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起きたら通学路に魔物がうろつくようになりました。  作者: K4


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第47話:【スキル:神】と微小断熱

「うー、なんだか今日は一段と蒸し暑いな……」


俺――天羽悠人は、制服の第一ボタンをゆるめながら高層ビルの建設現場跡地を歩いていた。


夕方とはいえ、アスファルトから立ち昇る熱気がすさまじい。

街外れにあるこの開発中断エリアは人通りが皆無で、下校時のショートカットとしては絶好のルートなのだが、今日ばかりは熱帯夜の前触れのような不快な暑さが肌にまとわりついていた。


「天羽くん、文句を言わないの。この暑さ、ただの気象現象じゃないわ」


隣を歩くクラスメイトで学級委員長の佐伯葵が、額の汗をハンカチで拭いながら眉をひそめた。


「ただの気象現象じゃないって? じゃあ何なの、巨大なドライヤーでも回ってるの?」


「笑い事じゃないわよ。対策局のリアルタイム警戒情報によれば、この建設現場の地下で異常な高熱反応が検出されたの。地表温度が数十度単位で跳ね上がっているわ」


「へぇ、まるで温泉でも湧いたみたいだな」


「能天気すぎるわよ! 温泉どころか――」


葵が言いかけたその時、足元のアスファルトがぐにゃりと歪み、ドロドロの赤黒い溶岩へと姿を変えた。


――ゴオォォォォォォォォンッ!!!!


地響きとともに、建設現場の中心部が爆発を起こす。

激しい噴煙とプラズマの光を伴って、地下から地表へ巨大な物体が這い出てきた。


それは、体長二十メートルを超える巨大な亀型の魔物だった。

甲羅は赤く脈動する超高硬度の溶岩岩盤で覆われ、その中心――甲羅の内部には、太陽の表面を思わせる超高熱のプラズマコアが眩い光を放っている。


周辺の鉄骨やコンクリートが一瞬で溶け落ち、大気が数千度の超高熱によって歪んでいく。


「な……なにこれ……嘘でしょ……!?」


葵が息を飲み、絶句した。


「日本ダンジョン対策局……SSランク指定災厄個体……【マグマ・コア・タートル】……っ! 体内に星の核と同等の超高熱プラズマを宿すっていう、伝説の超大型個体よ……!」


「へえ、マグマ・コア・タートル。甲羅が溶岩で固そうだな」


「固いどころの話じゃないわ! あの超高熱甲羅はあらゆる物理攻撃や魔導攻撃を瞬時に溶かして無効化するの! しかも、周囲数百度の熱波だけで人間なんて一瞬で蒸発しちゃう……っ! 天羽くん、下がりなさい!」


葵が歯を食いしばり、必死に氷結魔法の呪文を唱え始める。

だが、葵の手のひらから発生した氷の刃は、魔物に届く数十メートル手前で一瞬にして蒸発し、消えてなくなった。


「ダメ……熱量が高すぎて、私の魔法じゃ届くことすら……っ!」


絶望的な熱波が二人を襲う。

息を吸うだけで肺が焼けつくような恐怖の中、葵の顔から血の気が引いていく。


――グォォォォォォォォンッ!


マグマ・コア・タートルが重厚な頭部を掲げ、甲羅の熱コアをさらに眩しく発光させた。

全方位へ向けて超高熱の熱放射波――半径数キロを即座に更地へと変える熱核爆発級の一撃が放たれようとしていた。


「逃げて、天羽くん! 早く――」


「まあまあ、葵ちゃん。そんな熱くならないでさ」


俺は葵の肩を優しく叩き、ひょいと前に出た。


「ちょっと涼しくしてあげるから、そこで見てなよ」


「え……? 涼しく……!?」


葵の制止をよそに、俺は右手を軽く前へと突き出した。


脳内の【スキル:神】のシステムインターフェースにアクセスする。


『日課のスキル育成ストック完了。新能力を解放します』


システムアナウンスが脳内に響き、新しい「ゴミ能力」がセットされた。


【微小断熱 Lv.1】

効果:指定した範囲の熱伝導率を0.001%低下させる。


(ほう……【微小断熱】か。またしても住宅の壁材に入ってそうな、地味極まりない能力だな)


熱伝導率をほんのわずか、0.001%だけ下げる。

鍋つかみの代わりにもならないレベルの、単体では何の役にも立たないハズレスキル。


だが――


(MP消費:0。クールタイム:ゼロ)


【スキル:神】のバグとも言えるこの前提条件が組み合わさった瞬間、全ての物理法則は崩壊する。


(熱伝導率を0.001%低下させる……これを熱波の伝播経路、そしてあのタートルの周囲に数十万回重ね掛けしたらどうなる?)


