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イケメン推理小説家の今日の献立  作者: 東 万里央
第四話「餡かけチャーハンと焼き餃子」
60/85

失恋しちゃえ

***


 一体、サンダース宅のあの女性は何者だったのだろう。帰りには見かけなかったが、お節介なお隣の奥さんがついでに掃除をしていたのだろうか。


 いや、今はそんなことよりも重大な問題があった。


 永夢はテーブルの上のスマホを見下ろした。


 昼食時の青雲館最寄り駅近くの某イタリアンファミレスは、サラリーマンやOL、ご近所のマンションに暮らす人妻で一杯だ。


 きっと順番待ちの来店客も多いのだろう。とっとと食事を済ませて席を空けなければならない。だが、まだ椅子を立つ気にはなれなかった。


 対談から数日が経ち明日は誘われた土曜日。そしてもう金曜日の昼食時だというのに、まだ東海林に返事をしていない。うだうだしている時間はないのに。急かされないだけになおさら焦る。


 ラインのトークルームのメッセージ欄には「餃子の件わかりました! ビール持って手伝いに行きますね」と打ってある。だが、最後の送信ボタンを押せていない。


 なぜらしくもなくこうも躊躇うのか。サンダースの言葉に励まされ、怖がらずに向き合おうと決めたのに。


「あ~、もう!」


 自分自身がもどかしくフリードリンクのコーラを飲み干す。すっかり氷は溶け水っぽくなっていた。


 ところが、ヤケクソ気味に一気飲みしたからか、気管に入ってしまい堪らず目を閉じ思い切りむせる。いかん、このままでは日本のマーライオンになってしまう──焦りから口を押さえるとなおさら吐き出したくなる。

 

 ところが、もうダメだと観念した次の瞬間、不意に何者かに背を優しく擦られた。


「……っ」


 どうやら見かねた誰かが落ち着くのを手伝ってくれているようだ。おかげで一、二分もすると咳も収まり、礼を言おうと顔を上げると、三上が笑って自分を見下ろしていたので驚いた。


 相変わらず完璧なスーツスタイルとメイクだ。


「ありがとうござ……あれっ、三上さん」


「外から永夢ちゃんが見えたから。相席いい?」


「はい、もちろんです。三上さんとご飯食べるの久しぶりですね。あっ、お礼にピザどうですか? チーズを二倍にしてもらったんですよ~」


「そうねえ、一切れもらおうかしら」


「どうぞどうぞ」


 ピザの皿をテーブル中央に押し出し、同時にスマホの画面が目に入って真っ青になった。


「……!?」

 

 いつの間にか送信ボタンが押されてたのだ。


「えっ、やだ。嘘っ」


 慌てて送信を取り消そうとしたのだが、すでに既読となっておりもう手遅れだった。


「あら、永夢ちゃん、どうしたの?」


「えっと、その……」


 むせた際スマホの画面には手を触れていなかったはずなのに、なぜメッセージが勝手に送信されていたのかと首を傾げる。弾みで指先が接触したのか。


 いずれにせよ、今更「やっぱりナシで」というわけにはいかないだろう。


「な、なんでもありません……」


 直後に、東海林から電話が掛かってきたのでビクリとする。


 どうしよう、どうしたらいいのかとワタワタしてしまった。


 三上がにっこりと笑って永夢に促す。美しく、優しく、人のいい微笑みだった。


「電話? 私がここにいるから席は大丈夫よ。行ってらっしゃい」


「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします……」


 永夢は三上に頭を下げスマホを手に店の外に出た。


 今日中には返事をしなければならなかったのだから、結局同じことだったのだと自分に言い聞かせる。そして、覚悟を決めて電話に出た。


「もしもし――」




 永夢の背を見送り三上はピザを一切れ摘まんだ。


 パクリと一口食べ「……ざまあみろ」と呟く。


あんた(錦戸)も失恋しちゃえ」

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