第17話:静寂の校庭と、不快な騒音
校舎の階段を下りながら、悠人は耳の奥でまだキーンと残るメガホンの大音量を不快そうに思い出していた。
校門前で倒れていたサバイバーズのおじさんたちを蹴り飛ばし、大音量で脅迫を垂れ流す黒蛇組と名乗る集団。
せっかくの食後のあんこ玉を穏やかに味わっていた悠人の平和な時間を台無しにした罪は重い。
「まったく、静かに話せないのかねあのおじさんは……」
昇降口の重い扉をガラガラと開け、悠人は泥と履物の跡で汚れた校庭へと一歩を踏み出した。
校庭には、警察の武器庫から奪ったという高出力の魔導ライフルを構えた重武装の黒蛇組の構成員たちが、隙なく陣を張っていた。
中央に鎮座する重装甲車の前で、組長の蛇島 巌が、大剣を地面に突き立てて凶悪な笑みを浮かべている。
「ハッ! 命惜しさに一人で降りてきたか、天羽とかいうガキ! ほう……案外小さくてひ弱そうな男じゃねぇか」
蛇島は冷酷な目で悠人を見下ろし、鼻で笑った。
「おいガキ。この学校の生存者と物資をすべて俺たちに差し出せ。拒否するなら、お前を皮切りに一人ずつ見せしめに殺して――」
「ねえ、おじさん」
悠人は蛇島の長々とした威嚇をあっさりと遮った。
「声がデカすぎて2年B組まで丸聞こえなんだよ。あと、校庭で暴れられると砂ぼこりが舞って、せっかくのあんこ玉にジャリッて砂が入るからやめてくれない?」
「……あ?」
蛇島の顔から笑みが消えた。
自分の命はおろか、武装集団の威圧すら一微塵も意に介さず、「メガホンの音量」と「あんこ玉の砂」に文句をつけてくる眼前の高校生。
「……てめぇ、俺が誰だか分かって言っていやがるのか……! 今すぐその生意気な口を二度と開けないように叩き潰してやるッ! やれ!!」
蛇島の怒号とともに、前衛の構成員三名が魔導ライフルを構え、至近距離から悠人に向けて引き金を引いた。
青白い魔力の光弾が、空間を切り裂いて悠人の頭部と胸部へと殺到する。
だが。
悠人はポケットに両手を入れたまま、ただ深く溜め息を吐いた。
【石ころを1ミリだけ浮かせることができる】
――全方位・超高速微細指向性振動波。
ドババババッ!!
放たれた魔導光弾は、悠人の数センチ手前で目に見えない高振動の壁に衝突し、光の粒子となって爆砕・消滅した。
「なっ……魔導ライフルが防がれた……!?」
「バカな! 障壁の展開動作すら無かったぞ!?」
構成員たちが動揺で凍りつく中、悠人は一歩、前へ踏み出した。
「だから、静かにしてって言っただろ」
その一歩を踏み鳴らした瞬間。
――ズドォォンッ!!
悠人の足元から放たれた衝撃の波が、校庭のアスファルトを伝って黒蛇組の足元へと奔走した。
「ギ……ガァァッ!?」
魔導ライフルを構えていた構成員三名の武器が一瞬で超音速微振動によって粉々に破砕され、そのまま彼らの全身を不可視の衝撃波が吹き飛ばした。
三名の巨体は校庭の端まで吹っ飛び、意識を失って沈黙した。
さらに余波の微振動は、後ろに控えていた重装甲車にも容赦なく到達する。
バリバリバリバリッ――!!
重厚な特殊鋼の装甲板が、まるで薄い紙くずのように一瞬で歪み、ひしゃげ、エンジン部分から爆煙を上げて完全機能停止へと追い込まれた。
「ひ……ひぃぃぃっ!?」
「装甲車が一瞬でペシャンコになったぞ……!?」
「な、なんだあのバケモノは……! 手も触れずに……っ!!」
残りの構成員たちが、圧倒的な不条理を目の当たりにして悲鳴をあげ、武器を捨てて退散しようと後退し始める。
蛇島だけが、目を血走らせて突き立てた大剣を構え直した。
「くっ……ふざけるなッ! この俺が……黒蛇組の蛇島様が、ガキ一人のハタリに屈するわけがないだろうがぁぁッ!!」
蛇島は両腕の魔導装甲をフル稼働させ、赤い魔力のスパークを撒き散らしながら、一気に悠人の懐へと跳躍した。
身の丈ほどの巨大な大剣が、悠人を真一文字に真っ二つにせんと振り下ろされる――。




