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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の体育祭一年目
13/25

013 -Ritsu-

 午後の体育祭も順調に進んだ。実はリレー並みに盛り上がるのが、全クラス全員参加の大縄跳びである。しかし、正直(りつ)は気が重かった。約四十人が一斉(いっせい)に飛ぶ。(だれ)かが引っかかれば記録は止まる。その(だれ)かに自分はなるかもしれないのだ。


 並び順は身長で割り振られているため、近くに緊張(きんちょう)をほぐしてくれるような人もいない。

 (りつ)は特に運動音痴(おんち)というわけではないが、緊張(きんちょう)しいなところはある。蒼乃(あおの)に抱き締められた時とは、違う鼓動(こどう)の高鳴りを感じる。


 よく「良い子だね」と(りつ)は言われる。特に先生やお母さんたちから言われる。多分蒼乃(あおの)にもそう思われているに違いないが、(りつ)はそこまで良い子ではないことを自覚していた。


 だって、結局自分より先に大縄に引っかかった人が出た時、心から安心した。ズルい人間だと思う。その姿を見せてないのに好きと言われて申し訳ない気持ちもあった。そのことを分かった上で、(りつ)は今も蒼乃(あおの)の横にいる。


 大縄跳びが終わると、後ろから身長高い組の蒼乃(あおの)(はるか)がやって来た。


「ふぅー緊張(きんちょう)した!」


 (はるな)が両手を上げ伸びをする。まだリレーが残っているというのに、気を抜いて大丈夫なのだろうか。


「正直、引っかからなくてほっとしたわ。こんなこと言うものじゃないでしょうけど」


 蒼乃(あおの)の言葉に、シンパシーを感じて嬉しくなる。いや、共犯関係みたいでよろしくないかもしれない。


「今時、こんな連帯責任を取らせるものやめるべきなんですよ……」


 大縄跳びで息を切らした日向(ひなた)が合流する。日向(ひなた)は見た目通りの文学少女で、スポーツの(たぐい)はからっきしである。


「もうこれでわたしの参加する種目は終わりました……。木陰(こかげ)で休ませていただきます」

「えーちょっと、リレーは応援してよね?」


 (りつ)蒼乃(あおの)(はるか)は応援席に戻る。二年と三年の大縄跳びが終了してからクラス対抗リレーに移る。(はるか)は準備運動をしてやる気満々だった。


(あお)ちゃんって先頭走るんだよね」

「そうよ。くじで負けたの……」

緊張(きんちょう)してる?」

「それはまぁ……。クラウチングスタートってなかなか慣れるものではないでしょ」

(あお)ちゃん、ファイト!」


 (りつ)は励ますつもりで、両手で蒼乃(あおの)の手を(にぎ)ってみた。すると、蒼乃(あおの)はなにを思ったのかこんなことを言ってきた。


(りつ)。私が一番でバトンタッチしたら、ご褒美(ほうび)をくれない?」

「ご褒美(ほうび)と言いますと……?」

「そうね……キスとか」

「キッ!?!?」


 瞬間湯沸(ゆわ)かし器のように、(りつ)の顔が赤くなる。


「もちろんほっぺでいいわ」

「いいよ……。ただし一位通過だからね」


 手を(はな)そうとしたら、いつの間にか蒼乃(あおの)(にぎ)られる形になっていて、動かせない。


「あらあら、お熱いことで」

(はるか)が証人ね。ちゃんと約束は守ってもらうわよ」


 正直なところ、(りつ)蒼乃(あおの)がどれくらい速いのか知らない。今回リレーのメンバーを決めるにあたって、四月のスポーツテストの結果を採用したらしいが、この時は周りの数値なんて気にしていなかった。


「じゃ、そろそろ行きますか!」

「二人とも頑張ってね」


 準備に向かった二人と入れ替わりで、疲れた顔をした日向(ひなた)が戻ってきた。


「もうすぐで体育祭も終わりですね」


 そう言えばリレーで体育祭は終わる。さっきまで全然気にしていなかった色別のスコアを確認した。我らの白組は三位だった。リレーでいくら点数が加算されるのか分からないが、優勝は難しそうだ。(りつ)は勝ち負けをそこまで重視していないので、どうでもいい話である。


蒼乃(あおの)がトップバッターなのですね」


 日向(ひなた)は今知った風に言う。全然興味を持ってなかったのだろう。


 一年生、全八クラスがスタートラインに並ぶ。蒼乃(あおの)は内側から三番目。それが有利になるのか不利になるのか(りつ)は知らない。


 ピストルの音がして一斉(いっせい)に走り出した。この瞬間、蒼乃(あおの)がクラウチングスタートなんて慣れるものではないと言った言葉が嘘だと知る。(だれ)よりも的確なスピードでスタートしているのだから。


(あお)ちゃん! 頑張れー!」


 日向(ひなた)が応援しないので、一人で叫ぶのは気恥(きは)ずかしかったが、二人の応援はちゃんとしたかった。でも、一位通過したらキス、するんだ、と考えるとまた顔が熱くなる。


 二位と大差をつけて五組のバトンは二番手の生徒に渡った。


――分かってたな……。


 してやられた。蒼乃(あおの)は自分の足の速さを分かっていて、ご褒美(ほうび)所望(しょもう)したのだ。走り終えてコースの内側に座っている蒼乃(あおの)が手を振ってきた。いい笑顔だ。


 蒼乃(あおの)に言いたいことはあるが、今は(はるか)の応援だ。(はるか)にバトンが渡った時点でもまだ五組は一位を保っていた。


 バスケットボール部に所属する(はるか)。彼女は小学生の頃からずっとバスケを続けている。(きた)え方が違うのだ。


「はるちゃーん! 逃げきれー!」


 (はるか)も見事にアンカーへバトンを(つな)ぎ、その後もミスが起こることもなく、一年生の中で五組は優勝を果たした。


 走り終えた(はるか)蒼乃(あおの)とハイタッチをしていた。(りつ)も嫌がる日向(ひなた)とハイタッチをした。

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