城崎夫妻(2)
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永夢は響子と意気投合し、滝本駅の土産物屋でもケーブルカーで御岳山駅へ向かう中でも、キャッキャウフフとお喋りに夢中になっていた。
「天野さあん、このきびもち大福って美味しそうねえ。でも、荷物になっちゃうから帰りに買おうかしら」
「あっ、これ、結構人気だって聞いたことがあります。午前中で売り切れちゃうとか。買ってお昼ご飯のあとのデザートにしませんか?」
「あらっ、いいわねえ。じゃあ、全員分買わなくちゃねえ。ねえ、あなたー、あら、どこに行ったのかしら?」
永夢は辺りを見回したが城崎と東海林の姿はどこにもない。
「先生?」
店の外に出るとようやくいた。二人で立ち話をしている。まったくキャッキャウフフしていない。むしろシリアスな雰囲気で、こちらが少女マンガなら向こうは劇画というくらい世界観に隔たりがあった。
元上司と元部下で積もる話もあるのだろう。うんうんと頷きつつ土産屋に戻る。
「響子さん、先生たちの分も買っちゃいましょう。余ったら私が責任を取って完食します!」
「頼もしいわねえ」
結局響子はきびもち大福を四つ買い、永夢は申し出て自分のリュックに詰め込んだ。早起きして作った弁当が目に入り、ついニヤニヤしてしまう。
響子はその様子を微笑みながら見守っていたのだが、何を思ったのか隣にしゃがみ込み、子どものように目を輝かせて耳打ちをしてきた。
「ねえ、東海林君を担当しているのよね。そこからどうやって恋愛に発展したの?」
「あっ、はい。流れでなんとなく付き合うようになって……」
本当にそうなればいいのにと思う。
「東海林君ってあんまり喋らない子でしょ。いつもどんな話してるの?」
「えっ……」
表情の変化が乏しくはあるが、近頃は東海林を無口だ、寡黙だと感じたことはない。特に食事の際には楽しそうによく喋る。
「結構なんでも話してくれますよ」
「あらっ、そうなの? まあ……」
響子は驚きに目を瞬かせている。永夢はなぜそんな反応をするのかと不思議に思いつつも言葉を続けた。
「ミステリーを書いてるだけあって、色々知っていて話題が豊富で。でも、一番盛り上がるのはやっぱり料理かなあ。私たち最近、食レポし合うのが流行ってるんですよ」
レストランやカフェに行って何か注文したり、デパ地下やスーパーで気になるものを買って食べたりすると、その味やレベルを互いに報告し合うようになっている。
「先生ってもう料理評論家になればいいんじゃないかってくらい詳しくて。あっ、そっちの路線で書いてもらうのもアリかも」
響子は黙って永夢の話を聞いていたが、やがて「そう」とぽつりと呟き足元に目を落とした。
「そうだったの。よかったわ……」
「……?」
妙にしみじみしんみりした口調が気になり、「あの」と声を掛ける。
「先生って昔は無口な人だったんですか?」
養父と元同期で友人だったからか、東海林と城崎夫妻との付き合いは長く、城崎の警視総監就任以前、十七年も前からだと聞いている。東海林が高校生の頃からだ。
それだけ長くなると成長し、人格や人との付き合い方も変わるだろう。
ところが、響子は「昔も今もよ」と笑った。
「まあ、男の子なんてそんなものかもしれないけど、自分の話なんて全然してくれなかったわ。高橋さんもそれで悩んでいたわねえ。あんなことがあったから無理もないけど……」
高橋が東海林の養父の姓だとは知っている。だが、「あんなこと」とはなんなのか。
「響子さん、あんなことって……」
響子は「あら」と首を傾げた。
「ご家族のこと、東海林君から聞いてないの?」
「はい……」
これは恐らく聞き流していい話ではない。背筋を正したところで会話に第三の声が割り込む。
「響子さん、天野さん」
東海林本人だった。
「そろそろ行きましょう」
「あらっ、いけない。もうこんな時間。ごめんなさいね」
永夢も響子に続いて東海林の背を追った。
「あんなこと」が気なるものの、今日一日あるのだからきっといくらでも聞く機会はある。
そう楽観視していたのだが─―




