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起きたら通学路に魔物がうろつくようになりました。  作者: K4


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第25話:コンビニ駐車場の救出劇と誤解の始まり

崩壊したコンビニ――『ファミリーマート西高前店跡地』の広大な駐車場は、惨状を極めていた。


横転した乗用車の陰に縮こまり、ガタガタと震えているのは、うちの高校の制服を着た男子二人と女子一人のグループだ。


その彼らを追い詰めるように、巨大な黒い影がのしかかっていた。


「ヒヒ……ヒヒヒッ……!」


巨躯をくねらせ、長い尾を舗装アスファルトに叩きつけているのは、体長六メートルを超す巨体を持った怪物だった。


トカゲとも大蛇ともつかないフォルムに、黒光りする頑丈な甲殻と硬質化した鱗。口からは粘着性の高い酸性毒液を垂らし、ギチギチと不気味な顎鳴らしを響かせていた。


【魔物種:アーマード・バイパー】

【個体LV:9】


「おいおい、LV9かよ……。通りでデカいわけだ」


俺――天羽悠人は、通学カバンを片手で軽く持ち直しながら、コンビニ駐車場の入口付近で立ち止まった。


あのレベルの魔物となると、一般の探索者や自衛隊でも複数人でパーティを組み、前衛と後衛でしっかり役割分担をしなければ手こずる相手だ。


実際、逃げ遅れた生徒たちの中の男子一人が、必死に剣型のスキルを発動して応戦しようとしていたが――。


「喰らえっ! 【スラッシュ】ッ!」


刃状の光圧が打ち出されたものの、アーマード・バイパーの黒い甲殻に弾かれ、カンッと甲高い金属音を立てて掻き消えた。


「嘘だろ……!? 俺のSkill Lv.2の【スラッシュ】が、傷一つつかないなんて……!」


「嫌っ……! 誰か、誰か助けてええっ!」


絶望的な悲鳴が駐車場にこだまする。


アーマード・バイパーが鎌首をもたげ、逃げ場を失った三人に向かって太い前脚を振り上げようとした、まさにその時――。


「はぁ……。通学路を塞がれると、俺が遅刻扱いになるんだよな」


俺は深くため息を吐き出すと、そのままポケットに両手を突っ込んだ状態で、すっと歩みを進めた。


武器も構えず、防具も身につけず、制服のままでフラフラと近づいてくる俺の存在に、追い詰められていた女子生徒が気づく。


「え……!? 天羽……くん……!?」


どうやら同じ二年の生徒らしく、俺の名前を知っていたようだ。


男子生徒が青ざめた顔で絶叫する。


「逃げろ天羽! こいつはLV9の化け物だ! お前みたいな無能力者が近づいたら一瞬で殺されるぞ!!」


「無能力者扱いとは、相変わらずひどい言われようだな」


俺は苦笑交じりに呟きながら、アーマード・バイパーと生徒たちの間に割り込んだ。


アーマード・バイパーの真っ赤な目が、新たな獲物である俺へと向く。ギチギチと不快な顎鳴らしを立てながら、容赦なくその太い前脚を振り下ろしてきた。


「シネルッ!」と言わんばかりの猛烈な風切り音。


「天羽ーーーッ!!」


生徒たちの悲鳴が重なる。


だが――俺は避ける動作すら起こさなかった。


「発動」


俺が心の中で静かに一言念じた瞬間。


【スキル:神】によって解放されている第三のゴミスキル――【発砲(極微)】(Skill Lv.1)が起動する。


本来の【発砲(極微)】は、指先からパチンと爆竹が弾けた程度のごく僅かな衝撃波と風圧を生み出すだけの、おもちゃのようなスキルだ。威力的にはハエを追い払うのが関の山で、当然MPを消費してまで使う価値など微塵もない。


だが――俺の反則仕様(MP消費0・クールタイムゼロ)においては、その「おもちゃ」が凶悪な兵器へと化ける。


ババババババババババババババババババババババババババババババッ!!!!!!!!


空気そのものが激しく爆砕するような重低音が、駐車場全体に響き渡った。


俺の指先ではなく、全身を起点とした全方位空間から、毎秒数万回という異常な密度の微小衝撃波が連射・叩きつけられたのだ。


「グガッ……!?!?!?」


振り下ろされようとしていたアーマード・バイパーの巨大な前脚が、空中でピタリと停止した。


いや、停止したのではない。


あまりにも密度の高すぎる【発砲(極微)】の風圧と衝撃波の物量弾幕によって、前脚そのものが押し戻され、逆関節の方向へとへし折れていたのだ。


「ガアアアアアアッ!?」


苦悶の絶叫を上げる怪物。


しかし、俺の連射は止まらない。停止する理由がないからだ。


さらにそこに、前回試したコンボ――【微動(極小)】による微細砂利の超音速切削と、【温熱(微弱)】の秒間万単位による熱量重畳を加算する。


バババババッ! カカカカカッ! チュドォォォォンッ!!


