縁側とインタビュー(3)
永夢は東海林が本心を語っているのだとなぜか察せた。その小説家としての源泉を知りたくて耳を傾ける。
『書いて初めて言葉には力があるのだと実感しました。私も含めて普通人間は自分がどんな気持ちでいるのか、なぜそんな気持ちになるのか把握できずに生きていると思います。恐らく知ろうともしていない。特に日本人男性はそうした傾向が強い気がします。よくわからないまま忙しい一日をやり過ごす。その繰り返し』
自分は気持ちをガッツリ把握し、ほぼ百パーセント正直に生きているので、えっ、男の人ってそうなの!?と驚く。
『確かに、よく男性は女性から人の心の痛みに鈍感だの、言葉が足りないだのと言われますね』
『アー、それは私も感じたことがありますネ。ただ、日本人男性の場合は足りないのではなく、言葉や表現を知らないという気がしまシタ。そうした教育を受けていなイ』
東海林はそのとおりだと頷いた。
『だから、自分の気持ちにピッタリ来る一文に出会った時……小説でなくても構いません。ポップソングの歌詞やSNSでリツイートされる一言でもいい。非常に感動し、これは私のための物語だ、俺のための歌だ、僕のための一言だと感じる。自分の気持ちを明文化されただけでハッとし、救われるのです』
『なるほど、東海林先生は書くことで澱がなんなのかを把握できたと』
『ええ、セルフカウンセリングですね。同時に、加害者や被害者の気持ちも理解しようと、これまでの事件を振り返り、架空の舞台、架空の事件、架空の人物に託して物語として書いたんです』
『ああ、ですから東海林さんのミステリー、特に初期の作品は心理描写と人間ドラマの密度が高いのですネ』
永夢は東海林の広い背から目が離せなくなっていた。
一体、どんな気持ちで渚の、彼女を殺害した犯人の心境を書いたのだろう。東海林はそれで救われたのだろうか。誰もいなければ後ろからそっと抱き締めてやりたかった。
東海林は言葉を続ける。
『だから、初期の警視庁シリーズはある意味私の私小説とも言えます。ですが、サンダース先生もご存知の通り私小説には限界がある。一人の人間の半生にそれほどネタはありません。そのためにシリーズを終わらせるしかありませんでした。小説家を辞めようとも考えていたのです』
「なっ……」
嘘ーん!?と顎が外れそうになったので思わず押さえる。これまた初耳だった。
足の生えたドル箱が札束を撒き散らしながら走り去るイメージが脳裏に浮かぶ。ああ、待って~私の実績~私のお給料の元~と追いすがろうとしたのだが、すぐに立ち止まって振り返った。
『ですが、ちょうどその頃担当の編集者が変わりました』
自分の話題が出たからだ。
東海林の背中が笑っている。背中だけではない。声を出して笑っていた。
『彼女に、天野さんに言われたんです。"ぜひ今度は頭カラッポにして読めるミステリーを書いてください!"と』
この回答も台本にはなかった。




