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「ただいまー」
目の前の引き戸が開いて、僕は文庫本から顔を上げた。入って来た店長は気怠げにため息をついた。
「おかえりなさい。暑そうですね」
「クソ暑いよ。朝までの涼しさが嘘のよう」
僕は窓ガラス越しにカンカン照りの太陽に目を向けた。あと一週間もしないうちに十一月になるというのに、近頃のこの暑さは何なのだろう。
「朝晩は寒いんですけどね」
「さすがに僕も毛布引っ張り出したよ。リッ君まさかペラペラの布団で寝てないよね?」
店長の言葉に僕は「……夏のままです」と答えた。次の言葉を予想しながら。
「ダメだよそろそろ毛布出さないと。風邪引くよ」
「気が向いたら出します」
「ちゃんと天気の日に干すんだよ」
僕は春先に片付けた毛布の場所を思い出そうと頭をひねる。確か物置代わりになっている部屋のクローゼットに押し込んだような。
そうやって考え込んでいると、店長は僕が持っている文庫本に手を延ばした。ひょいとめくってタイトルを確認する。
「面白い?」
「それなりに」
「面白かったら後で貸して」
僕の了承した返事を聞くと、店長は店の裏へ向かった。おそらく荷物を置きに行くのだろう。友人との予定とやらで荒木さんが珍しく仕事を休んでいる今日、朝から任されていた店番からようやく開放されそうだ。




