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【お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!】
僕はスマホの画面に映るその文字を数秒眺めた。画面下の返信欄をタップし、【ありがとう】と返す。今日は十月十日だった。
すぐに姉からメッセージが届いた。弟と同じく誕生日を祝う言葉の後に、彼にスマートフォンを買い与えた報告がついている。最近は小学生でもスマートフォンを操る時代だが、もう中学生の弟が今頃お子様ケータイからの昇格とは、世間の平均と比べると些か遅いような気がする。
僕はスマホを机に置き、キーボードに手を乗せた。しかし、コーヒーを飲み切ってしまったのを思い出して、カップを持って立ち上がる。
部屋を出て台所へ向かうと、僕と同じようにカップを手にした荒木さんが店の方からやって来た。思わぬタイミングの一致に、彼女は少し微笑む。
「瀬川君もお茶?」
僕はそれに肯定の返事をする。二人一緒に台所へ入った。
「淹れるよ」
荒木さんは僕の手からカップを取ると、流してサッと洗って、インスタントコーヒーに手を延ばした。彼女は普段紅茶派だったはずだが、どうやら僕に合わせてくれるらしい。
「そういえば瀬川君今日誕生日なんだよね。またクッキーでも焼こうかなと思ったんだけど、昨日死ぬほど課題があってさ」
荒木さんは淹れたてのコーヒーが入ったカップを僕に差し出して微笑んだ。
「誕生日おめでとう、瀬川君」
「ありがとう」
その後、荒木さんは店へ、僕は自室へそれぞれ戻った。再びパソコンの前に座り、中断していた作業に取り掛かる。
店長が帰って来たのは荒木さんが退勤した後だった。カウンターで店番をしていた僕は、疲れた顔で帰って来た店長に挨拶をする。時刻を確認すると十時を三分過ぎたところだった。
「ただいま~。さすがに雅美ちゃんは帰ったか」
「店長はどこをほっつき歩いてるんだって文句を言ってましたよ」
店長はそれに「はは」と乾いた笑いを返した。彼は荷物を放り出し、そのままソファーに横になる。僕はカウンターから立ち上がると、コーヒーを二杯淹れて戻って来た。
「今日は疲れた。本当に疲れた」
「お疲れ様です。ずいぶん遅いなと思ってたんです」
「神田さんがまた新提案とか言ってきてさぁ。やめてほしいよね、予定にない長話するの」
店長は上体を起こし、すでに少し緩めていたネクタイを指でグイグイ引っ張ると、コーヒーに口をつけた。僕も砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを一口飲む。
「またリッ君にやってもらう仕事増えちゃった」
「今から取り掛かりましょうか?」
「ううん、明日でいいよ。リッ君今日誕生日だからね、スペシャルサービス」
僕はミルクのせいで白っぽくなったコーヒーの水面から顔を上げた。店長が「誕生日おめでとう」と微笑んだ。




