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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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9/12

「どうぞ」


 入って来たのは、学園長だった。


「やぁ、ダイアナ君。少し時間を貰ってもいいかね?」

「はい、学園長」


 私は立ち上がり、カーテシーで出迎えた。


「君に謝罪したい事がある、席に座っても?」

「はい、どうぞ」


 お互い執務机を挟んで向かい合う。


「まずは、レオン殿下に屈し、学園として君を犠牲にした事を詫びる」

「何がですか?」


 まったく思いつかず、私は尋ねた。

 私の言葉に、学園長は微笑んだ。


「君らしいな。無自覚で婚約者だからと、殿下の愚行の全てを引き受けてくれていた。君がここに隔離された途端に、この学園は大変な事になったよ」

「まあ、野放しですからね」


 ギル様も対応に走り回っているらしいが、あくまで後処理であって、制止をする事は出来ない。

 正面きって注意などしようものなら、ここぞとばかりにレオン様が暴走するだけでなく、レオン様の派閥の者たちも荒れるだろう。


(中間管理職のサラリーマンみたいだ)


「明日の卒業式にも、レオン殿下より横槍が入っている。君を最前列の正面に座らせ、卒業生女子生徒代表の役を、君から別の女性にせよとのお達しだ」

「別にいいですよ?レオン様と一緒に壇上に上がるのも嫌ですし、前列だと見学しやすいですから」


 あっ、でも居眠りできないな。

 私とは別の意味で、困った顔の学園長は、額の汗を拭く。


「卒業パーティーには、国王陛下も来られる。そこで、私や教員の意見をまとめたんだよ。今後一切、この学園内における生徒の平等を厳守し、教員の指示に従う事という一文の嘆願書を手渡そうと思っている」

