タイトルの付け方
今年の盆休みは二日しか取れなかった。
それはいい。残業が多いのもまとまった休みを取りにくいのも、編集者となった以上逃れらない宿命だと受け入れている。
なんだかんだで許可された二日間で里帰りも墓参りもできたし、実家では上げ膳据え膳でスイカや素麺を食らい尽くした。天野家は女系一家で父も入り婿なので、永夢は何かと甘やかされがちなのだ。
だが、余は満足じゃ。これで心残りはないとは言えなかった。なぜなら夏の味覚の筆頭である例のブツをまだ欠片も口にしていない。
それはさておいてとデスク上のマイアイデアノートを前に頭を抱える。
現在担当する小説家のひとりで、そこそこ売れている女性小説家、小麦若葉の新作のタイトル案を捻り出そうとしている。
ドケチで徹底して金に汚い美女が主役なのだが、小麦自身が提示したタイトルが「銭ゲバ女の日常」。悪くはないのだが売れそうかと問われると微妙だ。
小麦粉本人もしっくり来ないようで、編集部で決めてくれと任された。ひとまず永夢もニ、三案出したのだがどれもいいと思えない。というよりは、売れる気がしない。明日の編集部会議までにタイトル案を出さなければならないのにだ。
もちろん、編集長に副編集長、同僚や営業部マーケティング局の社員も協力し、タイトル案を持ち寄り絞り込むことになっているが、担当編集者の永夢が出せなくては格好がつかない。
再びアイデアノートに目を落とす。
左右のページにはいくつものタイトル案やメモが乱雑に書き込まれ、そのほとんどにバツが上書きされている。片隅には某国民的アニメの青ダヌキや今ちょっと注目しているイケメンアイドルのご尊顔の落書きもあった。
「あ~う"~あ~」
脳みそがオーバーヒートを起こしついにデスクに突っ伏す。
小説に限らないのだが商品名──小説の場合タイトルは商業上、中身より重要になることがある。だからいい加減には決められない。
読者が小説を購入する際、一体何が決め手の要素となるか。文芸書の場合タイトルがそのひとつとなる。
では、読者が手に取りたくなるようなキャッチーなタイトルとはなんぞや。この問いの答えには一定の法則があると言われている。
まず、ライトノベルにあるような文章型。「売れないアイドルに転生したのですが、センター以外目指しません」などだ。ストーリーの内容を把握しやすい。
かと思えば極端に短いタイトルが好評な場合もある。高岡万次郎の「蛍殺し」がそうだ。
疑問形も捨てがたい。「私、カワイイ?」なら一体主人公がどのような容姿で、なぜそのように問い掛けるに至ったのかが気になる。
命令形のタイトルの作品が話題になったこともあった。確かSMがテーマで「這いつくばって床を舐めろ」だったか。
その他矛盾した内容を盛り込んだり、数字を入れたり、読み方や意味のわかりにくい単語、漢字を組み合わせたり、ギャップを意識したり、あえて倫理や道徳を無視して非常識にしたり、新たな概念を提示したりと付け方はいくつもある。
いくつもあるだけにどれを活用すべきなのかに迷った。
再びペンを手に取りひとまず脳裏に浮かぶ言葉を書き連ねていく。
豪快なストーリーと銭ゲバヒロインを象徴するようなキャッチーなタイトル──気が付くと「人の金でウナギを食いたい」と書いていた。
いやいや、これは自分の欲望ではないかとバツをつけようとしたところで、パソコン横に置いたスマホのラインにメッセージが届いているのに気付く。
東海林からだ。
メッセージには『ウナギを食べに行きませんか?』とあった。




