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断罪予定の悪役令嬢は、とりあえず皆の意見を聞く事にしました~拝聴料10分10ディナールです~  作者: 西野和歌


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8/12

 そして迎えた卒業式前日、迎えに来たギル様といつもの朝。

 なのに変に意識してしまい、自分の情けなさに馬鹿馬鹿と心で罵っていた。

 ガタガタと、馬車はいつも通り学園に向かう。

 向かい合うギル様は、腕を組んでこちらを見ているのがわかる。だから見ないでってか、見るな。


「いつもと違う」

「いえ、イツモドオリデスヨー」


 片言の異国人みたいになった。

 だって、昨日いきなり告白されて、あげく両想いになったあげく、事故チュウだよ?

 人生初の恋が、数時間で成立してしまった。


 私の対応が気に入らなかったのか、ドスンとギル様は私の横に移動してきた。

 って、レオン様が近づいた時は、どう撃退してやろうかワクワクしていたのに、まったく違う。

 むしろ、ヘタすると私がやられそうだ。


「か……かかってこい。負けない」

「ああ、勝とうな」


 私の手を横からギュッと握って、ギル様は呟いた。


「明日には父上が、卒業パーティーに来られるそうだ」

「陛下が?」


 私は我に返り、ギル様の顔を見た。

 途端にまた、顔を伏せてしまう。

 だって、目が合った途端に優しく笑うとか、反則技よあれ。


「父上に状況報告を届けた。ただし返事は、戻って詳細を確認してからだそうだ」

「そうでしょうね。きっとレオン様が、ない事ない事を都合よく報告してるでしょうから、互いの報告の乖離がひどいのだと思います」

「こちらは、事実をきちんと伝えるだけだ。父上なら、正しさをわかってくれる」


 私は、握られた手が持つ重みを知ってる。


「陛下は正しさを見極められても、王家の恥を晒すのはまた別の話です。権威が揺らぐ事こそ、避けねばなりません」

「……あれでも、一応王位継承者だからな。だが、そこもちゃんと対策済みだ」

「対策?」


 流石の私にも、どのような対策かわからず、ギル様を見た。


「やっと、目を合わせてくれた」

「あっ、その、恥ずかしくて」

「それは、昨日キスしたからか?」


 ギル様の顔が近づいて来る。


「昨日、後悔しないと言ったのは撤回する。事故で口づけした事を後悔している」

「えっ!」


 ズキリと胸が痛む。

 大きく目を見張って硬直した私の隙を見て、サッとギル様が顔を重ねた。


 温かなのに、少し乾いた大きな唇が、私の震えた唇を塞ぐ。

 驚きすぎて、私は目を瞑る事もできない。


 彼の深い緑の瞳も、ジッとこちらを伺っている。

 どれ程の時間だったのか。

 名残惜しげに離れた瞬間に、私は止めいた息を紡ぐ。


「っはあ、はぁ」

「事故じゃなく、ちゃんと君に口づけしたかったんだ」

「待って、刺激が凄すぎる」

「あと、ダイアナ。君は完璧なマナーを身に着けているはずだが、一つだけ失格だ」

「失格?」


 何が起こったのか混乱している私を、楽しそうにギル様は笑う。


「キスの時は、目を瞑るものだ。はい、やり直し」

「ひえっ、えっ?」


 またもや顔が近づき、重なった唇。

 私は言われるがままに、目を閉じた。

 ……それから、どうなったと思う?


 馬車が学園に到着するまで、練習だ慣れだと何度もキスのレッスンが続きましたとさ。

 お陰で、朝からフラフラです。はい。


 朝からボーッとしたまま、私は待機時間を過ごしていた。

 何度もキスを思い出しては、きゃーっ!と悶え苦しんだ。


 これを体験したら、毎度色んな女にキスしまくってるレオン様って、実は凄いと錯覚してしまう。

 いや、奴は下半身で生きているだけだ。

 本能のままに自由に生きれるって、でも才能じゃない?

