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起きたら通学路に魔物がうろつくようになりました。  作者: K4


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第19話:天羽様・完全攻略マニュアルの誕生

黒蛇組が壊滅した翌朝も、北条高校の周辺はどこか奇妙な静けさと活気に包まれていた。


正門前では、「東町サバイバーズ」の武藤剛造を中心とした男たちが、昨日まで使われていた黒蛇組の装甲車の残骸を綺麗に片付け、通行しやすいように道路の瓦礫をテキパキと撤去している。


その顔つきは以前の怯えた様子が嘘のように晴れやかで、まるで一流のプロ警備集団のような手際よさだった。


「おい、そこのバリケードの角度をもう少し緩やかにしろ! 天羽様が自転車でスムーズに通れるようにするためだぞ!」


「了解です、武藤さん! ……あ、そうだ、昨日市ヶ谷の自警団からお礼の物資が届いてます!」


「よし、それはすべて『第一倉庫(天羽様専用備蓄庫)』に厳重に保管しておけ!」


彼らにとって、天羽悠人はもはや「高校生」という枠組みを超え、この地域の存亡を握る絶対的な神格として崇め奉られていた。


一方、校舎内の2年B組の教室。


窓際の席に座る悠人は、持参した水筒のお茶を一口飲みながら、小さく欠伸を噛み殺していた。


「ふぁあ……なんか、朝から外がやけに騒がしいな。おじさんたち、また道路の掃除してるよ」


悠人がのんびりとした感想を漏らすと、隣の席の佐伯葵が苦笑いを浮かべながらノートを閉じった。


「そりゃそうよ、悠人くん。昨日の今日だもの。黒蛇組みたいな大きな武装勢力が一瞬で消え去ったんだから、サバイバーズの人たちも気が気じゃないのよ」


「ふーん。まあ、静かに暮らせるなら別にいいけどさ」


悠人が肩をすくめると、教室の前方から何やらキリッとした足音が近づいてきた。


振り返ると、そこには血色の良い顔をした桐島蓮が、なぜか分厚いルーズリーフの束を両手でしっかりと抱え込んで立っていた。


「お、おはよう、天羽……っ!」


「おっ、おはよ、桐島。その束のやつは何?」


悠人が首をかしげると、桐島はゴクリと唾を呑み込み、周囲のクラスメイトたちに目配せをした。


教室内にいた警戒班のメンバーたちが一斉に背筋を伸ばし、直立不動の姿勢をとる。


「これだ……っ!」


桐島が差し出したルーズリーフの表紙には、黒マジックで太く力強い文字が書かれていた。


【天羽様・完全攻略&平穏維持マニュアル(初版)】


「……なになに、これ」


悠人が目を丸くして表紙を眺めると、桐島は熱のこもった瞳で語り始めた。


「いいか、天羽! 我々2年B組は、この過酷な世界において『理の化身』であるお前を怒らせず、いかにその平穏な日常を死守するかを全会一致で討議し、このマニュアルを編纂したんだ!」


「いや、大げさだな……っていうか、何が書いてあるのこれ」


パラパラとページをめくる悠人。


中身を覗き込むと、そこには驚くほど詳細な項目が並んでいた。


第一章:起床と朝食の作法(※ブタメンを作る際は必ずお湯を切らさぬよう全力を尽くすこと)


第二章:買い出し時の心得(※竹内駄菓子店のあんこ玉の在庫が切れた場合、全力を挙げるのではなく天羽様の機嫌を損ねぬよう静かに見守る)


第三章:外敵への対応(※魔物および武装勢力が侵入した際、天羽様に一歩も近づけず、半径二〇メートル以内に侵入した時点で速やかに排除・逃走すること)


第四章:会話における禁忌(※「大変な状況ですね」等の不安を煽る発言は厳禁。「今日もいい天気ですね」等の日常会話に徹すること)


「……なんだこれ、めちゃくちゃ細かいじゃん」


「当然だ! お前の平穏こそが、この北条高校……いや、このエリア全体の秩序の礎なのだからな!」


桐島は胸を張って力説する。


クラスメイトたちも「その通りだ!」「絶対遵守だ!」と一斉に大きくうなずいた。


悠人は呆れたようにため息をついたが、まあ誰も自分に面倒な仕事を押し付けてこないのなら、別にこの変なマニュアルとやらに目くじらを立てることもまいか、と内心で納得した。


「まあ、みんなが静かにしてくれるなら、何でもいいけどさ」


「おおっ……! 天羽様から『何でもいい』のお許しが出たぞ……ッ!!」


クラスメイトたちが感涙にむせぶ中、教室の黒板の脇に設置されていた古い校内放送用のスピーカーが、突如として奇妙なノイズ音を響かせた。


――ザ……ザザッ……!


「き、聞こえるか……!? こちら、生き残りはいないか……っ!」


スピーカーから聞こえてきたのは、これまでの聞き慣れた声とは違う、切迫した若い女性の焦燥に満ちた声だった。


「ここは『都立西武園(せいぶえん)プラザ』臨時避難所……っ! 周囲を数百体の新型魔物に囲まれ、もう一時間も持たない……っ! どなたか……近くに生存している武装組織や能力者がいたら、どうか救助に来てくれ……っ!!」


教室内の空気が、一瞬でピリッと引き締まった。


桐島が素早くスピーカーを見上げる。


「……西武園プラザだと……? ここから北西へ十キロ以上離れた、巨大な商業施設じゃないか……!」


避難所からの緊急SOS。


はたして、この遠方からの救助要請に対して、マイペースを貫く悠人はどう動くのか――。

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