縁側とインタビュー(1)
***
今日のサンダースは銀鼠色の無地の着流しに芥子色の鱗模様の帯を締めていた。さらりとした着こなしでつくづくスタイリスト不要だと感心する。この二人に関してはとにかく経費がかからないのでありがたい。
そしてサンダースは日本文化にどっぷり浸かっていてもやはり外国人。永夢と顔を合わせるなり先手必勝で褒めてくれた。
「おや、天野さん、今日は可愛い服を着ていますネ! よく似合っていまス。妖精のようですヨ。日本で例えると……ウ~ン、座敷わらし?」
「やだなあ、サンダース先生、そこは雪女って言ってくださいよ」
「ウム。確かに雪女はお爺さんの茂吉は凍死させましたけど、イケメンの巳之吉は助けるどころか押し掛け女房になっていましたネ」
「まんま私じゃないですか。絶世の美女ってところも」
「アハハ、天野さんはやっぱり面白い人ですネ」
いつものように笑い合って挨拶を済ませ、最終的な打ち合わせを終わらせたのだが、東海林がどこか複雑そうな表情なので首を傾げる。
「東海林先生、どうしました?」
体調が悪くなったのか。それとも気が乗らないのかと心配していると、東海林は「確かに天野さんは人懐こいですね」とぽつりと呟いた。
「男性とでもすぐに仲良くなると言いますか……」
「あ~、よくそう言われますね」
永夢は自分が童顔でちびっ子なので、警戒心を抱きにくい――というよりは舐められているからだろうと分析していたのだが──
「……そうですか」
東海林は用意された座布団に腰を下ろした。取り敢えずやる気はあるようなので胸を撫で下ろす。
今日の百物語専用部屋は日差しが入り込むよう、障子もカーテンも開け放たれている。
このまま室内で対談する予定だったのだが、開始直前に「天野さん」とカメラマンに手招きされた。
「縁側のほうが映えると思いませんか?」
「あっ、確かに」
横並びで対談できる上に風情がある。
「サンダース先生に聞いてみますね」
ところが、サンダースは当初この提案に頷くのを渋った。
「縁側はワガハイの縄張りなんですヨ。あいつは気難しくテ……。……ウン、デモ待てヨ」
サンダースは東海林にちらりと目を向けた。続いて縁側で惰眠を貪るワガハイに視線を移す。なぜか悪戯を思い付いた子どものように面白そうだった。
「承知しましタ。では、縁側にしまショウ」
サンダースと東海林が縁側に向かうと、ワガハイがピクリと反応し金色の目を開けた。
「……」
品定めするかのようにギロリと東海林を睨み付ける。
一方、東海林は猫好きらしく「おいで~♪」と普段には有り得ない甘い声でワガハイを呼んだ。なんと目尻も下がっている。
くっ! 私もあんな声で呼ばれたい! この泥棒猫!──などと永夢が心の中でハンカチを噛み締めていると、ワガハイがのそりと立ち上がり東海林の膝の上に乗った。フンスと鼻を鳴らしてそのまま居座ってしまう。
「オヤ」
サンダースが目を見開き次いで笑みを浮かべた。
「なるほど、東海林さんは本当に優しい人なのですねェ……」
こうして対談が始まった。
さて、対談には念入りな下準備がいる。
まずテーマを決め構成案を立てる。今回はなぜ小説家になろうとしたのか、それまでにどのような経験や葛藤があったのか、執筆する際のポリシーや創作論、今後はどのような小説を書きたいかの王道四点セットとなった。
東海林もサンダースも自分語りをほとんどしないタイプだ。後書きでも通り一遍のことしか書かない。それだけに読者の興味を引くのではないかと思われた。
その後対談をスムーズに進めるために質問をいくつか想定する。今日の第一の質問は「これまでを振り返りながら、小説家を目指した動機を語ってください」だ。
ちなみに、事前に二人には質問をしておき、回答がバッティングしないよう擦り合わせてある。この回答をもとに大まかな台本を作成する。
なお、台本は永夢が四苦八苦して仕上げた。一般的にはプロのライターに依頼することが多いのだが、「何事も経験だからやってみろ。お前ならできるはずだ」と編集長に尻を叩かれたのだ。まあ、経費削減の口実だろう。
更に、対談のスムーズな進行のために司会役──ファシリテーターも必要となる。ファシリテーターは登壇者に質問を投げかけ、話す側が一方に偏らず五分五分になるよう配分し、流れに合わせてアドリブで台本にない質問をしたり、時には時間を考慮して質問を省いたりと重要な役割だ。
これはさすがに永夢では無理だったので、対談記事をよく掲載する青雲館の週刊誌、パイプの編集者に紹介してもらったプロの男性に頼んだ。
「はい、では録音開始します」
永夢がICレコーダーとノートパソコンのビデオカメラをオンにすると、男性が人の良さそうな笑みを浮かべつつ質問を投げかけた。
「初めまして。今回ファシリテーターを務めさせていただく仙道です。東海林先生、サンダース先生、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「お世話になりまス」
永夢は二人の背後に座布団を敷いて正座をし、台本のコピーに目を落とした。
東海林の過去について聞けるかと期待していたのだが、さすがに回答に渚についての言及はない。当たり障りのない内容となっている。何せ事情が事情である。仕方がないかと諦めていたのだが──