 それに比べて、理性がある代わりに損な役回りなんだよな……ギル様。

 思考はグルグルと回る。


「はっ!私気づいたら、ギル様の事ばかり考えてる」


 これが恋なのかしら~と、また悶えていると、あっという間に拝聴の時間だ。

 思えば、この一か月楽しかったなぁ……と感慨にふける。


 旅行雑誌は読み込んで付箋だらけだし、漫画も小説も全巻読破した。

 途中で暇すぎて、遠い異国語のビリビリ語講座もマスターしてしまったし、南国対策もバッチリだ。


「縄跳びも三重跳びを百回クリアしたし、一人あやとりも……ブツブツ」


 そして最後の一日がスタート。扉がノックされた。


「はぁい、どうぞ」


 入って来たのは、一年生の男女だった。

 なぜか畏まって、執務机の前に並んで立つ。


「さあ今日で最後よ。思う存分、言いたい事を言って頂戴」


 私の促しと同時に、二人は礼をした。


「一年生を代表して、お別れのご挨拶と、感謝を伝えに参りした」

「ほへ?」


 何が起こるんだろうと、私は目を丸くする。

 二人は、ガサガサと書状のように紙を取り出して語り出した。


「私たち一年生が、道に迷い目標に挫けそうになる中、ダイアナ・パレス侯爵令嬢ことダイアナ様は、時にはさりげなく、時には大胆に私たちを支えて下さいました」


 それは誤解だ。そんなつもりはなかったと訂正しようとしたが、ふと思い出す。

 ギル様に言われた言葉。


『彼らの心や言葉を、曲解して受け取るのは失礼じゃないか?』


 あえて彼らの言葉を、静かに聞いた。


「よって、私たち一年生一同は、今後のダイアナ様のご活躍をお祈りします!私たちを忘れないで下さい……以上」


 私は手をパチパチと拍手して、とりあえず締めくくった。

 涙ぐむ彼らを見て、素直に私を心配してくれたのだと嬉しくなって慰める。


「さぁ、泣かないで……これからも頑張りなさいね」

「ううっ、ダイアナ様」

「レオン王子はいなくなって安心ですけど、ダイアナ様がいなくなるのは辛い……」


 うんうん、可愛い子達だけど、レオン王子のは不敬だぞ?

 彼らが去り、私は受け取った感謝状を一人じっくりと眺めた。


「まあ、予期せぬ所で人の役に立っていたなら、悪役令嬢も捨てたものではなかったかもね」


 丁寧に折りたたみ、私は次の生徒たちが訪れる時間まで、追放された際の持ち出しリストをカリカリと作っていた。

 そして、午前二組目の扉がノックされる。


「どうぞ」


 またもや二人組で、今度は二年生だったはず。

 二人は、またもや並んで礼をする。


「二年生を代表して、ご挨拶に参りました」

「え、ええっと、それはありがとう」

「では、失礼して」


 彼らは一年生とは違い、暗記してきているみたいだ。


「私たち二年生の側には、いつもダイアナ様がいらっしゃいました。私たちはダイアナ様を見習い、立派な三年生になる為に……」


 なぜか決意表明をされて、頑張れと声援の拍手をおくる。


「と言う訳で、今後このような事に自分たちで対処できるように、対策表を作りましたので、ご確認をお願いします」


 レポート用紙の束を渡されて、これは好きに活用して下さいと彼らは去った。

 とりあえず次は昼休憩なので、その時間までにパラパラと手渡されたレポートに目をやる。


「ん?この某王子をサンプリングしての対策って、間違いなくあの馬鹿よね?」


 書かれていた問題点は、全てレオン王子のしでかした出来事の羅列だった。


 ・授業を乗っ取り、権威を笠に自らの演説を始めた場合。対策、聞く価値がないので、皆で外に出る。

 ・図書室を突然独占し、女生徒を連れ込もうとした場合。相手女子の同意の有無を確認して、女生徒が集団で取り囲む。


「ぷはっ!たまに気配のない王族が近づいた場合は、対処は彼に任せるべしってギル様よね」


 気配なしの地味の癖に、実は頼られているギル様を思い出して、お腹を抱えて大爆笑した。

 私はレポートを読み終えて、トントンと紙をまとめた。


「いやあ、二年生は優秀ね。とっても上手にまとめてました」


 うんうんと、私はご満悦だ。

 チャイムが鳴り、昼休憩の時間となる。


「よく考えたら、ギル様とお昼休憩もこれでおしまいよね」


 そして明日には、追放されたら私は彼とはお別れだ。

 いや……ね?そりゃ、今は恋に浮かれて、追放されても一緒だよとか盛り上がったよ?

