決戦当日(2)
頭の中で錦戸と三上の横顔がぐるぐる回る。
あの二人が付き合っていたと断定するのは早い。オールナイト映画館で鉢合わせ、一緒にハチ公物語を鑑賞したのかもしれない。あの映画は秒で泣ける。
いずれにせよ、二人きりでいたことは確かだった。会社では公にできなかった感情のやり取りがあったのも。
もしかすると別れ話をしていたのかもしれない。なら、近頃三上に元気がなかったのもわかる。
この推理が当たっているのだとすれば、よく今までバレなかったものだと思う。恐らく、部署内で二人の関係を知る者はいないだろう。
永夢はそのイケメンセンサーの性能と同じくらい人様の色恋沙汰に敏感だ。だから、よく自分の目を掻い潜ったものだと感心した。
青雲館には社内恋愛をよしとしない風潮がある上に、錦戸は担当の女性小説家たちにモテる。三上と付き合っていると噂が立って彼女たちや編集長らの耳に入り、機嫌を損ねぬよう細心の注意を払っていたのかもしれない。
錦戸にそうした事情がある以上、今回の件は見なかったことにしようと頷く。三上も人に知られたくはないだろうし、永夢に知られたと知ればいい気分ではないだろう。
「う~ん、私のセンサーもまだまだデスネ~」
「なんのセンサーですか?」
独り言に反応があったのでギョッとする。隣の運転席の東海林がハンドルを操りながら首を傾げていた。
「あっ、アハハ、こっちの話です」
乗車してから高速に乗りすでに五十分が経っている。道は混んでいるほどではないが空いてもおらず、ほとんどの車が御岳山方面を目指しているように見えた。
「早く来たつもりでしたが、この分だと駐車場も結構埋まっていそうですね……。空いているところを探すのに時間がかかりそうですし、今のうちに復習しておきましょう。私たちは付き合い始めて間もないということにしてください」
「はい。で、あとは無理に演技せずいつもどおりに、ですよね」
東海林のこの指示には正直不安があった。
「本当にいつもどおりでいいんですか?」
警視庁トップに東海林の見合いを諦めさせ、相応しい相手だと認められるのか。
「ええ」
東海林は唇の端を上げて頷いた。
「きっと城崎さんも響子さんも天野さんを気に入ると思います。特に響子さんは」
「なら、いいんですけど……」
「会うのは今日だけなので安心してください。ほとぼりが冷めた頃に別れたと伝えておきます。これ以上、天野さんに迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「……迷惑だなんて」
迷惑ではない。それどころか、仮初でも恋人になれるのは嬉しい。
今までの恋愛では恋に落ちたと自覚すると、すぐにアタックするなり自分を気に入るよう作戦を立てるなりしていた。なのに、東海林には何もできない。
担当する小説家なので気まずくなりたくない思いもあるが、それ以上にどう距離を縮めていいのかわからない。隣りにいても遠い。掴みきれないものがあるのを感じ、「好き」から前に進めず立ち往生している。
恋愛初心者に戻ってしまったようだった。




