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「落としましたよ」
振り返ると同じ年くらいの女性が立っていた。彼女は微笑みを浮かべて、僕の紺色の手袋を差し出している。どうやらスマホを操作しようと外した右手袋を、左手が落としていたらしい。手袋越しなので持っていないことに気が付かなかった。
「ありがとうございます」
僕が手袋を受け取ると、彼女は上品に微笑んで踵を返した。長い髪が一度マフラーの下をくぐり抜け、背中に垂れている。あの制服は聖華高校のものだが、私立校にはあんなに礼儀正しい生徒が通うのだろうか。
僕は手袋をポケットにしっかりとねじ込み、スマホの画面に視線を落とした。店につくと彼女の顔はもう忘れていた。おそらく次に会っても気付けないだろう。僕も彼女も。




