013 -Ritsu-
午後の体育祭も順調に進んだ。実はリレー並みに盛り上がるのが、全クラス全員参加の大縄跳びである。しかし、正直律は気が重かった。約四十人が一斉に飛ぶ。誰かが引っかかれば記録は止まる。その誰かに自分はなるかもしれないのだ。
並び順は身長で割り振られているため、近くに緊張をほぐしてくれるような人もいない。
律は特に運動音痴というわけではないが、緊張しいなところはある。蒼乃に抱き締められた時とは、違う鼓動の高鳴りを感じる。
よく「良い子だね」と律は言われる。特に先生やお母さんたちから言われる。多分蒼乃にもそう思われているに違いないが、律はそこまで良い子ではないことを自覚していた。
だって、結局自分より先に大縄に引っかかった人が出た時、心から安心した。ズルい人間だと思う。その姿を見せてないのに好きと言われて申し訳ない気持ちもあった。そのことを分かった上で、律は今も蒼乃の横にいる。
大縄跳びが終わると、後ろから身長高い組の蒼乃と遥がやって来た。
「ふぅー緊張した!」
遥が両手を上げ伸びをする。まだリレーが残っているというのに、気を抜いて大丈夫なのだろうか。
「正直、引っかからなくてほっとしたわ。こんなこと言うものじゃないでしょうけど」
蒼乃の言葉に、シンパシーを感じて嬉しくなる。いや、共犯関係みたいでよろしくないかもしれない。
「今時、こんな連帯責任を取らせるものやめるべきなんですよ……」
大縄跳びで息を切らした日向が合流する。日向は見た目通りの文学少女で、スポーツの類はからっきしである。
「もうこれでわたしの参加する種目は終わりました……。木陰で休ませていただきます」
「えーちょっと、リレーは応援してよね?」
律、蒼乃、遥は応援席に戻る。二年と三年の大縄跳びが終了してからクラス対抗リレーに移る。遥は準備運動をしてやる気満々だった。
「蒼ちゃんって先頭走るんだよね」
「そうよ。くじで負けたの……」
「緊張してる?」
「それはまぁ……。クラウチングスタートってなかなか慣れるものではないでしょ」
「蒼ちゃん、ファイト!」
律は励ますつもりで、両手で蒼乃の手を握ってみた。すると、蒼乃はなにを思ったのかこんなことを言ってきた。
「律。私が一番でバトンタッチしたら、ご褒美をくれない?」
「ご褒美と言いますと……?」
「そうね……キスとか」
「キッ!?!?」
瞬間湯沸かし器のように、律の顔が赤くなる。
「もちろんほっぺでいいわ」
「いいよ……。ただし一位通過だからね」
手を離そうとしたら、いつの間にか蒼乃に握られる形になっていて、動かせない。
「あらあら、お熱いことで」
「遥が証人ね。ちゃんと約束は守ってもらうわよ」
正直なところ、律は蒼乃がどれくらい速いのか知らない。今回リレーのメンバーを決めるにあたって、四月のスポーツテストの結果を採用したらしいが、この時は周りの数値なんて気にしていなかった。
「じゃ、そろそろ行きますか!」
「二人とも頑張ってね」
準備に向かった二人と入れ替わりで、疲れた顔をした日向が戻ってきた。
「もうすぐで体育祭も終わりですね」
そう言えばリレーで体育祭は終わる。さっきまで全然気にしていなかった色別のスコアを確認した。我らの白組は三位だった。リレーでいくら点数が加算されるのか分からないが、優勝は難しそうだ。律は勝ち負けをそこまで重視していないので、どうでもいい話である。
「蒼乃がトップバッターなのですね」
日向は今知った風に言う。全然興味を持ってなかったのだろう。
一年生、全八クラスがスタートラインに並ぶ。蒼乃は内側から三番目。それが有利になるのか不利になるのか律は知らない。
ピストルの音がして一斉に走り出した。この瞬間、蒼乃がクラウチングスタートなんて慣れるものではないと言った言葉が嘘だと知る。誰よりも的確なスピードでスタートしているのだから。
「蒼ちゃん! 頑張れー!」
日向が応援しないので、一人で叫ぶのは気恥ずかしかったが、二人の応援はちゃんとしたかった。でも、一位通過したらキス、するんだ、と考えるとまた顔が熱くなる。
二位と大差をつけて五組のバトンは二番手の生徒に渡った。
――分かってたな……。
してやられた。蒼乃は自分の足の速さを分かっていて、ご褒美を所望したのだ。走り終えてコースの内側に座っている蒼乃が手を振ってきた。いい笑顔だ。
蒼乃に言いたいことはあるが、今は遥の応援だ。遥にバトンが渡った時点でもまだ五組は一位を保っていた。
バスケットボール部に所属する遥。彼女は小学生の頃からずっとバスケを続けている。鍛え方が違うのだ。
「はるちゃーん! 逃げきれー!」
遥も見事にアンカーへバトンを繋ぎ、その後もミスが起こることもなく、一年生の中で五組は優勝を果たした。
走り終えた遥が蒼乃とハイタッチをしていた。律も嫌がる日向とハイタッチをした。




