筒に入ったものがある。どれも違わずラブレターだった。中には(はるか)にも明かしていない恋文も入っていた。


 昨今の多様化の影響か、(りつ)は男女問わず人気を得ていた。その結果がこれだ。なお、手紙を介さずに直接告白されたことも多々あるので、実際に告白された回数はもっと多い。


「今は(あお)ちゃんがいるしな……。ごめんなさい」


 (れん)にバレないようにして、ラブレターをシュレッダーにかける。


 残るは友達と交わした手紙の数々だった。(りつ)は迷いに迷った挙句、(はるか)のものだけ残して他は捨てることにした。あまり持っていても、蒼乃(あおの)がいい気持ちにならないだろうと判断してのことだ。


「りっちゃんてさ」

「なに?」


 シュレッダーをしながら横目で姉を見る。(れん)は大量に捨てられていく手紙を眺めながら、何気なく聞いた。


「やっぱり歳上にモテるの?」

「私はそんな……」


 しかし、蒼乃(あおの)ですらも告白されたことがないという話を思い出す。やっと(りつ)は自分が中学時代にモテていたのかもしれないと気づいた。


「同学年が一番多いんじゃないかな……」

「それは普通でしょ。歳上と歳下だったらどっちにモテていたの? 今後の参考に」


 なんの参考にするというのか。たとえ答えが歳上だったとしても、(れん)契機(けいき)が訪れることはない。


 無心でシュレッダーにかけるのも負担であったので、(りつ)は中学時代のことを思い出す。


 ……憧れを含んだ気持ちが強かったのか、後輩から言い寄られたことが多かったかもしれない。それも同性から。女の子から告白されたのは、蒼乃(あおの)が初めてではない。


「歳下かなぁ」

「チッ」


 舌打ちをされたが、(りつ)は無視した。


「お姉ちゃんだってモテてたんじゃないの」


 顔だけは良い。性格はこんな感じで、とても残念だけれど。


「私はりっちゃん以外になびかないのよ」

「彼氏いるじゃん」


 もはや本当に彼氏がいるのか不安になってきた。


 (れん)と話しているうちに、ゴミ袋が五つできあがった。なぜか(れん)と話していると、捨てちまえという気分になった。これくらい片付ければ文句も言われないだろう。


 (りつ)(れん)と手分けしてゴミを捨てに行った。


 夕暮れを見て、今年が終わるなと思ったが、まだ一日残っていた。

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