「陛下なら、きっと受け入れて下さいますわ」


 一応、今ですらその校則はあるのだが、国王陛下のお墨付きとなると、厳格化される事だろう。

 つまり、レオン様のような権威を笠に着た悪さは、もう出来ないという事。


「ですが、陛下に直接など……一歩間違えれば、学園長の首が飛びますよ?きちんと国の機関を通された方が」

「いいや。私も我慢の限界だ。とうとう、レオン殿下は図書室を私物化しただけでなく、女生徒を連日連れ込み風紀を乱す日々」


 あー静かだし、個室もあるから丁度良かったんだなと、遠い目になる。


「こちらの本気を伝える為に、私の首をかけてでも、陛下にご理解頂くよ」

「決意表明をしに、ここへ?」

「違う。君に感謝と謝罪だ」


 学園長は、胸元から手帳を取り出し執務机に置いた。


「新しい手帳を買ってね。これは使いかけだが、もう不要なんだ」

「そうですか、ええっと」

「君にお詫びとしてあげよう。好きに使いたまえ。勿論、それは元々私の私物だったのだから、責任は全て私にある。君に託すよ」

「どういう意味でって……ちょっと待って下さい」


 学園長は立ち上がり、一人スタスタと部屋を出て行った。

 残ったのは、古ぼけた手帳と私だけ。

 嫌な予感がしながらも、私はパラパラと貰った手帳を見て、すぐさま閉じた。


「だから、どうしてみんな……」


 こめかみを揉みながら、私は最後の一組を待つ間、ひたすら考え込んでいた。

 手元にあるのは、私のノートと一年生の感謝状と二年生のレポート。

 そして、押し付けられた学園長の手帳が一冊。


「もしかして、私とんでもない爆弾抱えてしまってる?」


 タラリと冷や汗が流れ、とりあえず紅茶をゴクゴクと飲んで落ち着いた。

 扉がノックされる。

 泣いても笑っても、これが最後だ。

 一か月、お疲れ様ダイアナ。そう私は自分を褒めてあげた。


「どうぞ」


 扉が開き、入ってきた姿に私は首を傾げた。


「あれ?ギル様」

「最後は俺だ。いいなダイアナ」


 そう言って、こちらに向かってくる。

 きちんと顔を認識するようになって思うのだけど、この人の顔は悪くないのよね。

 有能だし、存在感が薄いわりに、地味な仕事もコツコツやるし、気配りも得意。

 嫌われもしないし、じわじわと騎士の人望もある。

 むしろ、兄がアレだから余計に良く見えるのもあるが。


 向かいの椅子に腰かけて、豚の貯金箱の投入口のテープをピリリと外したギル様は、チャンリとコインを投入すると、再びテープで封をする。


「何してるんですか?」

「たまたま可愛い豚がいたので、たまたま余っていた10ディナールを投入した」

「律儀だなぁ」


 私のボヤキに、優しく微笑み返してくれた。


「お代を払えば、ちゃんと話を聞いてくれるんだろ?」


 つい、私はクスリと笑ってしまう。

 ギル様の視線は、机に出しっぱなしだったノート類に目がいく。


「これは?」

「あ、何か貰っちゃって……てへ」


 やばいと隠そうとしたが、一足遅かった。

 ギル様は、その全てを一瞬で奪い取り、一つ一つを丁寧に確認していった。


「あの……あと五分です。読むばかりでなく、お話しませんか?」

「……」

「今後の事について、お話したいんですが。私やっぱり、一人で……」

「ダイアナ、少し待て」

「はい」


 きっぱりと命令できるギル様は、間違いなく王族過ぎて、反射的に私も従ってしまう。

 全てに目を通したギル様は、冷静な瞳で私を見つめた。


「これが何かわかるな?」

「……はい、全て告白として証拠になりえるものです」

「君は、彼らに兄上の怒りが飛ぶのを恐れていたが、むしろ俺は彼らこそ告発するに相応しいと思っている」

「レオン様に、道理や情は通じません」

「兄上には通じなくても、国に正道は通じる。何より、君にこれを託した者たちの気持ちを無視するのか?」


 そう言われて、私は頭を殴られたようにショックを受けた。

 固まる私の頬に、向こうからギル様の手が伸びる。


「俺が引き受ける……全て。だから守るよ」

「私……私だけが守られても……」

「わかってる。ちゃんとみんなを守る」

「ギル様……」


 身を乗り出した彼の唇が、私に重なった。

 何度も小鳥のように、ついばまれる。


「私は、あなたが心配なんですギル様」

「ありがとう。いざとなったら、ちゃんと追放されような?」

「ですから、あれは冗談で!」


 慌てる私に、ハッキリと告げられた。


「このまま見過ごして我が身を守っても、ゆくゆくは兄上に邪魔者として処分されるよ」

「っ……」

「だろ?」


 悲しそうに尋ねられた内容を、私は否定できなかった。

 やるだろう、レオン様なら。

 私は静かに唇を噛み、覚悟を決めた。


「これを使って下さい」


 私は引き出しからも、残っていた資料を全て差し出した。


「私があなたに託します!あなたならきっと、この国の為に使って頂けるはず」

「ダイアナ」


 彼の瞳に私が映る。ああ、それだけで幸せだ。


「次期国王の改心を、それがこの国の未来のためになります」

「俺に託して、いいんだな」

「もう、思いっきりやってしまって下さい!」


 私は立ち上がって、拳をあげた。


「あなたは影なんかじゃないです!私の恋の太陽です!」


 ポカンとしたギル様、部屋はすぐに笑い声に包まれた。


「あはははっ!頑張って前に出るよ!」

「だからそれは……、もういいです」

「愛しいダイアナがいれば、俺には何も必要ないかも」

「それは……」


 王族として駄目だと告げようとした瞬間、唇に指が当てられ制止された。


「わかってる。大丈夫だから……そんな泣きそうな顔しないで」


 自分でも気づかなかった。だって、レオン様と戦うという事は、何より彼を危険に晒す事。

 だけど私は、彼こそが相応しいと思ってしまったのだ。

 私だけでなく、彼が背負うべき重みを増やす道を、私は勧めてしまった。


「俺が決めた事だから……何も心配いらないって……参ったな」


 彼が再び、私の唇を奪う。

 このまま伝わる熱のまま、一つになってしまいたい。


 私の頬を指でなぞり、彼は苦笑した。


「俺のダイアナは、泣き虫さんだな」


 私はその日、初めて家族以外の人前で泣いた日だった。


 ***


 その晩に、久しぶりに実家に帰る事になった。


「ただいま~元気だった?」

「おかえりなさーい」


 相変わらずの家族の姿に、私はホッと息をつく。

 やっぱり実家が一番だと、しみじみと夕食の時間は盛り上がった。


「それで、ハンナちゃんと一緒の国に行きたいのよ」

「えーっ、私は魚が食べたいから、あっちがいいわ」

「母さんがそう言うなら、子供たちとは別行動もいいかもなあ」

「父上、僕も長期休暇をとっていいですか?ちゃんと自習で学位はとりますから」


 旅行先では意見が分裂しつつ、割と前向きに追放を受け入れていた。


「まあ明日は父親である私だけが、参加する」


 母と弟は抗議したが、父は受け付けなかった。

 こちらを見て、親指をたてサムズアップで頷く。


「ちゃんと卒業するといい」

「はい!」


 頼もしく温かい家族、本当にこの家の娘で良かったと私は父に抱きついた。

 そして、とうとう卒業の日を迎えた。


 迎えに現れたギル様は、恭しく私の両親に軽く頭を下げた。


「おやめ下さい殿下!我々はどのようになろうと、王家の忠実なる臣下です」


 父が取り繕うが、弟はサッと旅行雑誌を背後に隠す。

 母も困ったわねと、首をかしげた。


「本当に、ダイアナを行かせてもいいのかしら?」

「はい、この身に代えても愛しい人は守ります」

「きゃーっ!」


 私だけでなく、家族一同が黄色い声をあげる中、私は顔から湯気を出してギル様を馬車に促した。

 家族の前で、羞恥で殺す気だろうか?