 でも実際に考えてよ、無理でしょ?相手は一応、王子様なんだから……忘れてるけど。


「王族に不和をもたらす事は許されないわ。それ位の矜持は私にもあるもの」


 でも文通位は許して貰えないかな?というか、お昼ご飯まだですか?お腹がすきました。

 一か月、ずっとギル様が律儀に運んでくれたのだ。

 親鳥を待つ雛のように餌付けされてしまった私は、勝手にこの部屋を出るなの言いつけ通り待つばかり。

 そして、待ちに待った扉がノックされた。


「はい、お昼ご飯どうぞ!」


 ご機嫌な挨拶に答えて入室したのは、ギル様ではない。


「きゃあああーっ!ハンナちゃーん!」

「あのっ、ギル様に代わって私が」

「うひゃあーっ、可愛い!可愛い!もう死にそう!」

「そんなに、お腹すいてたんですね」


 手に抱えていた袋から、ハンナちゃんはパンを取り出した。


「パンばかりですみません」

「とんでもない。ずっと差し入れありがとうハンナちゃん」

「一緒に食べていいですか?」

「うんうん!」


 喜びで飛び跳ねながら、私はとっておきの紅茶を入れた。

 パンの香ばしさと、美味しい紅茶。何より、目の前にいるのは推しハンナちゃん。

 もしかして私、明日死ぬの?最高すぎて、空より高く舞い上がってます。


 ニコニコと私は、ハンナちゃんとの会話を楽しんだ。

 主に卒業後のパン留学について、念入りにリサーチさせて貰う。

 なぜって、私もこっそり本気で同行予定だからです。


「きっとギル様が、レオン様の間違いを訂正してくれますわ」

「んーむしろ、むしろ婚約破棄はいいんだけど……」

「なら、国王陛下がきっと」

「陛下がとるべき道は、王家の威厳を守るか、息子を守るかね」


 ここまで騒ぎを広めた時点で、なかった事にはできない。

 次期王がレオン様である限り、この国の王権を守るためにはレオン様を守る。

 たかだか侯爵家一つと、王位継承者は天秤にはかけられない。

 つまり、このまま私を処分して、レオン様は陛下から叱られて反省させられるパターン。

 これが一番、現実的かつ無難なコースよね。


「私も、国外旅行を楽しむ予定なの。ハンナちゃんにも、会いに行くわね(ストーカーします)」

「嬉しいです」

「ところでギル様は?どうして代わりに?」

「明日に向けて、色々と忙しいそうです」


 うん頑張れ。そしてハンナちゃん派遣をありがとう。

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。


「私、ダイアナ様に出会えて良かった。ずっと憧れていたんです」

「そんな、むしろ私こそハンナちゃんに会えて……いいえ、存在してくれてありがとう!生きてるだけで尊いわ!」


 ハンナちゃんは、クスリと子リスのように笑う。


「いつも私を気遣って、守って下さってありがとうございました」

「私こそ、思い違いで馬鹿王子を押し付けて、本当にごめんなさいね」

「ふふっ、馬鹿って……あははっ」


 二人で笑いあった後に、ハンナちゃんは小さくため息をつく。


「レオン様も、最初は優しかったんです。ですから、優しい部分もあると思います」

「それは演技よ」

「それでも、優しくされたのは事実です。きっとレオン様も、ご自身に自信がないのだと思います」

「ハンナちゃん……なんて、なんて優しい子なのあなた!」


 ここぞとばかりに、私はハンナちゃんを抱きしめた。

 いいのよ、あんな馬鹿!馬鹿なんだから!

 ああ、ずっとこのまま抱きしめていたい、時よ止まれ!いっそこのまま拉致って逃げる?


 無情にもチャイムが鳴って、慌ててハンナちゃんは走り去る。


「では明日、ダイアナ様!」

「またね!ハンナちゃん!」


 パーティーは無理でも、式は出るとハンナちゃんと約束したのだ。


(最後に、馬鹿の顔見て笑って終わるのもいいかもね)


 思えば、この学園生活は楽しく充実した日々だった。

 もし私が記憶を持ってなかったら?シナリオなんて知らないままに、入学していたら?

 きっと今でも、あの馬鹿の横に私がいて、そしてハンナちゃんすら目もくれず、寂しく過ごしていたに違いない。


「そう思えば私、悪役令嬢で良かったかも」


 ハンナちゃんを虐げる為に、皆の注目を浴びるように工夫したし、根回しも兼ねて交流も深めたつもり。

 皆の中心であり高嶺の花となって、高らかに笑って君臨する。きっと出来ていたはずだ。


 皆は私に恐れおののき、渋々と私の悪行を見逃し、時には機嫌を取りに来る。

 そして、流石に見かねたレオン様が、ハンナちゃんを庇っていくうちに、恋が芽生えてレオン王子は改心するはずだった。


「一番大事な、レオン様の改心がない」


 残ったのは、ただの馬鹿。そしてハンナちゃんを苦労させた、私が一番の馬鹿。


 ノートをペラペラとめくり、そこに書かれた内容を何度も読み直す。

 ここは小説の世界。なのにノートには、それぞれの思いや出来事、王子への苦情や私への感謝。

 ただの悩み事から愚痴まで、生きた人たちの言葉が綴られている。

 私は静かに、ノートを閉じて眼を瞑った。


「ケジメのために、きちんと卒業式で断罪されるべきだわ」


 そして午後の部の扉がノックされる。

 残り、あと二組。


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