下町歩きとカステラ焼(3)
いつにない鋭さがあったからだ。
「高岡先生はまだ二十代ですか?」
「……?」
なんの前触れも脈絡もない質問に首を傾げる。いずれにせよ高岡はプロフィールの公開を望んでいないので断った。
「その、個人情報ですのですいません」
確かに高岡の文章には若々しさはあるものの、なぜ速攻で二十代と断定できたのか不思議だった。そうした文章を書ける年配の小説家もいくらでもいるし、一昔前とは違い、小説家のデビューの年齢も十代から七十代までと幅広くなっている。
東海林は今度は視線を横断歩道の向こう側に移した。
「失礼します。少々立ち寄りたいところがあるのですが。すぐに終わりますから」
「あっ、はい」
東海林の意図を把握できないままついて行く。東海林が向かった先は浅草名物のひとつ、人形焼きの販売店だった。
古びた電飾看板の「人形焼き」の文字に来たこともないのに懐かしさを覚える。レジの後ろの柱には創業者のモノクロ写真が掲げられていた。その色も店の歴史とともにセピア色と化している。
店頭のショーケースにはお多福型の人形焼きだけではなく、夜店で時折売られているベビーカステラのハイエンドバージョン、カステラ焼きの詰め合わせも並べられている。ナッツ入りや瓦型の煎餅も美味しそうだ。
客が切れないところからして人気店なのだろう。地元民と思しき老人が人形焼きを注文している。
二階にはイートインがあるのだろうか。若い女性の二人連れが菓子と抹茶の載った盆を手に、笑い合いながら階段を上っていった。
「サンダース先生への手土産にしましょうか」
東海林は人形焼きの十二個入りの箱詰めとカステラ焼きの袋詰めを一つずつ買った。サンダースへの手土産にしては少々多い。
自分の分なのかもしれない。東海林は酒よりも菓子を好むタイプだ。
数分歩いたところで紙袋からカステラ焼きの袋を取り出し、封を切って狐色に焼かれたそれを一つ口に放り込む。
「うん、美味い。人形焼き系はやはりこの店がいい」
もうすぐ午後三時。小腹が空く時間だ。
永夢は二つ目のカステラ焼きを放り込む東海林を凝視した。
東海林が三つ目のカステラ焼きを摘まんで永夢の目の前に差し出す。
唇の端には笑みが浮かんでいるが目は笑っていない。少々怖い。
だが、「天野さんもいかがですか?」と勧められ目を輝かせた。
「……!」
きっとビーフジャーキーをホレホレと振られ、命じられてもいないのにお座りで尻尾をブンブン振り、舌からヨダレをダラダラ垂らす犬と同じ顔をしていたに違いない。
永夢が期待の眼差しで首を一八〇度の角度で上下に振ると、東海林はうずらの卵大のそれをひょいと口に放り込んでくれた。
生地をこんがり焼いた香ばしさが口一杯に広がる。続いてハチミツと卵の優しい甘さに頬が緩んだ。外はさっくり、中はしっとりふっくら。それなりに弾力があるので食べたと満足もできる。
帰りに自分も買って帰ろうと頷いていると、東海林はもう一つカステラ焼きを取り出した。
「恐らく高岡先生は身長は一七ニセンチ以上一七八センチ以下。体重は六十キロ前後の細身体型。茶色がかかったさらさらのストレートの短髪で、王子様系のイケメンではありませんか? チャラさはなく爽やかで努力家でえくぼがある」
「……!?」
思わずゴクリとカステラ焼きを飲み下した。
いくら元警察官とはいえなんのソースもないはずのにそこまで特定できるのはなぜだ。




