過去(11)
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天野との食事以降、湊は時折「俺たちのジェラート屋」のワゴンが停まる公園へ足を運ぶようになった。注文するジェラートはレモン入りのダブルかトリプルである。
だが、美味しくはあるのものの初回ほどの感動はない。慣れてしまったからだろうと捉えていた。
それでもその日は──渚を手に掛けた連続殺人犯の最高裁における上告審の判決が下された日には、ジェラートを口にせずにはいられなかった。
天野と「俺たちのジェラート屋」に来てから二年の月日が過ぎていた。天野のアイデアを元にした新シリーズ、「神楽に解けない謎はない」は見事当たって順調に版を重ねている。もう三作目だ。自分の時間も確実に過ぎているのだと実感させられた。
あの日と同じベンチに腰を下ろしレモンソルベを齧る。相変わらずの脳天を貫く酸味も今日は苦く感じた。
判決の結果は被告人側の上告棄却。刑が確定したことになる。傍聴に訪れていた自分と同じ被害者の遺族らは、皆押し黙って裁判長の言葉を聞いていた。
誰もが疲れたような顔をして俯いていた。被害者の一人の母親の女性は娘の遺影を胸に泣いていた。ようやく終わったと胸を撫で下ろした遺族など一人もいなかった。大切な家族を失った痛み自体が癒えることはないのだから。
唯一の救いは今回マスコミの報道が加熱していないことだろうか。被害者に渚──警察官の親族とマスコミの関係者がいたことが報道を抑制している。だが、ありがたみを覚えるよりもそんな忖度に理不尽さを覚えた。
やりきれなさを振り切ろうと、日の暮れかけた空を見上げる。
まだ明るいからか空に星は見えない。二年前、天野と見上げた星座の名前はなんだっただろうかと首を傾げた。
「確か、こいぬ座……だったかな」
天野との会食後に調べてみたのだが、確かに彼女が説明していた通りだった。子犬には見えない。薬をキメないと無理だろう。
「……」
なんだかおかしくなりくすりと笑う。
久々に酒を口にしたくなった。酔って底なし沼のような負の感情のぬかるみに足を囚われていることを忘れたかった。
とはいえ、この心境で自宅で一人グラスを傾けるのは少々苦しい。だからと言って誰かと話したいわけでもない。
賑やかなところで大勢のお喋りや笑い声を聞きながらがいい。喧騒が考え込んでしまうのを防いでくれるだろう。
さて、どこにするかとスマホに目を落とし、次回作品の舞台にしようと予定していた都心のアクアリウムバーを思い出した。
客を引き込むために巨大な水槽を設置して色鮮やかな魚を泳がせたダイニングバーだ。人気店なので今夜も大勢の酔客で賑わうはずだった。




