014 -Ritsu-
色別対決では負けてしまったが、クラス対抗リレーで勝利を収めたことにより、律の所属する五組はお祭りムードだった。多分、半年後には誰もいらないと言うであろう賞状も大切に飾られることとなった。
今日この後は、クラスメイトが集まっての打ち上げがある。四十人いて、参加は三十四人。かなりの参加率を叩き出した。なお、参加しない六人の中に日向がいた。
「日向もくればいいのに」
「そうだよ、ひなちゃん。別に運動するわけじゃないんだから」
「いや……本当に疲れたので、帰って寝ます」
ふらふらと日向は教室を出ていってしまった。明日は筋肉痛かな。
「蒼乃が参加するのはちょっと意外かも」
「律に変な虫がつかないよう見張る役目があるので」
「つかないつかない。ここにいるみんな、あんたたちがラブラブなの知ってるから」
理由はともあれ、蒼乃が打ち上げに参加してくれることは素直に嬉しかった。
「はるちゃんはどうやってお店まで行くの?」
今回打ち上げをする会場は、学校からだと二十分ほど駅まで歩いて電車になる。ただし、律と遥の家は反対方向だった。
「あたしは一度帰って電車で行こうかな。りっちゃんはどうするの?」
「私と一緒に行きます」
バス通学の律には持ち帰るものがないので、どっちの手段を取っても所要時間は変わらない。どうせなら一緒に、と蒼乃から誘われていた。
「そっか。それなら一緒に駐輪場まで行こ」
駐輪場にはまだ多くの自転車が止まっていた。お祭りの後だから帰るのも名残惜しいのだろう。
蒼乃の自転車は白いシティサイクルだ。前カゴに蒼乃のスクールバッグを入れる。対する遥の自転車は赤色。遠くからでもよく目立つ。紅白。めでたい。
「んじゃ、あたしは先に行くね! またあとで!」
遥がペダルを漕ぎ出すのを見送ってから、律と蒼乃は目を合わせる。
「行こ。蒼ちゃん」
駐輪場から問まではイチョウの木が植わっている。黄色くなるにはまだ時間がかかりそうだった。
律は駅までの道を覚えていないので、蒼乃の横について歩く。
こうして一緒に帰るのは初めてではない。帰り道に遊んで帰る時は、こうして一緒に帰っていた。
いつも学校の塀を過ぎたところで、蒼乃が小さい声で言う。
「乗る?」
もちろん自転車の二人乗りは違法である。良い子のみんなは真似しないでいただきたい。
「乗る」
悪いことの共有、二人の秘密だった。
律はリュックをしっかり背負うと、蒼乃の自転車の荷台に跨る。横乗りは危ないからやめた。いや、そもそも二人乗り自体が危ないんだけれども。
「行くわよ」
文武両道、才色兼備な蒼乃も髪を染めたり、ピアスをしたり、二人乗りをしたりする。ちぐはぐのようで人間らしいところに、律は元から惹かれてはいた。
「段差」
道路に段差があると、いつも蒼乃は事前に知らせてくれる。合図がある度に律は少しお尻を浮かせていた。
「やっぱ自転車は風が気持ちいいね」
「それなら律も遥みたいに自転車通学したら」
「上って下って、上って下って、またも上って下ってだよ? 運動部でもないのにきっついよー。それに……」
「それに?」
「蒼ちゃんとこうして一緒に帰れなくなっちゃう」
「それは困るわね」
自転車だとあっという間に駅に着いた。自転車を停めて改札に向かう。
そして、改札を通り過ぎてICカードを鞄にしまったところで、律と蒼乃は手を繋ぐ。駅には同じ制服を着た生徒がたくさんいたが気にしない。
「アイザワ夫婦じゃん。本当に付き合ってるんだ?」
電車待ちの間、アイスを食べている三年の先輩に話しかけられた。
「はい、本当に付き合ってますよ」
答えたのは蒼乃だった。律もうんうんと頷く。
「良かったねー。おめでとう」
先輩は蒼乃の肩を叩き、笑っていた。「ありがとうございます」と返しておく。
「ここ最近、知らない先輩によく話しかけられるわね」
それどころではない。同じ学年からはクラスにまで顔を確認しにくる連中もいる。若干、辟易としている律であった。
「まぁ、私は何度だって律を自慢するけど」
「あんま恥ずかしいことは言わないでね?」
「恥ずかしいってどんなこと?」
「それはー……、じゃあ、ほら、ちょっと今私のこと褒めてみてよ」
間髪をいれずに蒼乃は答えた。
「可愛い!」
「はい、それ。他人にあんまり言わない」
「えーどうして? 律が可愛いことはみんな認めてるわよ?」
「みんなってどこのみんなだよ……」
律は自身の容姿をあまり客観視できていなかった。
「ほら、電車くるよ」
電車の到着を告げるアナウンスが聞こえてくる。律はホームの乗車位置まで蒼乃を引っ張った。ホームドアの設置されていない小さな駅。電車も六両しかない。それなのに空いていた。
八人がけの座席に律と蒼乃は並んで座る。座ってからも手は繋いでいた。
「なんか電車の揺れって眠くなるよね……」
律は小さくあくびをする。
「起こしてあげるから寝たら?」
「たかが十分くらいでしょ。起きてる」
起きてると言いつつも、律は頭を蒼乃に預けた。蒼乃は少し驚いた顔をしたが、すぐいつもの顔に戻して前を向く。
「毎日こうやって律と帰れたらいいのに」
「そんなに頻繁に一緒だったら、二人乗りで捕まっちゃうよ」
「私、律といろんなところ行きたい」
「ほう、たとえば?」
「デートって検索したら候補に出てくるところ全部」
律は試しにスマホで調べてみた。一番上に出てきたのは、県内のおすすめデートスポット二十八選だった。数が微妙過ぎる。あと二カ所なかったのだろうか。
「水族館とかデートっぽいよね」
「王道って感じよね。水族館なら東京に出た方がいいかしら」
二人で一つのスマホの画面を眺める。十分はあっという間に経ち、目的の駅に着いたのだった。




