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イケメン推理小説家の今日の献立  作者: 東 万里央
第三話「みんな大好きなお弁当」
32/85

人の金でウナギを食う(3)

 協力できればとは思うが無理だ。


 最大の理由は子どもっぽい容姿だった。


 まだ悠人と付き合っていた二年前。ラブラブハッピーなお泊りデートをしようということになったので、気張ってゆるふわパーマをかけ、ガーリーなミニ丈のワンピースでキメた。もちろん、下着もフリフリレースでお揃いの新品だった。


 ところが準備万端で深夜ウキウキ手を組んで歩いていたところを、なんとパトロール中の警察官に補導されたのだ。つまり、未成年だと勘違いされた。ちなみに、悠人は職務質問を受けている。


 加えて永夢は所持していた顔写真なしの健康保険証では身分証明ができず、パトカーで自宅マンションまで送られ、保管中のマイナンバーカードを提示するハメになったのだ。もはやコントだった。


 なお、これがきっかけで運転免許証を取得し常備するようにしている。


 以上の黒歴史を精神的に半死半生になりながら説明し、まだ熱いお茶を一気飲みしてアハハと笑った。


「もう、小説のネタにしてもいいですよ」


 虚しく開き直りつつ、だから無理だと訴える。


「もちろん、免許を持参すれば私がいいトシだとその場で証明できます。だけど、先生が実はロリコンで、合法ロリで我慢していると疑われては……」


 元上司との付き合いが今後も続いていくのなら、東海林の趣味を疑われる事態は避けたい。自分が腐されるのは構わないが、目の前のこの人に恥を掻かせたくなくなかった。


 東海林は頬杖をつき目を細めた。いつもより幾分優しい眼差しにドキリとする。


「私には天野さんはちゃんとした大人の女性にしか見えませんが」


「えっ、そうですか」


「ええ。警視総監、城崎さんも同じ意見だと思いますよ」


「……」


 確信ある物言いに目を瞬かせる。


 一方、東海林はもう注文は済ませたのに。なぜか立て掛けてあったメニューを手に取った。開いてお料理各種欄をチェックしている。


「天野さんに断られると、もうあとがないという事情もあり、こうしてお願いしております」


「あとがないとは?」


「退職し、勤め先にしか居場所のなかったおじさんにありがちな話なのですが、私には頼れるような友人がいません。同性でもこの有様なのに、いわんや女友だちをや」


「……」


 真顔でそう打ち明けられるとなんと反応していいのかわからない。


「まあ、それは冗談なのですが、警視庁にいた頃同僚だった女性は皆既婚者で頼めません。それ以前に今回紹介する相手は現役警視総監。全員が部下のようなものですから、付き合っているかいないかくらい、庁内で探られてすぐにバレます」


 学生時代の女性の知人にも遠回しに声を掛けたものの、皆警視総監相手にリスクを冒したくはないと断られたのだとか。


 彼女たちのほとんどはメガバンクや大手商社や外資系に就職するなり、キャリア組として官庁に入省入庁するなり、司法試験合格後大手法律事務所に所属するなりして一定の地位を築いている。社会的な立場がある以上、そんな危うい茶番劇に関わりたくはないだろう。


 出版社のパーティーなどで知り合った同業者、小説家の女性も考えられなかった。やはり既婚者がほとんどだったのもあるが、この件をネタにされては困るからだ。ファンの女性は後々問題になりそうなのでもっとあり得ない。


「レンタル彼女業者や代理出席業者に依頼しようかとも考えたのですが、見ず知らずの女性に頼むのはさすがに気が引ける。私の個人情報をある程度明かさなければなりませんから、信頼できる女性にしか頼めません。となるともう、天野さんしか考えられなかった」


「な、なるほど」


 東海林の言い分はよくわかった。わかったがひとつだけ不明な点があった。


「あの、レンタル彼女は聞いたことがありますが、代理出席業者とは……」


「人付き合いが悪かったり、嫌われていたり、コミュニケーション障害だったりするなどして、結婚式や葬儀に呼ぶ知人、友人がいない場合、席を埋めるためのサクラです」


「……」


 世の中には様々な需要と供給があるらしい。


 永夢は空になった湯飲みを前にうんと頷いた。


「わかりました。引き受けます」


 確かに警視庁とまったく関係なく、エリートでもない自分に適役だと思う。何よりも、東海林の一言が決め手だった。


『信頼できる女性にしか頼めません。となるともう、天野さんしか考えられなかった』


 我ながらチョロいなと苦笑する。


 また、今後明かされるという東海林の個人情報も気になった。


 東海林については通り一遍のプロフィールしか知らない。恋人しか知り得ないような情報を得られるのだと思うとドキドキした。


 一方、東海林は茶番劇の相手役を確保して呑気に喜んでいる。


「そうですか。引き受けてくれますか。ありがとうございます」


「はい。私でよければ……」


 久々に乙女モードになり照れる永夢の前に、メニューのお料理欄がずずいと突き出された。


「天野さん、肝焼きもいかがですか?」


「うっ」


「茶碗蒸しに天ぷら盛り合わせ、デザートにわらび餅もありますが」


「ううっ……。まとめてお願いします……」


 結局、色気より食い気なのだった。

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