過去(7)
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寿し銀の外に出ると一陣の風が吹き、中が暖かった分冬の寒さが身に染みた。
天野のトレンチコートは薄手だったので、心配になり隣を歩く彼女を見下ろす。
「天野さん、寒くないですか?」
天野はぱっと顔を上げあの満面の笑みを浮かべた。
「はい、大丈夫です! 私、体温高いんですよ。いつも三十七度くらいあるんです。学生時代は毎年冬になると友だちに人間カイロだってよくハグされてました。あっ、今もか」
確かに、ニコニコ笑う天野は懐に入れれば温かそうだった。
「ところで、今からどこへ行くつもりでしょう」
「ちょっと歩きますけどいいですか?」
「ええ、腹ごなしにもなりますし構いません」
雑談をしつつ二人で大通りに抜ける。
すでに夜九時を過ぎているのでショッピングモールや路面店は店仕舞いをしていたが、これからが本番とばかりのほろ酔いの若者のグループや仲睦まじそうなカップルとすれ違う。カップルは夜だからか皆遠慮なく手を繋いだり、腰に手を回していた。
アツアツの雰囲気に当てられたのだろうか。それとも十分も歩くうちに次第に体が温まってきたのか。寒さもほとんど気にならなくなっている。
東京の新たなシンボルの塔が見える公園前で、不意に足を止めた天野に面白そうな顔で見上げられる。
「東海林先生、甘いものは好きですか?」
「ええ」
「よかった。ほら、あそこです!」
天野が指した先は枯れ木に囲まれた広場の片隅。緑、白、赤のイタリアンカラーのキッチンカーが止められていた。
車体の側面に軒先があり出店部分にはずらりとカラフルなアイスクリームのサンプルが並べられている。温かいコーヒーやミルクティーも販売しているらしい。
人気店らしく夜遅いのに十組ほどのカップルが列を作っている。
「ここのジェラート絶品なんですよ。それに、動いたあとの冬のアイスってすごく美味しいでしょう?」
店主は脱サラした若夫婦で揃って元大のジェラートファン。好きが高じて二人で製菓学校に通い開業に至ったのだとか。その後口コミで人気が広まり平日も週末も一日中客が途切れないのだという。
「じゃあ、私、買ってきますね。そこのベンチで待っていてください。先生は何味が好きですか?」
何が好きかと問われ不意に幼い日のごく平凡な、だが忘れられない記憶が蘇る。
『ねえ、お兄ちゃん、今からお母さんとスーパーに行くの。お土産にアイス買ってきてあげるよ。何味がいい?』
『なんでもいい』
『なんでもいいじゃわからないよ。ちゃんと頼んで?』
『じゃあ、キャラメル。それとバニラ』
『えーっ、二つも? ずるい! じゃあ、私も二つ買ってもらおうっと』
「キャラメルとバニラ……」
気が付くとそう答えていた。
天野が敬礼の姿勢を取る。
「わかりました! キャラメルとバニラですね?」
「いいえ、二つも悪いので……」
「遠慮しないでください。先生、人間、欲張りな方が得をしますよ?」
彼女のセリフには強引かつ妙な説得力があった。




