第18話:理不尽な制裁と、日常への帰還
「死ねぇぇぇッ、ガキがぁぁぁーーッ!!」
赤い魔力のスパークを撒き散らしながら、黒蛇組組長・蛇島 巌の身の丈を超える大剣が、上空から悠人の脳天目掛けて振り下ろされた。
両腕の魔導装甲が放つ出力は限界を超え、大気を焼き焦がすほどの熱量が校庭全体を包み込む。
直撃すれば、人間など影も形も残らず肉塊へと変わる凶威の一撃。
だが――悠人は空いた左手で、頭上から迫る大剣の刃先を、まるで飛んできたハエでも叩き落とすかのように横から軽く払った。
【石ころを1ミリだけ浮かせることができる】
――点接触・高密度超振動衝撃波。
パシィンッ!!
澄んだ乾いた音が校庭に響く。
その瞬間、蛇島が誇る巨大な大剣は、先端から根元に向けて一瞬で分子レベルで破砕され、無数の鉄くずとなって風に散った。
「な……っ!? 俺の……超鋼鉄の大剣が……ッ!?」
衝撃は剣だけに留まらない。
振り下ろした勢いのまま体勢を崩した蛇島の両腕に装着されていた魔導装甲が、内部の魔導回路ごと一気に逆流・爆縮を起こす。
ボカァンッ!!
「ギャアアアアアアアアッ!?」
両腕のガントレットが木端微塵に弾け飛び、蛇島の巨体はそのまま猛烈な衝撃波に煽られて、校庭の砂利の上を激しくゴロゴロと転がっていった。
十数メートルほど転がり、ようやく止まった蛇島は、全身泥と血に塗れてピクピクと痙攣していた。
両腕の装備を失い、自慢の力も砕かれ、もはや指一本動かす気力すら残されていない。
「ひ……ひぃぃぃっ! 組長が一瞬で……っ!」
「化け物だ……本当の化け物だあぁぁっ!!」
残されていた黒蛇組の構成員たちは完全に戦意を喪失し、悲鳴をあげながら脱兎のごとく正門の外へと逃げ出していった。
悠人は走り去るならず者たちを追おうともせず、パンパンと両手を軽く払った。
「ふぅ。これで少しは静かになるだろ」
悠人が呆れたように呟いていると、校舎の物陰から恐る恐る顔を出した「東町サバイバーズ」の武藤剛造たちが、感動に震えながら駆け寄ってきた。
「あ……あの方のお力を前にすれば……警察の重装備を奪った黒蛇組すら一瞬の羽虫に過ぎないというのか……っ!」
「天羽様……! 我らの不甲斐なさによりご迷惑をおかけし、真に申し訳ございませんでしたっ!!」
武藤たちは地面に頭を擦り付け、涙を流して感謝と謝罪を捧げた。
「いや、おじさんたちも怪我なさそうでよかったよ。……あ、そうだ。あいつらの車、邪魔だから後で正門からどかしておいてね」
「は……ハッ!! 直ちに撤去作業に取りかかりますっ!!」
何事もなかったかのように校舎へ戻ろうとする悠人。
二階の窓辺から一部始終を見届けていた2年B組のクラスメイトたちは、ただただ絶句していた。
「黒蛇組が……壊滅した……」
「大剣を……手で払っただけで粉砕したぞ……」
「やっぱり……天羽の日常を邪魔する奴は、魔物だろうが人間だろうが容赦なく排除されるんだ……」
桐島蓮は確信に満ちた目で深く頷き、黒板の夜間警備表に「※黒蛇組の残党警戒」と静かに追記した。
昇降口を通って教室へと戻ってきた悠人は、自分の席に腰を下ろすと、机の上に置かれていた『あんこ玉』の最後のケースを眺めた。
「よし、邪魔者もいなくなったし、ゆっくり過ごすとするか」
隣の席で葵が呆れたような、けれどどこか安心したような笑顔を浮かべて声をかけてくる。
「お疲れ様、悠人くん。本当に……あっという間に片付けちゃったのね」
「まあね。静かなのが一番だよ」
悠人は能天気に笑うと、窓の外に広がる秋の空を眺めた。
狂ってしまった世界の中で、天羽悠人の「どこまでもマイペースな日常」は、これからも変わらずに続いていくのだった。




