大人のおやつ(3)
一度油に沈んだ野菜のかき揚げがまもなくふわりと浮かぶ。東海林は揚がり具合を確認し、菜箸でひっくり返した。
きつね色になるが早いか、あらかじめ用意しておいた、ベージュ地に茶で笹の描かれた大皿に盛り付けていく。こんがり揚がった衣から見え隠れする、玉ねぎの半透明の白とニンジンのオレンジ、三つ葉の緑がよく映えた。
「おやつですからね。一人ふたつくらいで」
東海林は第二弾の野菜のかき揚げを揚げながら、「おっと、忘れるところでした」と永夢を見下ろした。
「油がはねるので、天野さんもエプロンを着けてください」
食器棚に据え付けたフックに予備をかけてあるのだとか。そして、その予備のエプロンもカピバラ柄だった。つまり、東海林とお揃いである。
「福引でエプロンしか当たらなかったんですか?」
照れ隠しに憎まれ口を叩くと、真面目くさった返答があった。
「三等の餅つき機が希望だったのですが……」
ちなみに、一等はラスベガス旅行だったのだとか。
「お正月につきたてのお餅でお雑煮を作りたかったんですよ」
なんとも東海林らしい回答についに声を上げて笑ってしまった。
「私の実家にもありますけど、結構量できますよ?」
「その時には天野さんに食べてもらいましょう。ああ、それなら余らないだろうから、今年は思い切って自分で買ってしまおうか……」
何気ない一言にドキリとする。
つまり、また食べにきてもいいということだろうか。いや、社交辞令に過ぎない。深読みするなと自分に言い聞かせる。
「先生、次は何をすればいいですか?」
「ボウルを洗って新しく衣を作ってくれませんか。水洗いで構いません」
永夢が天ぷら粉と水をかき混ぜる間に、東海林はベビーホタテと枝豆に小麦粉をまぶし、永夢から受け取ったボウルに投入した。
「ホタテと枝豆のかき揚げって初めてです。実家では玉ねぎとニンジンだけで……」
東海林が永夢を見下ろしニコリと笑う。唇だけではなく目尻も下がっており、いつもよりずっと楽しそうに見えた。
「どんな材料でも作れますよ。キノコ類も美味しいですし、桜エビだと香ばしくなります。カニカマもお勧めですね」
「カニカマいいなあ」
他愛ない会話で心が弾む。東海林もそうだといいなと思った。
その後揚げ上がったベビーホタテと枝豆のかき揚げは、野菜のかき揚げの隣に並べられた。四つあったが、どれも小ぶりなのはおやつだからだろう。
三つ葉より淡く明るい枝豆の緑が食欲をそそる。枝豆にベビーホタテ、どちらも単品でもイケるのだから、この二品を組み合わせたかき揚げは二倍美味しいに違いなかった。
「では、本命に行きますか」
東海林は五匹の小鮎を衣にくぐらせると、揚げカスを取り除いた天ぷら鍋に沈めた。
二分も経たぬ間に油から上げてしまう。
「えっ、もういいんですか」
「小さいですからね。確かめてみますか?」
「確かめるって……」
キッチンペーパーに油を吸わせた小鮎の天ぷらを、菜箸で摘んで永夢の前に差し出す。カラッときつね色に揚がっており香ばしい香りがした。
「揚げたてが一番美味しいですから」
東海林の言葉に釣られ一口でいただき、直後にこれは「はい、あーん」ではないかとはっとしたがもう遅い。
衣が歯と歯の間で音を立てる。
淡白な白身のほくほくとした食感とイカスミにも似たコクのある苦味、その向こうにあるほんのりした旨味が舌の上で入り交じる。同時に、露天風呂を堪能していた際に吹いた、湯田中の爽やかな緑の風の香りがした。
東海林も小鮎の天ぷらをひとつひょいと口に放り込む。切れ長の目がわずかに見開かれ、「これは……」と一瞬声を失った。
「養殖ものは香りがないと聞いたのですが、この鮎には風味がありますね」
餌や水に工夫をしているのかとブツブツ呟きつつ、残りの鮎を衣に浸し次々と揚げていく。三分後には縄文土器風の素朴な大皿の上に小鮎の天ぷらがうず高く盛られていた。
「作り過ぎたような……」
「これくらい大丈夫ですよ! ビールがあればあっという間です!」
結局ときめきより団子の永夢は、目を輝かせて大皿を両手に取った。