黒光りしていた頑丈な甲殻が、まるでミキサーにかけられた紙粘土のようにドロドロに削れ、焦げ付き、内部の肉組織ごと破砕されていく。


「な……なにが……何が起きてるんだ……!?」


「天羽くんが……何も手を出してないのに……怪物が……崩れていく……!?」


横転した車の陰で見ていた生徒たちが、顎が外れそうなほど口ぐぐぐっと開けて開いたままで固まっている。


彼らの目から見れば、俺はただポケットに手を突っ込んで立っているだけにしか見えないのだろう。


だが、俺の視界の中では、ノータイムで生成され続ける何十万というスキルの重複発動が、物理法則を力ずくで書き換えるほどの「圧力の壁」となってアーマード・バイパーを磨り潰していた。


「……これで終わりだ」


俺が目線を少し上へずらす。


アーマード・バイパーの頭部へ集中砲火(秒間五万連射)を流し込んだ。


ボカァァァンッ!!


激しい衝撃音とともに、LV9の大型魔物の頭部が跡形もなく吹き飛び、巨体がドスンと駐車場のアスファルトを揺らして倒れ伏した。


数秒の静寂の後、巨体は青い光の粒子となって分解され、路上には拳ほどもある大きな魔石が転がった。


【経験値を獲得しました】

【個人LV:3 ➔ 4 に上昇!】

【スキル:神 熟練度獲得:0.000005%】


「お、個人レベルが上がったな。……まあ、肝心のスキルの熟練度は相変わらず微増だけど」


俺は軽く息を吐き、転がった大きな魔石を拾い上げてポケットに収めた。


「……あ……あ……」


呆然と立ち尽くしていた男子生徒が、膝から崩れ落ちるようにアスファルトへ座り込んだ。


女子生徒は震える瞳で俺を見つめ、蚊の泣くような声で呟く。


「天羽……くん……。あなた、一体……どんな強いスキルを隠していたの……? 精神攻撃……? それとも無詠唱の最上位概念魔法……?」


「は? いや、別に隠すも何も……」


俺は困惑気味に首をかしげた。


「ただのゴミスキルだよ。【発砲】とか【微動】とか、Lv.1のやつ」


「んなわけあるかぁぁぁぁッ!!」


座り込んでいた男子生徒が、血相を変えて叫んだ。


「Lv.1の初期スキルでLV9のアーマード・バイパーが秒殺できるかよ! 俺のSkill Lv.2【スラッシュ】すら傷一つつかなかったんだぞ!? 無詠唱で空間を破壊するような真似をしておいて『ゴミスキル』なわけがないだろ!!」


「いや、本当だって。ほら、ステータス見せるわけにはいかないけどさ」


俺が本当の仕様(MP消費0・CTなしの連射)を説明したところで、誰も信じないだろうし、説明するのも面倒くさい。


第一、ここで変に目立って「救世主」だの「最強の能力者」だの持て囃されるのは一番困るのだ。俺は静かにマイペースな高校生活を送りたいだけなのだから。


「まあ、助かったならそれでいいだろ。じゃ、俺は遅刻しそうだから先に行くわ」


「あ、待って天羽くん! 私たちと一緒に――」


「じゃあな」


俺は呼び止める声を背に、通学カバンをひょいと担ぎ直すと、さっさと駐車場の裏手から校舎へと続く抜け道へと歩き出した。


(あー……絶対に変な噂が広まるパターンだな、これ……)


後ろで生徒たちが「あいつは陰で世界を救う隠者なんだ……」「自分の強さを誇示しない本物の英雄だ……」などと勘違いを爆発させてヒソヒソ話し合っている声が聞こえてきたが、俺は聞こえないフリをして聞こえよがしにため息をついた。


「まったく、静かに学校へ行きたいだけなのに……世の中うまくいかないもんだな」


秋の少し冷たい風が、荒れ果てた街並みを吹き抜けていく。


俺は自分のマイペースな日常を守るため、これからも地道に【スキル:神】の熟練度を稼いでいこうと、改めて心に誓うのだった。

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