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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の体育祭一年目
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12/97

012 -Ritsu-

 体育祭の日でも昼休みは冷房の効(き)いた教室で過ごすことになっている。小学生の時なんかは家族でレジャーシートを敷(し)いて大きなお弁当をつついたものだが、今はいつもの昼休みとさほど変わらない風景が広がっている。


 律(りつ)のお弁当は母特製。今日は体育祭ということもあって、お弁当サイズの小さなハンバーグが入っている。


 蒼乃(あおの)もお弁当。いつぞやか、お弁当は主婦の母親が作っていると言っていた。さっきハンバーグと唐揚げを交換した。


 遥(はるか)はいつもと変わらず、学校近くのコンビニ。遥(はるか)の家は母親しかいないので、遥(はるか)が気を使ってお弁当を作らなくていいと言っている。


 日向(ひなた)もいつもはコンビニが多いが、今日はお弁当だった。四人の中で一番豪勢だった。


 律(りつ)はこっそりと遥(はるか)に視線を向けた。コンビニのおにぎりを片手に、蒼乃(あおの)とリレーの話をしている。律(りつ)が知り合った頃から、遥(はるか)には父親がおらず、運動会のお弁当も相沢(あいざわ)家と一緒に食べていた。そのことを律(りつ)が気にする必要はないことを分かっているものの、体育祭がくると思い出してしまう。


「どうしたのー? りっちゃん。ハンバーグ食べないならあたしがもらっちゃうよ?」

「それはダメ!」


 律(りつ)のレスポンスがあまりにも速かったことに、三人が揃(そろ)って笑う。


「りっちゃんは昔からハンバーグが好きだなー。でも確かにおばさんのハンバーグ美味しいもんね」


 不覚にも遥(はるか)が発した言葉に、蒼乃(あおの)の目が食らいついた。言わなくても分かる。「食べたことあるの?」と言いたいのだろう。


「いや、そんな深い関係はないから! うちの家、親がほとんどいなかったから、りっちゃんママが気を使ってくれてね!?」

「まぁまぁ蒼(あお)ちゃん。今度、うちに招待するから」


 今度は「え?」と三人の目が律(りつ)に釘付(くぎっ)けになった。恋人を家に招待することの重要性を分かっていないのは律(りつ)だけだった。


「律(りつ)、少しは警戒した方がいいですよ。犬の皮を被(かぶ)ったオオカミかもしれません」

「? 蒼ちゃんってどちらかと言うと猫じゃない?」


 日向(ひなた)の忠告にも天然で返す律(りつ)。


「言質(げんち)取りましたからね。今度、絶対、私を家に招待してちょうだい」


 蒼乃(あおの)の圧がすごい強い。律(りつ)は押され気味に「うん」と返した。


「そうだ、蒼乃(あおの)。りっちゃんの家に行くなら、蓮(れん)ちゃんには気をつけた方がいいよ〜」

「蓮(れん)ちゃん?」

「えっとね、蓮(れん)ちゃんって言うのは私のお姉ちゃんなの。三つ上の大学生なんだけど……」


 律(りつ)は難しい顔をする。自分で言うのはちょっと躊躇(ためら)われるからだ。代わりに遥(はるか)が続きを話してくれた。


「蓮(れん)ちゃんね、すんごくシスコンなの。妹ラブで生きている人だから、恋人ができたなんて知ったら大変だよー。ね、まだりっちゃんは言ってないんでしょ」

「言ってません……」


 妹の目から見ても、姉はシスコンをこじらせていた。恋人がいるなんて申し出た日には、暴れ回るかもしれない。デートの服を相談できなかったのには、こういった理由がある。


「楽しみだなー。彼氏じゃなく彼女を連れてきた時の蓮(れん)ちゃんの反応」

「見世物(みせもの)じゃないわよ」


 もはや見世物のような存在なのである。妹が風邪(かぜ)を引いたという理由で彼氏とのデートをすっぽかし、浮気(うわき)を疑われて別れたことのある人だ。小学生の頃は、律(りつ)にちょっかいをかける男子がいたら泣いて謝るまで追いかけ回していた。おそらく律(りつ)の両親は娘の恋愛に寛容的(かんようてき)な人だが、姉は簡単に受け入れてくれないだろう。


「まぁ、まずはお姉ちゃんのいない日にしよう」


 付き合ったばかりなのに修羅場(しゅらば)なんてまっぴらごめんだ。


「面白い話を聞けるのを楽しみにしていますね」

「他人事だと思ってー」

「他人事ですので。せいぜい頑張ってください」

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