俺は口元に薄い笑みを浮かべ、思考速度の連射を開始した。


発動、発動、発動、発動、発動、発動、発動――――ッ!!


【微小断熱 Lv.1】× 100,000回重層発動。


――ズバアァァァァァンッ!!


突如として、俺と葵を包み込んでいた数千度の猛烈な熱波が、嘘のように完全消失した。


「え……? 涼しい……!?」


葵が呆然と声を漏らす。


俺たちの前方に、あらゆる熱エネルギーの伝導・透過を100%遮断する「絶対断熱結界(インサレーション・フィールド)」が形成されたのだ。

太陽の表面レベルの熱放射すら、この目に見えない断熱壁に阻まれ、一デシベルの熱もこちらに届かない。


「な、何が起きてるの……!? 熱が……全く来ない……!?」


「まあ、断熱シートを何億枚も重ね貼りしたようなもんだからね」


「意味が分からないわよ!?」


驚愕する葵をよそに、俺はターゲットをマグマ・コア・タートル自身へと変更した。


(攻撃を防ぐだけじゃ芸がない。あの熱コアの周囲全体を【絶対断熱】で包み込んだらどうなると思う?)


俺はターゲットを指定し、指先を向けた。


【微小断熱 Lv.1】× 500,000回重層発動。


マグマ・コア・タートルの体の「外側」全周に、一切の熱を逃がさない完全密閉の断熱壁が創出された。


「グ……ガ……!?」


タートルの動きがピタリと止まった。


体内で生成され続ける星の核と同等の超巨大なプラズマ熱エネルギー。

本来なら周囲へ放出・放射されることで放熱し、体温を保っていたその膨大な熱エネルギーが、完璧な断熱壁によって「外へ一切逃げられなくなった」のだ。


熱の逃げ場を失った体内で、熱エネルギーが急激に閉塞・凝縮していく。


自己過熱――熱暴走(サーマル・ランナウェイ)。


「ル、ルオォォォォォッ!?」


タートルが苦悶の声を上げる。

自身の放つ超熱量によって、自らの内部組織や溶岩甲羅が内側から溶け、加熱され、自壊していく。


外側には一滴の熱も漏れ出さないまま、断熱空間の内部だけで数百万度を超えて上昇し続ける温度。


そして――


――ドスゥゥゥゥゥン……。


激しい爆発音すら断熱壁の中に閉じ込められ、くもった振動だけが地面を揺らした。


内部からの自己過熱により、SSランク指定の災厄個体【マグマ・コア・タートル】は、自慢の超高熱によって体内の熱コアごと自己崩壊・蒸発し、静かに崩れ落ちたのだった。


熱が冷め、断熱結界を解除すると、そこには何事もなかったかのように干からびた黒い灰だけが残されていた。


『実績:[絶対断熱の行使者]を獲得しました』

『【スキル:神】の成長値が蓄積されました』


システムログを確認し、俺は満足そうに息を吐いた。


「ふう。やっぱり夏場の断熱は大事だな」


「………………」


隣を見ると、葵が膝から崩れ落ちそうになりながら、自分の額を押さえていた。


「あ、葵ちゃん? 大丈夫?」


「天羽くん……あなた……今、何をしたの……?」


「ん? だから言ったろ、断熱だよ。熱が伝わらないように遮断しただけ」


「断熱でSSランクの魔物が内部崩壊して消滅するわけないでしょうがあぁぁぁぁっっ!?」


夕暮れの建設現場に、葵の絶叫が木霊した。


「なんなのよそれ……! 熱を閉じ込めて自滅させるなんて、そんなの魔法のカテゴリにもないわよ! あなたのスキル、本当は一体何なのよ……!?」


「ただの地道な【スキル:神】だよ。育成の成果ってやつさ」


「育成の領域を遥かに超えてるわよ……!」


葵は心底困惑した様子で頭を抱えたが、やがて呆れたようにクスッと笑った。


「……はあ。もういいわ。あなたの破天荒さには今更驚かないことにする……と言いたいけれど、毎回命が縮む思いよ」


「はは、まあ怪我もなかったし良かったじゃん。ほら、帰りに冷たいアイスでも買ってあげるよ」


「……当たり前よ。プレミアムな高いやつ奢ってもらうからね」


葵はふんと鼻を鳴らすと、先に立って歩き出した。


西日に照らされた閑静な通りを、二人で歩いていく。

誰も知らない最強の能力と、少し騒がしい日常。

俺たちの通学路の物語は、まだまだ終わらない。

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