みんな大好きなお弁当(1)
当初城崎と東海林は登山慣れしているので、未経験者の上に女性の自分よりペースが早い。だから、数メートル先を行くものだと思い込んでいた。
一方、響子はまだ話し足りなそうだったので、恐らく並んでお喋りしながら歩くことになる。その間に先ほどの「あんなこと」を聞き出すつもりだった。
ところが、このみみっちい陰謀は早々に頓挫することとなる。
いくら夏で初心者コースとはいえ、遭難に気を付けるに越したことはないと、城崎、東海林ともに永夢にペースを合わせてくれたからだ。さすがにこの二人に挟まれて歩いていては響子に話を振りにくい。
気遣いのできる男どもめが……!と理不尽に憤っていたのだが、山頂の武蔵御嶽神社へと続く約三三〇段の階段を上るうちに、息が上がってそれどころではなくなった。更に道を進んで長尾平展望台に到着し、近くの野原で少々早めの昼食を取る頃には、「あんなこと」を気にしていたことなどすっかり忘れていた。
青い空と白い雲を頭上に、緑の山々を背景にレジャーシートを広げる。
「涼しいわねえ」
「空気が美味しい~」
四枚分のシートを合わせ、中央に持ち寄った弁当を並べていく。
果たして城崎夫妻は、東海林はどんなものを持ってきたのか──
まず東海林が様々な大きさや形のステンレス製のランチボックスを並べ蓋を開ける。
永夢は長方形のボックスに入った黄色い巻き寿司らしき一品に首を傾げた。二本ありもう均等に切り分けられている。
「先生、それって巻き寿司……ですか?」
巻き寿司といってもノリではなく薄焼き卵で巻いている。淡い黄色でもう食欲をそそられた。
「こちらはオムライスなんですよ」
「えっ」
東海林は箸で一切れ摘まんで断面を見せてくれた。
薄焼き卵に巻かれていたのは白米ではない。コーンにニンジンにグリーンピース、玉ネギに鶏肉のたっぷり入ったケチャップの香りのするチキンライスだった。
こんな発想はなかったのでさすが東海林だと感動する。手軽に摘まめるので持ち寄りに合っている。
もう一方の同じ弁当箱にも巻き寿司モドキが入っていた。
「じゃあ、こっちは?」
「シーフードピラフでノリを巻いたものです」
エビ、イカ、アサリの海鮮ダシにバターが合わさって、冷めても美味しいご飯ものなのだとか。
聞くだけで涎が出た。
おかずはたっぷりのピーマンの肉詰め、エビフライとタルタルソース、ウインナーとジャガイモ炒めカレー風味だ。
「大人のお子様ランチを目指しました」と説明され納得がいった。
確かに、オムライスも、ピーマンの肉詰めの中のハンバーグも、ウインナーも、ジャガイモも、エビフライもお子様ランチのメニューだ。どれも若干アレンジしているところが楽しい。
「あらっ、若い人のお弁当は華やかねえ。私は茶色いおかずばっかりよ」
響子が用意している朱塗りの弁当箱の中身は確かに茶色い。豚の角煮、煮卵、きんぴらゴボウ。唯一の洋食のおかずのカボチャコロッケも茶色かった。
炭水化物はスタンダードにおにぎりで攻めてきている。
基本のノリと梅干しにワカメご飯をおぼろ昆布で包んだもの、赤飯のラインナップだ。
永夢ははっとして東海林の横顔に目を向けた。
東海林がスタンダード路線のおにぎりに行かなかったのは、響子が作ってくるのではないかと予測し、被らないように気を遣ったのだろう。
細やかな配慮といい料理の凝り方といい、東海林の女子力……いや男子力はハンパではない。果たして自分は女以前に人類を名乗っていいのか──自信を喪失したところで「天野さんは?」と話を振られた。
響子がニコニコ笑っている。
「どんなお弁当を作ってきたの?」
東海林の工夫された弁当、響子の主婦歴の垣間見える手慣れた弁当に比べると、見劣りがすると気が引ける。だが、ここまで来れば女は度胸だ。
リュックからランチボックスをふたつ取り出す。ひとつは三段重ね、もうひとつは底の深いバスケット型だ。
「先生と響子さんのお弁当に比べるとジャンクなんですけど……」