 せかせかと乗り込むと、馬車はすぐに走り出す。


 今日は午前中は講堂で卒業式。これは制服での参加になる。

 その後、午後の部から卒業パーティーが始まるのだ。


 卒業生は基本全員参加だが、それ以外の学年は任意となっている。

 また、パーティーのみ保護者参加が許可されていた。


 本来は、三年間の集大成としてパーティーに向けてドレスを用意するものだが、今回は私は辞退する事になる。

 というか、罪人だし?浮かれて出たとか噛みつかれるし?

 どうせ短気なレオン様の事だ。

 陛下が現れる前に、とっとと式の最中に私に引導を渡すだろう。


「私は罪人(仮)ですから、陛下の御前に出る事は叶いませんね」

「いや、むしろ本気でパーティーに参加しないつもりか?」

「まあドレスは最悪、制服参加でいいとして、パートナーの準備もしてません」

「いるだろ?」


 ん?どうして、ギル様はどや顔なの?

 あーわかった!


「レオン様と別れたハンナちゃんがいました!」

「どうして、そうなるんだ」


 ガクリとギル様は項垂れた。

 まあ午前中に片が付かなければ仕方ない。気乗りしないが、パーティー参加だ。

 それに……ちょっと、ギル様が心配だしね。

 目が合うと、困った顔でニッコリと笑われた。


 そして馬車がとうとう学園に到着した。

 今まさに、最後の舞台が始まるのだ。


 気合を入れて私は久しぶりに、クラスメイトたちと合流する。

 懐かしさで、話は尽きなかったが、皆が私の心配をしてくれた。


「陛下がきたら、私たちが言ってやります!あの息子はどうなってるんですかって!」

「駄目よ、不敬罪よ。その気持ちを胸に、良い国になるように卒業後も頑張って頂戴」


 私は国外追放されて、のんびりバカンスしながら推しを追いかけ回します。

 落ち着いたら、時々ギル様に会いに来よう。やっぱり寂しいし。


 そして卒業式が始まった。

 学園長の挨拶の後、卒業生代表が男女並んで壇上に上がる。

 案の定、レオン様とソーニャさんなので、新鮮味も何もなく。


 最前列の、一番真ん中の私の正面で、なぜかイチャイチャする二人を、無の気持ちで観察した。

 たまに二人でチラチラこっち見るの、辞めて欲しいなぁ。

 背後から、ヒソヒソと声が聞こえる。


「ソーニャ様ったら、下から数えた方がいい成績よね?」

「主席のダイアナ様が本来壇上に……ああでも、レオン様の横は不似合いね」

「レオン様って、テストをいつも白紙で出すのに、王族だから代表なの?なら、もう一人いたような?」


 おーい、影が薄すぎて存在忘れられてますよ!もう一人のギル様。


 私は、レオン様が壇上での意味不明な演説が終わると同時に、私への断罪を今度こそ宣言してくれると信じていた。


 ワクワクと目を輝かせ、ほら早くとレオン様を見つめる。

 すると、マイクでキラキラと話していたレオン様が、ニヤリと目を合わせた。

 よし、来た!とっとと終わらせて、私を追放しなさい。


「では、諸君!皆も待ちかねているダイアナ・パレス及び、パレス侯爵家の件だが」


 よしきた、がんばれ馬鹿王子!私は、心の底からレオン様を応援した。


「まもなく我が父上も到着する。よって、卒業パーテイーにて、全ての罪を断罪する!」


 私を指さして、レオン様と腰に抱きついたソーニャさんは高らかに笑った。


「逃げるなよ!ダイアナ!」

「そんなーっ!」

「あはははっ、せいぜい心から私を常日頃、小言や余計な進言で煩わした罪を反省するがいい!」


 いやいや、とっとと終わらせてよ。結果によっては、急いで遠出の馬車や船の予約が必要なんだからさ。

 ガックリと私は項垂れた。

 あまりの落胆ぶりに、周囲も私に近づく事すら出来ず遠巻きにみている。


「ほらみんな、彼女は任せて、パーティーの準備に行ってくれ」


 どこに馴染んで空気になっていたのか、ギル様が現れた。

 それと……。


「ダイアナ様、大丈夫ですか?」


「ハンナちゃあぁぁーんっ!」


 凄い勢いでハンナちゃんに飛びついた私は、クンカクンカと可愛さ推し成分を吸収した。


「おい……俺もいるんだが?」

「ああ、ハンナちゃん!とっとと終わらせてくれたらいいのに、何あれ、あの馬鹿!」

「ダイアナ様、落ち着いて?ほら、誰が聞いているか、わかりませんし」

「だから、俺の存在に気づいてるのか!」

「あ、いたんですねギル様」


 なぜか落ち込むギル様を放置して、私は気のすむまでハンナちゃんに、ヨシヨシして貰った。

 最高です、至高です、推し最高!


「生きていて良かったぁ」

「では行きましょうね」

「え?」

「ほら、行くぞ」



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