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アイザワ夫婦は全校生徒から祝福されている  作者: 妖精卿
アイザワ夫婦の体育祭一年目
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14/97

014 -Ritsu-

 色別対決では負けてしまったが、クラス対抗リレーで勝利を収めたことにより、律(りつ)の所属する五組はお祭りムードだった。多分、半年後には誰(だれ)もいらないと言うであろう賞状も大切に飾(かざ)られることとなった。


 今日この後は、クラスメイトが集まっての打ち上げがある。四十人いて、参加は三十四人。かなりの参加率を叩き出した。なお、参加しない六人の中に日向(ひなた)がいた。


「日向(ひなた)もくればいいのに」

「そうだよ、ひなちゃん。別に運動するわけじゃないんだから」

「いや……本当に疲れたので、帰って寝ます」


 ふらふらと日向(ひなた)は教室を出ていってしまった。明日は筋肉痛かな。


「蒼乃(あおの)が参加するのはちょっと意外かも」

「律(りつ)に変な虫がつかないよう見張る役目があるので」

「つかないつかない。ここにいるみんな、あんたたちがラブラブなの知ってるから」


 理由はともあれ、蒼乃(あおの)が打ち上げに参加してくれることは素直に嬉しかった。


「はるちゃんはどうやってお店まで行くの?」


 今回打ち上げをする会場は、学校からだと二十分ほど駅まで歩いて電車になる。ただし、律(りつ)と遥(はるか)の家は反対方向だった。


「あたしは一度帰って電車で行こうかな。りっちゃんはどうするの?」

「私と一緒に行きます」


 バス通学の律(りつ)には持ち帰るものがないので、どっちの手段を取っても所要時間は変わらない。どうせなら一緒に、と蒼乃(あおの)から誘われていた。


「そっか。それなら一緒に駐輪場まで行こ」


 駐輪場にはまだ多くの自転車が止まっていた。お祭りの後だから帰るのも名残惜(なごりお)しいのだろう。


 蒼乃(あおの)の自転車は白いシティサイクルだ。前カゴに蒼乃(あおの)のスクールバッグを入れる。対する遥(はるか)の自転車は赤色。遠くからでもよく目立つ。紅白。めでたい。


「んじゃ、あたしは先に行くね! またあとで!」


 遥(はるか)がペダルを漕(こ)ぎ出すのを見送ってから、律(りつ)と蒼乃(あおの)は目を合わせる。


「行こ。蒼(あお)ちゃん」


 駐輪場から問まではイチョウの木が植(う)わっている。黄色くなるにはまだ時間がかかりそうだった。


 律は駅までの道を覚えていないので、蒼乃(あおの)の横について歩く。

 こうして一緒に帰るのは初めてではない。帰り道に遊んで帰る時は、こうして一緒に帰っていた。


 いつも学校の塀(へい)を過ぎたところで、蒼乃(あおの)が小さい声で言う。


「乗る?」


 もちろん自転車の二人乗りは違法である。良い子のみんなは真似(まね)しないでいただきたい。


「乗る」


 悪いことの共有、二人の秘密だった。

 律(りつ)はリュックをしっかり背負(せお)うと、蒼乃(あおの)の自転車の荷台に跨(またが)る。横乗りは危ないからやめた。いや、そもそも二人乗り自体が危ないんだけれども。


「行くわよ」


 文武両道(ぶんぶりょうどう)、才色兼備(さいしょくけんび)な蒼乃(あおの)も髪(かみ)を染めたり、ピアスをしたり、二人乗りをしたりする。ちぐはぐのようで人間らしいところに、律(りつ)は元から惹(ひ)かれてはいた。


「段差」


 道路に段差があると、いつも蒼乃(あおの)は事前に知らせてくれる。合図がある度に律(りつ)は少しお尻を浮かせていた。


「やっぱ自転車は風が気持ちいいね」

「それなら律(りつ)も遥(はるか)みたいに自転車通学したら」

「上って下って、上って下って、またも上って下ってだよ? 運動部でもないのにきっついよー。それに……」

「それに?」

「蒼(あお)ちゃんとこうして一緒に帰れなくなっちゃう」

「それは困るわね」


 自転車だとあっという間に駅に着いた。自転車を停めて改札に向かう。


 そして、改札を通り過ぎてICカードを鞄(かばん)にしまったところで、律(りつ)と蒼乃(あおの)は手を繋(つな)ぐ。駅には同じ制服を着た生徒がたくさんいたが気にしない。


「アイザワ夫婦じゃん。本当に付き合ってるんだ?」


 電車待ちの間、アイスを食べている三年の先輩に話しかけられた。


「はい、本当に付き合ってますよ」


 答えたのは蒼乃だった。律(りつ)もうんうんと頷(うなず)く。


「良かったねー。おめでとう」


 先輩は蒼乃(あおの)の肩を叩き、笑っていた。「ありがとうございます」と返しておく。


「ここ最近、知らない先輩によく話しかけられるわね」


 それどころではない。同じ学年からはクラスにまで顔を確認しにくる連中もいる。若干、辟易(へきえき)としている律(りつ)であった。


「まぁ、私は何度だって律(りつ)を自慢するけど」

「あんま恥ずかしいことは言わないでね?」

「恥ずかしいってどんなこと?」

「それはー……、じゃあ、ほら、ちょっと今私のこと褒(ほ)めてみてよ」


 間髪(かんぱつ)をいれずに蒼乃(あおの)は答えた。


「可愛い!」

「はい、それ。他人にあんまり言わない」

「えーどうして? 律(りつ)が可愛いことはみんな認めてるわよ?」

「みんなってどこのみんなだよ……」


 律(りつ)は自身の容姿をあまり客観視できていなかった。


「ほら、電車くるよ」


 電車の到着を告げるアナウンスが聞こえてくる。律(りつ)はホームの乗車位置まで蒼乃(あおの)を引っ張った。ホームドアの設置されていない小さな駅。電車も六両しかない。それなのに空いていた。


 八人がけの座席に律(りつ)と蒼乃(あおの)は並んで座る。座ってからも手は繋(つな)いでいた。


「なんか電車の揺れって眠くなるよね……」


 律(りつ)は小さくあくびをする。


「起こしてあげるから寝たら?」

「たかが十分くらいでしょ。起きてる」


 起きてると言いつつも、律(りつ)は頭を蒼乃(あおの)に預けた。蒼乃(あおの)は少し驚いた顔をしたが、すぐいつもの顔に戻して前を向く。


「毎日こうやって律(りつ)と帰れたらいいのに」

「そんなに頻繁(ひんぱん)に一緒だったら、二人乗りで捕まっちゃうよ」

「私、律(りつ)といろんなところ行きたい」

「ほう、たとえば?」

「デートって検索したら候補に出てくるところ全部」


 律(りつ)は試しにスマホで調べてみた。一番上に出てきたのは、県内のおすすめデートスポット二十八選だった。数が微妙(びみょう)過ぎる。あと二カ所なかったのだろうか。


「水族館とかデートっぽいよね」

「王道って感じよね。水族館なら東京に出た方がいいかしら」


 二人で一つのスマホの画面を眺める。十分はあっという間に経ち、目的の駅に着いたのだった。

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