ツーショット
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美味しいご飯と好きな人の笑顔は元気をくれるらしい。
昼食後に次の目的地、七代の滝へ向かう途中も永夢は元気一杯だった。登山道の段差も上り下りももう気にならない。
数多くの奇岩が森一面に散らばる有名な岩場ロックガーデンでは、響子とキャッキャウフフしながらスマホで写真を撮り合った。
途中、響子が大きく手を振り城崎と東海林を呼ぶ。
「そうだわ。ちょっと、あなたー、東海林くーん、こっち来てー」
二人は買い物の荷物持ちとして強制的に駆り出され、ヨメが商品を物色中、手持無沙汰でその辺をうろうろするダンナのような顔をしていたが、響子には決して逆らってはならないとプログラムされているのだろうか。おとなしく永夢たちのもとにやって来た。
「天野さん、主人と私を撮ってくれない? そうねえ、あそこの岩の前がいいわ」
響子が巨大なドラ焼きそっくりの苔生した奇岩を指差す。
「ほら、あなた」
渋々やって来た城崎の腕に自分の手を回した。
「おいおい、なんだ。みっともない。若者じゃないんだから」
「年を取ってたっていいじゃないの」
響子は少女のようにはしゃいでいる。なんだかんだで妻を大切にしているのだろう。城崎は永夢の「はい、チーズ!」に引きつった笑みを浮かべていた。
「次はあなたたちね! ほら、スマホ貸して。並んで」
響子に促されおずおずと東海林の隣に立つ。
「あたなたちは若いんだから、イチャイチャしていいのよ?」
「いや、アハハ……」
笑って誤魔化すしかない。
悠人と付き合っていた頃にはふざけてその腕に飛び付くなり、受け狙いで面白おかしいポーズを取るなりしていたのだが、東海林のそばではとてもそんな気にはなれなかった。
「私たちも腕組んだんだから、ほら!」
このまま撮ってくださいと口を開きかけた次の瞬間、不意に肩を抱き寄せられて目を見開いた。
「はい、チーズ!」
永夢の体がすっぽり収まるほど長い腕だった。
何枚か撮られたのち東海林の手が離れる。珍しく気まずそうに目を逸していた。
「……申し訳ございません。響子さんはこうと思ったことはやるまで気が済まない人なので」
「アハハ、気にしないでください。なんとなくわかります」
東海林は響子に気を遣っただけ、そう響子に気を遣っただけ。
自分にそう言い聞かせたのだが、ハイキングの一通りの終え御岳山駅に戻っても、長い腕と大きな手の感触がまだ残っていた。
***
御岳山駅から麓の滝本駅までは下りのケーブルカーで約六分。
すぐ到着する距離だったのだが、弁当作りのために朝早く起きていたからか、永夢は隣の席の響子の肩に頭を預けうたた寝をしてしまった。
「あら、疲れたのかしらねえ」
その間、三列後ろの席で城崎と東海林がやはり隣り合って腰掛け、言葉少なに語り合っていたことなど知る由もなかった。
「──東海林、いい子を見つけたな。見合いを断るための芝居だと思っていたが。式はいつ挙げるんだ? もちろん、仲人は任せてくれるな」
「いや、彼女はまだ二十四歳ですよ。付き合い始めて間もないですし……」
「もう二十四歳だろう。グズグズしていると他の男に取られるぞ。ああいう人懐っこい子はモテるからな」
束の間だが会話が途切れる。
「それは困りますね……」
「そうだろう、そうだろう」
「……天野さんといると食事が美味しいんです」
黒に近い濃い茶の双眸が窓の外に向けられる。
「ちゃんと味がする。それに、彼女が美味しいと言ってくれると、私も嬉しくなるんです」




