今時の若いモン
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それから一ヶ月後。いよいよ対談当日。
永夢は自分が対談するかのように緊張していた。
理由は二つ。
まず、会場がサンダースの浅草の自宅になってしまったからだ。しかも、いつも百物語をキメるあの部屋だ。
問題は百物語でも床の間のやたらとリアルな幽霊画でもない。この古民家の建築様式や間取り、内装が特徴的過ぎるということだった。今回は対談の様子も撮影して小説サンに掲載するのだが、ネットに晒されればあっという間に悪い輩に住所を特定される恐れがある。
当初は都内のホテルの見栄えのする一室を予約するつもりだった。業者の取材や対談、撮影向けにそうした専用プランがあるのだ。
ところが予約を入れる前日、新作のプロットを受け取りにサンダース宅へ向かった際、会場は自宅にしてほしいと打診された。
もちろん、やめておけと忠告はしたのだが──
『最近のネット特定班って無駄に有能なんですよ。SNSに投稿した写真のほんのちょっとしたところから見つけちゃうんです。自宅マンションの廊下のつくりでどこかバレたとか、瞳に映った風景から大体の住所がわかったとか、果ては撮影した空に浮かぶ雲の形から大体の位置を言い当てたとか、そんな変態がそこいら中にウジャウジャしてるんですよ。強盗に遭ったりストーカーに押し入れられたりしても私責任取れませんって』
『アハハ、大丈夫ですヨ』
サンダースは着流しの両袖に両手を入れ、縁側で惰眠を貪る白猫に目を向けた。でっぷり太っていかにもふてぶてしい。
『天野さんだけには教えてあげまショウ。すでに何度か泥棒に入られたのですが、全員何も取らずに這々の体で逃げていまス。ワガハイが化けて追い払ってくれたかラ』
『はっ?』
ワガハイとは縁側の白猫でありサンダースの飼い猫の名前だ。
『実は、ワガハイは猫又なのでス。いつも尻尾を隠しているのは二本あるとバレないようにするタメ。毎日のちゅ~○と引き換えに用心棒になってくれているんですヨ。WIN─WINですネ!』
WIN─WINの部分だけやたらと発音がよかった。
サンダースは続いて床の間の幽霊画に目を移す
『ワガハイだけではありません。それ以降幽霊画の彼女も心配してくれまして、自分を修復してくれた恩返しにと、夜な夜な掛け軸から抜け出しての警備を怠りません。あくまで夜限定ですが。セコ○よりお役立ちデス』
『……』
背筋から冷や汗が流れ落ちる。ホラを吹いているのだと言い切れないのがサンダースの怖いところだ。
『わ、わかりました。編集長に相談してみます』
サンダースは笑いながら袖から手を出した。
『無理を言って申し訳ございまセン。ですが、東海林さんの希望でもあるのですヨ』
『えっ、東海林先生が?』
プロットが入った封筒をバッグに入れる手が止まる。永夢を見つめる薄い青の目は妙に楽しそうだ。
『一度お邪魔してみたいと頼まれましテ。いやあ、あれハ……ウン』
永夢は何がアレなのかと首を傾げる。サンダースはうんうんと頷きつつ江戸切子のグラスに入った麦茶を啜って目を細めた。
『今時の若いモンはいいですネエ。私が十代だった頃を思い出しまス。応援したくなりますヨ』
『???』
サンダースが何を言っているのかがさっぱりわからなかった。




