みんな大好きなお弁当(2)
バスケット型のランチボックスを開ける。
中には手羽元のフライドチキンとフライドポテトをぎっしり詰め込んでいた。
「あらっ、豪華!」
響子が歓声を上げる。
チキンの味付けはシンプルに塩コショウで塩を強めに、ポテトには揚げてからコンソメをまぶしてある。ポテトはこうすると冷めるまでにコンソメが染み込み、しっとり感でより美味しくなると母に聞いた。
「これ、私が子どもの頃母がよくお弁当に入れてくれたんです。家族みんな大好きで、テストの結果がよかったり、部活の大会でいい成績出したり、ちょっといいことがあっても作ってくれて……」
兄と競うように食べたのをよく覚えていた。
三弾重ねのランチボックスにはそれぞれの段に具違いのサンドイッチを並べている。
一段目にはポークチャップと蒸しキャベツのサンドイッチ、二段目にはふわふわ厚焼き玉子のサンドイッチ、三段目には──
響子が興味津々にボックスを覗き込む。
「カラフルで素敵ねえ。これは何を挟んであるのかしら? ブルーベリージャム? それだけじゃないわよねえ?」
「食べてからのお楽しみで~す」
全員でお絞りで手を清め、誰からともなく「いただきます」と手を合わせる。
まず響子が三段目の謎のサンドイッチを手に取った。一口食べぱっと顔を輝かせる。
「これ、ピーナッツバターね? ピーナッツバターとブルーベリージャム」
「正解! これもうちの定番だったんですよ~」
ピーナッツバターとブルーベリージャムを挟んだサンドイッチはアメリカ料理だ。子どもたちがよくランチに食べるおふくろの味のひとつでもある。
小学生の頃見ていたアメリカのホームドラマのワンシーンで、主人公の女子高生がハイスクールで齧り付いているのを見て、私も食べたい! 作って!と母にねだった。結果、天野家全員の支持を得て弁当の定番になった。
作り方は簡単。食パンを二枚用意し、片方のパンにピーナッツバターを、もう片方に好みのジャムをたっぷり塗るだけ。今回はブルーベリーにした。ピーナッツバターのこってりコクのある風味とブルーベリーの甘酸っぱさとのハーモニーがたまらない。
「ほらっ、あなたも食べてみてよ」
城崎家はかかあ天下らしく警視総監も響子には敵わないようだ。手渡されたピーナッツバターとジャムのサンドイッチを口にし「ふむ」と頷いた。
「悪くないな。ふむ、悪くない」
きっと「悪くない」は城崎最上級の褒め言葉なのだろう。
この二人以上に気になるのが東海林の反応だった。外食でジャンクから一流まで美味しいものを食べ慣れ、料理上手でもある彼にどう評価されるのか。
東海林はどちらにしようか迷っているらしい。視線がふわふわ厚焼き玉子のサンドイッチとチキンバスケット間を行き来している。
新たに発見したそんな子どものような表情を可愛いと思ってしまう。目が離せない。
ようやく心が決まったのか、東海林がふわふわ厚焼き玉子のサンドイッチに手を伸ばした。
永夢の心臓がドキリと鳴る。
今回作ったサンドイッチの中でも一番苦労したものだったからだ。
たかが卵焼きと侮るなかれ。練習でふわっとした食感になるまで何度も失敗した。実家の母に教わった通りのレシピなのに。母はいつも一発で美味しく作っていたのに。そのたびに電話で問い合わせアドバイスを頼んだ。
『卵とマヨネーズを混ぜる時はマヨネーズのかたまりが見えなくなるまで。手を抜いちゃダメ。焼き加減は……フライパンでそんなに何度も失敗するなら電子レンジでやってみなさい。耐熱容器に入れて500Wで3分チン』
『うん、わかった。ありがとう』
『ねえ、そのお弁当って好きな人のため?』
何度セルフ右ストレートを食らってもめげずに立ち上がる、そんな娘に呆れ半分、愛おしさ半分の口調だった。
『まあ、頑張りなさい。いつか会わせてね』
東海林がふわふわ厚焼き卵のサンドイッチを頬張る。
永夢はゴクリと息を呑んでその端整な横顔を凝視した。
最後の審判よりも緊張する。果たして天国行きになるか地獄行きになるか──
東海林の切れ長の目がわずかに見開かれる。
「……美味い」
「えっ」
「卵焼き、和風なんですね。パンによく合う。いや、美味いなあ」
「……!」
胸の奥に灯ったオレンジピンクの明かりがまたほんのり温かくなる。「美味しい」──その一言でこんなに幸せになれるなんて。
「ありがとう、ございます」
喜ぶ東海林の横顔をずっと見つめていたいのに、ひどく照れ臭くもあり、チキンバスケットからコンソメポテトを摘まんで誤魔化した。
そんな自分の様子を城崎と響子が見守っているのには気付かなかった。




